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リンザローテとのデート

 商業区画を移動する最中、道行く生徒達の視線が刺さる。それらには好奇や嫉妬といった感情が含まれており、いたたまれない気持ちになってアルトは今すぐにでも逃げ出したかった。

 では、何故このように注目を集めてしまっているのかと言えば、隣を歩くリンザローテがウキウキ気分でアルトの腕に自らの腕を絡めているからである。


「リ、リンザ先輩……少々歩きにくくはありませんか?」


「いえ、別に。はぐれてしまわないためにも、こうするのが得策でしょう?」


「そりゃそうですが……」


 全く離れる気はないようで、リンザローテはニコニコ顔なままギュッと更に腕の力を強めた。彼女は周りの生徒からどのように見られているのか気にならないようだ。むしろ、あえて見せつけているかのようでもある。

 こうなりゃ仕方がないと、アルトは諦めて歩を進める。それに、腕にダイレクトに伝わってくるリンザローテの大きな胸の感触から離れるのは名残惜しかった。俗物的な考えだが、アルトは別に仙人でも聖人でもない一般的な思春期男子なのだ。


「クレッセントでしたっけ、あの店の名は? 今はあまり混んでいないようですね」


 商業区の中心部近く、昼食時にウィルが入りたがっていたシックな黒い外壁のカフェの客数は多くない。昼は食堂が閉まっていたためいつも以上の客入りであり、普段はこのように落ち着いているのだろう。


「リンザ先輩の言うようにデートスポットってのはマジなんだな……」


 窓から内部を確認すると、二人組のカップルらしきペア客ばかりであった。ここに一人で入るのは、闇魔法士に立ち向かうよりも勇気がいりそうである。


「さ、入りますわよ。実は、わたくしもココに来るのは初めてで、査察などでも訪れたことが無かったんですのよ」


 と、リンザローテはカフェ”クレッセント”の扉を開く。


「いらっしゃいませ、お二人様ですね…って、生徒会長!?」


 入口近くで待機していた受付スタッフは、リンザローテの顔を見て驚いて固まっている。それも仕方がないことで、アルトは普通に接しているのだが、他の一般生徒からしたら雲の上のような存在なのだ。

 そんなドワスガルの学生の中でも最高権力者である彼女が訪れたのだから、これを驚かずにはいられないだろう。


「きょ、今日って生徒会の査察の日でしたっけ…?」


「違いますわ。今のわたくしは生徒会長ではなく、ただのお客です。完全なプライベートなのですわ」


「そ、そうでしたか。これは失礼致しました。では、コチラに」


 査察ではないと聞いてホッとしたのか、平静を取り戻したスタッフの学生はアルトとリンザローテを席へと案内する。店内には丸テーブルがいくつか備え付けらていて、小さな椅子もテーブルを挟んで二つセットで用意されていた。

 その間にも、他の生徒はザワザワとしながら二人の様子を観察している。


「生徒会長ってカレシいたの…?」


「アイツってS級の新入生だろ? 闇魔法士と魔物を瞬殺したって話だぜ」


 という噂話がアルトの耳にも入って、ますます居にくくなるが気にするだけ無駄だ。アルトを彼氏だと勘違いされてリンザローテは余計に気分を良くしており、こっちが上機嫌ならば問題ないかと諦めの境地である。


「では、ご注文が決まりましたら……」


 アルトはスタッフから差し出されたメニューを手に取り目を通す。そこそこ値段が高いので昔のアルトだったら支払えなかったが、特待生には生活費も支給されているので、今ならば多少の余裕はあるので問題はない。


「なんです? この”ぱふぇ”ってのは…?」


「ご存じないのですか? えっとまあ……クリームでスイーツでフワフワなアレですわ」


「はぁなるほど…? てか、カフェってコーヒーだけじゃないのか……」


 故郷の小さなカフェを思い出しつつ、アルトはとりあえずアイスコーヒーを選ぶ。


「リンザ先輩はどうします?」


「せっかくですし、この”カップル用特盛パフェ”にしますわ!」


「え!? カップル用特盛って、もしかして……」


「わたくしとアルトさん、二人で一緒に食べるんですのよ。ね、いいでしょう?」


 そう宣言するリンザローテは子供のように目をキラキラとさせている。これを断るのは心が痛むし、アルトとてリンザローテと距離を近くできるのは得であった。

 注文を受けたスタッフが下がり、アルトは何を話したものかと考える。


「そういえば、リンザ先輩って俺とか他の生徒と違う制服を着ていますよね? ドレスみたいなのとか、高級そうなシャツのとか複数持っているんですか?」


「ええ、コレらは特注品のオーダーメイドですのよ。アルトさんもご用意なさったら?」


「いいんですか? 制服を違うのにしてしまっても?」


「特待生の特権ですもの、アルトさんにも資格はあるんですのよ?」


 どうやら特待生には制服をカスタマイズする権利も与えられているらしい。確かにリンザローテ以外でも生徒会などで変わった服装をしている者がいたし、あのヴァルフレアも漆黒のローブを纏っていた。


「特待生って色々と役得ですね。制服までイジっていいなんて」


「その分、選ばれるのは一握りの人間だけですわ。誰もがなれるものではありません」


 アルトとヴァルフレアはS級という理由だけで選ばれているが、普通の生徒は厳しい審査を経て選定されるのである。魔法力は勿論のこと、学力や素行などの要素も関わってくるのだ。


「こういう見て分かりやすい特権は、目指す者にとっては自分も”ああなりたい”というモチベーションに繋がりますし、特待生側の人間にとっては自分の地位を自覚するための証にもなりますわね。単純にオシャレとしても楽しめますし、イイことずくめですわ」


「確かに。でも、オーダーメイドってお高いんでしょう…?」


「素材や形状にもよりますが普通の制服よりは値が張りますわね。そうですわ、このあと衣服店に行きましょう」


「商業区で注文できるんですか? 他の街とかで頼むのではなくて?」


「この商業区には衣服店が二店ありまして、そのどちらでも受注を受け付けておりますの。どちらの店でもかまいませんが、わたくしが利用している店舗の方が紹介しやすいですわね」


 ドワスガルは隔絶された地域にある学校だが、だからといって不便かというとそうでもない。一つの街に匹敵する規模の商業区画には、学生達の大抵の需要を満たせるモノが揃っているのだ。

 アルトはどのようなデザインにしようか頭の中で複数の案を捻り出すのであった。






 一方その頃、生徒会副会長ホランの姿は再びヴァルフレアの寮部屋にあり、今日のミーティングで使った資料を手にしながら何やらヴァルフレアに説明をしている。こうして密会する頻度も上がっていて、それはアルトという存在が現れたせいであった。


「来週の事なんだけど、研究用の魔物のサンプルがドワスガルに送られてくるわ」


「それが?」


「使えると思って。あのアルト・シュナイドと、ついでにリンザローテを抹殺するために」


 その言葉に反応したヴァルフレアは、愛用のソファから立ち上がってホランの手元にある資料に目を通す。


「これらは仮死状態となって運搬されてくるわ。それを蘇生して解放し、アルト・シュナイドらを襲わせるのよ」


「やれんのか? グレジオの使い魔だってやられたんだぞ?」


「うまいこと奇襲を仕掛ければ……」


「そうかよ。ま、試してみればいい。だが失敗は許されないというのは分かっているな?」


 ヴァルフレアは脅迫するようにホランに迫る。アルトの排除を依頼しておきながら横柄な態度をするのは如何なものかと思うが、今のヴァルフレアは人格者ではないし、他人など都合の良い道具程度にしか考えていない。

 アルトという障害を取り除ける可能性が見えて、ヴァルフレアはホランの策に期待しながら続報を待つことにするのであった。

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