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三つ巴の恋愛戦争

 リンザローテの薦めで衣服店を訪れたアルトは、ひとしきり店内を見た後で特注制服の受付を行っているカウンターへと向かう。そこには幾つかのサンプル品が並んでおり、様々なオーダーに対応できるという旨の説明文も添えられていた。


「いらっしゃいませ、アルトさん。新しい制服のご相談ですね?」


「あ、はい。そうなんですけど、俺をご存じで?」


 受付カウンターの三年生の女子生徒に名前をまだ伝えていなかったのだが、満点のスマイルと共にアルトの名を口にして出迎えたのである。


「それは勿論! 闇魔法士の襲撃があった時、私もあの場にいましたので」


「なるほどです」


「あのっ、サインとかって貰えますか!?」


「お、俺のサインですか…?」


「お客様として訪れてくださったのに失礼だとは思うんですけど、是非お願いします!!」


 コマリもそうだが、襲撃があった時には多数の生徒が食堂に居たので、アルトの活躍を間近で見た者は多いのだ。そのため、既に校内ではアルトは有名人となっており、S級であることも相まってファンすらも出来つつあった。


「アルトさんの名が広まるのはいいのですが、このままですと本当にライバルがどんどん増えて困りますわね……」


 隣で眉をひそめるリンザローテは、自分よりも上級生である受付の女子に照れたような態度でサインを書くアルトにジト目を送っている。

 ちなみに今までサインなど練習したことのないアルトは、女子生徒が差し出した私物にペンで普通にフルネームを記入しており、なんとも味気ない書き方をしていた。


「こ、これでいいです…?」


「はい、ありがとうございます! ああスミマセン、本題に戻りますね。オーダーメイドの制服についてですが……」


 コホンと咳払いをして職務に戻った女子生徒は、受付としてアルトに資料を渡しながら特注制服の注文の仕方や料金について説明を始める。


「ふむふむ。ということは、俺がおおまかにデザインを決めて、それを元にして製作を行うということですね?」


「はい。この用紙にデザインを書き込んでいただければ、私どもとしても形状を把握しやすいので」


 もう一枚の用紙を手にしたアルト。そこには人体の正面、側面、背面の図が描かれており、ここに細かい指示を記入して提出する必要があるようだ。

 しかし、アルトには絵心とかといった芸術センスや技術は無い。描いてこいと言われても、正直なところお手上げである。


「こういうのは苦手なんですよねぇ……どうしましょうかね?」


「絵ならコマリさんが得意ですが……あ」


「コマリ先輩は漫画研究部に所属しているんでしたね! それならばコマリ先輩に頼んでみます」


 問いかけられたリンザローテは、ポッとコマリの名前を出してしまって瞬時に後悔した。自分がやってあげると言えばよかったのに、とっさに絵が得意な人物としてコマリが思いついて口にしてしまったのだ。

 これは完全な自爆で、リンザローテは恋敵となるコマリをアシストするというポンコツ具合に額に手を当てている。


「やっちまいましたわ……」


 後悔先に立たずとはよく言ったもので、アルトはもうコマリに頼る気満々だ。

 こうなったら、もう仕方がないとリンザローテは諦める。


「…わたくしからコマリさんには話を通しておきますわ。明日、放課後になったら生徒会室においでくださいな。ミーティングなどはありませんが、部屋は使えますから」


「分かりました」


 カフェでの高揚感から一気に気持ちを落ち込ませつつも、アルトの要望には応えるためコマリに自ら声を掛けると伝えるのであった。






 翌日、アルトは午後の授業が終わってから約束通り生徒会室へと向かう。

 だが、彼一人ではなく同伴者がいた。


「アルト君の新しい制服か~。どんな風にするか決めてるの?」


 それはエミリーで、アルトがオーダーメイドの制服を作ると聞いてデザイン会議に参加を申し出たのである。彼女は絵心がある人間ではないが、こんな機会を見逃す手は無いし、コマリという新たな敵を知るためという理由もあった。


「いや、まだ全然イメージとか湧かないんだ。リンザ先輩に勧められたのはいいけど、そういうの想像するのって苦手でさ」


「そっかぁ。じゃあさ、全身キンピカにするのはどう? 肩に校章の刺繍を入れてドワスガルの代表生ですって主張するとか」


「あまり目立ち過ぎるのも苦手なんだケド。普通にカッコイイヤツにしたいんだ」


「ははは、使い魔相手に大立ち回りをやったのに今更何を言うんですかいアルト君」


 別に目立ちたくてやったわけではないのだが、いろいろと注目のマトになっているのは事実だ。

 ともかく全身キンピカという案は却下し、そう話をしている間に管理棟の生徒会室へと辿り着いた。


「お待ちしておりましたわ、アルトさん……って、エミリーさんまで!?」


 先に生徒会室で待っていたリンザローテは、アルトの思わぬ付き人に声を上げて驚く。

 そんなリンザローテにスッと接近し、エミリーは耳打ちをした。


「アルト君を独り占めしようって考えはいけませんよ、会長」


「よく仰いますわね。アナタとて、アルトさんを独占できるチャンスがあるのならそうするでしょう?」


「へへ、そりゃ勿論。これは会長への牽制というヤツですな。年上だからって遠慮はしませんよ」


「フ、その度胸は認めます……さすがはわたくしのライバルですわ」


 エミリーの堂々とした挑発に不敵な笑みで応えるリンザローテ。確かに両者は競い合う間柄であるのだが、憎しみ合う関係ではない。不可思議な好敵手とでも言うのか、とにかく二人は良い敵対者なのだ。

 しかし、ここにはもう一人の脅威がいることを忘れてはならない。


「コマリ先輩にはデザインをお願いしたいのですが」


「は、はい……会長からお伺いしてます……絵とか得意ですし、任せてくださいっ……」


 さっそくとコマリに依頼するアルトを見て、エミリーもリンザローテも危機感を覚える。自分達に無いスキルを持つ人間に対抗するのは難しいのだ。


「エミリーさん、今はわたくし達が争っている場合ではありませんわ!」


「オーケーっす! 一時休戦ってヤツですね!」


「ええ! 致し方ありませんが、共同戦線を張るしかありませんわ!」


 ここで二人がぶつかっていても仕方がない。ナゾの結束感を発揮し、アルトとコマリへと突撃する。


「アルトさんッ、わたくしだって案を出しますのでッ!」


「私にもお任せよ、アルト君ッ!」


 急に詰め寄るデコボココンビに戸惑いつつも、アルトは苦笑いしながら二人にも協力を頼む。


「あ、はい。頼みますよ」


「それで、なにかアルトさんのご希望はあるのですか?」


「いや、エミリーにも言ったのですが何も思いつかないんですよねぇ」


「では、全身キンピカにするのはいかがでしょう? 太陽の煌めきすらも反射した眩い姿で歩くアルトさん……いいですわぁ」


「どうして二人は俺を金色に染めたがるんだ…?」


 エミリーと全く同じ提案をしてくるリンザローテ。やはり似た者同士ということなのか。


「金色は却下でお願いします……」


「あのあの、赤なんてどうです…?」


「え、赤ですか?」


 赤系統のペンを複数取り出しつつ、そう割り込んできたのはコマリだ。


「そ、そこに黒色も混ぜていけば、落ち着いた色合いという印象を与えながらもカッコイイ感じになると思うんです……」


「ああ、いいですね。それでデザインしてみましょ」


 そのアルトの言葉にコマリは嬉しそうに頷き、さっそくと細かい形状について話し合いを始める。

 

 ちなみに、リンザローテとエミリーは無の表情のまま固まっていた。

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