生徒会ミーティング
対人関係を築くことが苦手な引っ込み思案のコマリであるが、オドオドとしながらも懸命にアルトに何かを話そうとしていた。それを察したアルトは話を聞く姿勢を示し、言葉が紡がれるのを待ってコマリのペースに合わせる。
「あのあの……ありがとうございました、アルトさん!」
「えっと、俺はまだ感謝されるような事をしていないような…?」
何を言うかと思えば、急に感謝を始めてペコリと頭を下げたのでアルトは困惑する。記憶に相違が無ければコマリとは出会ったばかりのはずであり、こう言われるような行いを彼女にした覚えは無かった。
「食堂でのことです……や、闇魔法士が襲ってきた時の……」
「ああ、グレジオ達が食堂に現れた時にコマリ先輩も居合わせたんですね?」
「は、はい……アルトさんが闇魔法士や魔物を倒してくれて、だから助かったんです……なので、ありがとうって言いたかったんです……」
グレジオら闇魔法士が食堂を占拠した時にコマリも現場に居たのだ。カース・サイレンスの魔法によって口を封じられ、人質となった後はただ怯えて震えることしか出来なかった。
このまま恐怖が続くかと思ったが、勇敢にも立ち上がった男子生徒によって状況は打破されたのである。それこそがアルト・シュナイドであり、コマリもまたアルトに救われた一人なのだ。
「まるで白馬の騎士のような、正義のヒーローみたいでカッコイイなって……」
「そ、それは大袈裟ですよ。たまたま上手くいって勝てただけですし」
「でも、あんな怖い人達に立ち向かうなんて普通じゃ無理です……だから、アルトさんは凄いなって……」
「そう言ってもらえて嬉しいですよ。コマリ先輩も無事だったわけですし、頑張った甲斐がありました」
アルトはコマリの緊張が解けるようにニコッと笑いかけるが、コマリはむしろ顔を真っ赤にして照れながら俯いてしまう。異性と会話をする事自体に慣れていないし、しかも相手が恩人のアルトだから尚更であった。
そして、二人のやり取りを間近で聞いていたリンザローテは頭を抱えていた。ここにきて新たなライバルが、しかも仕事を共にする身内から出るなどとは思ってもいなかったのだ。
「ぐぬぬ……まさかコマリさんまでアルトさんに惹かれていたとは…!」
しかし、この勝負ばかりは負けるわけにはいかない。たとえ誰が相手であっても。
「コホン! さ、ミーティングが始まる時間ですわよ。コマリさんは資料を配ってくださる?」
「は、はい……」
ワザとらしく咳払いをして注意を引き、リンザローテはコマリに作成してきた資料を配るよう指示する。多少イヤなヤツ感が出てしまっているかと気にするも、恋とは戦争なのだから戦略的に動かなければ勝利は掴めないのだ。
「では皆さん、これより定例ミーティングを始めていきますわね」
百五十人ほど集まった生徒会メンバーは席に着き、目の前の長机の上に資料を置きつつリンザローテに顔を向ける。その中には、いつの間にか給湯室から戻って来ていた副会長ホランもいるが、彼女はリンザローテに目もくれずにいた。
「まずは新しいメンバーの紹介を。ご存じの方もいらっしゃると思いますが、彼は新入生にしてS級魔法士のアルト・シュナイドですわ」
紹介を受けたアルトは緊張で硬くなりながらも、リンザローテの近くに立ち他のメンバーに対して自己紹介を行う。といっても名前や出身地など以外に話す事もないので、かなり簡潔且つ短めなものではあったが。
「あの子が話題のアルト君かぁ。聞いていたよりカッコいいかも」
「何人もの闇魔法士を倒したんでしょ? そんな強いS級の人なら頼りがいもありそうだね」
「S級なのに驕ってなさそうな性格なのもポイント高いよ。会計課に配属になったらたっぷり可愛がってあげよっと」
生徒会メンバー達は心強い仲間が出来たものであると思いながら、好奇の目でアルトを見つめている。特に女子は興味津々であるようで、どのタイミングでアルトとお近づきになろうか考えているようだ。
「アルトさんには、コマリさんと同様にわたくしの補佐をして頂くことになりますわ。なので皆さんと職務を同じくする機会は少ないかもしれませんが、もし彼の力がどうしても必要な際は”わ・た・く・し”に要請するように」
リンザローテはこれ以上の脅威を増やすわけにはいかないと、色めき立つ女子達にそう宣言して釘を刺す。当然ながら不満が噴出し、独占する気なのかとブーイングも飛ぶが涼し気な顔で受け流していた。
そんな中で苦笑いしながらアルトは会長補佐席へと座る。会長であるリンザローテの席に程近く、隣はコマリであった。
「人気者、ですね…アルトさんは……」
「S級魔法士が物珍しいだけですよ。数日もすればきっと落ち着くと思いますよ」
「そ、そうかな……」
この中にもコマリと同じようにアルトに救われ、その勇姿に惚れた者もいることだろう。となれば、一時的な好奇心で終わるわけはないという予感を抱いていた。
「お静かに、皆さん。コマリさんが配った資料に目を通してくださいな。まず最初に、魔物研究のために輸送されてくるサンプルについてですわ。このサンプルとは生きた魔物を仮死状態にしたもので……」
さすがは生徒会長といったところか、リンザローテの張りのある声は威厳すらも感じさせて、騒々しかった一同を黙らせて耳目を集める。
そうして資料に沿って粛々と今後の学校の大きな予定や、生徒会が抱える事案の進行状況などを周知させて情報を共有していく。新人のアルトにはよく分からない内容も多かったが、その不明点をマークしておいて後でコマリかリンザローテに訊こうと脳内に留め置く。
「…現在学校内で捜査をしている軍は今週末に引き上げる予定となっていますから、その後は引き続き我々生徒会が治安維持を担うことになりますわ。皆さん、気を引き締めておくように。では、解散」
約一時間に及んだミーティングは終了し、メンバー達はそれぞれの仕事や、別の課外活動に参加するため部屋を出ていく。
だが、アルトは特に他に予定も無いので、リンザローテやコマリと共に最後まで残っていた。
「これが生徒会でのミーティングの様子でしたが、いかがでしたか?」
「皆さんの話に付いていくので必死でしたよ。それでも内容を全然把握できていないので、よければリンザ先輩にご教授願いたいです」
「ええ、お任せを。なんといっても、わたくしはアルトさんの専属家庭教師ですもの!」
リンザローテは大きな胸を張ってドヤ顔になる。アルトに頼られるのは嬉しく、コマリに対しての牽制でもあった。
「あのあの……か、会長はアルトさんに勉強を教えているのですか?」
「そうですわ。二学年でもトップクラスのわたくしなら適任でしょう?」
「せ、成績でいうなら私も……私も会長に並ぶほどです……な、なので私もアルトさんの家庭教師に立候補します!」
「!?」
普段は大人しいコマリだが、この時ばかりは声を大きくしてアルトに訴える。これにはリンザローテも驚いたようで、今まで耳にしたことの無いコマリの声量に目を丸くしていた。
「ど、どうですかアルトさん…? わ、私と同じ会長補佐の仕事をするのですし、その仕事についてもお教え出来ると思いますし……」
「いいですね。丁度、コマリ先輩に補佐の職務についてお伺いしたいと考えていましたし、頼りにさせて頂きますよ」
「わ、わっ! や、やった…!」
喜びを隠せないコマリは口角を上げ、歳相応の愛らしい笑顔を浮かべている。
デフォルトの困り顔から乙女全開の表情をしている彼女を見て、リンザローテは二人に気が付かれないよう額に手を当てて小さなため息を漏らすのであった。




