少女達の恋路
レストランでアルトと偶然遭遇したリンザローテは、まるで勝ち誇るように生徒会活動への参加をアルトに促して立ち去ろうとしていた。エミリーとの一人の男をターゲットとする戦争は激化の様相を辿りそうである。
しかし、そんなリンザローテを呼び止めてスッとウィルが席から立ち上がった。
「リンザローテ会長! お会いできて光栄っす、オレはウィル・ステークっす!」
「あ、はい。どうも」
「オレ、入学式で挨拶をするリンザローテ会長を一目見た時から気になっておりまして! 是非、今度オレとデートして頂けませんか!?」
ここぞとばかりにリンザローテをデートに誘うウィル。女性に対する声掛けには慣れているようで、初対面であってもサラッとこう言えるのは大したものだ。
だが、リンザローテは首を縦には振らない。こういう対応を今までに何度もしてきたのか、美しい笑顔を浮かべながら丁重にお断りの文言を口にした。
「申し訳ありませんが、遠慮させて頂きますわ」
「そ、そう言わずに。絶対に楽しいデートにしてみせますから!」
「そう仰られましても気が乗りませんの。では」
とリンザローテは小さくお辞儀をして、友人達のもとへとスタスタと歩いて行ってしまった。
完全に脈は無く、撃沈されたウィルは魂の抜けたような顔をしながら席に戻る。
「なあ、ウィル。本当にナンパが得意な男なのか?」
「あ、ああ……二人連続で断られるなんて今まで無かったんだぜ…?」
エミリー、そしてリンザローテと立て続けに振られて結構なショックを受けているらしい。
「いいよなぁ、アルトは」
「なんでさ?」
「だってよオマエよ、リンザローテ会長がニコニコしながらオマエに話しかけていたじゃねェか」
「リンザ先輩はずっと笑顔だったと思うケド?」
「は~……マジかオマエ」
ウィルは呆れるようにうな垂れており、それはシュカも同じであった。さすがは幼馴染、さっきは似たようなウインクの仕方をしていたが、こういう時のリアクションもソックリである。
この二人がヤレヤレとため息をつくのも当然で、確かにリンザローテはずっと愛想の良い笑顔であったのだが、明らかにアルトに対してだけ特別な感情を籠めた笑顔であったのだ。その機微に気が付いたのは乙女のエミリーとシュカ、そして女性と沢山接してきたウィルのみである。
「あのな、多分あの人はオマエに……」
「ウィル君は黙っていてちょうだい!」
「ヒェッ……」
リンザローテはアルトに気があるようだぞと伝えようとしたが、殺気の籠った視線と共に制止してきたエミリーによって言論封殺をされて黙らざるを得なかった。ここで更にアルトがリンザローテを意識するような事態になられては困るのだろう。
「ま、まぁともかく……アルトも隅に置けないヤツだぜ。そもそもな、どうやってあの人とお近づきになったんだよ。リンザローテ・ガルフィアといえば王国最大の企業ガルフィアカンパニー総帥の娘でガチの令嬢だし、才色兼備だしメチャクチャ人気な女なんだぜ?」
「そんなに凄い人だったのか……」
「知らないで接していたのかよ……」
アルトは世間に疎いので知らない事であったが、リンザローテ・ガルフィアという人物は高名な存在であった。学校内は勿論、王都などでも彼女の名を知っている者は多い。
「まったく、気を引くためにどんな魔法を使ったのやら。禁忌魔法の催眠系か、それとも隷属系か?」
「んなことしてないよ。あ、ただバインドロープで縛りあげたりはしたけど」
「縛り上げたってアルト……オマエって結構ヘンタイ?」
「デュエルでの話だよ! 相手を行動不能にするには有効な魔法でしょ」
ナニか勘違いされてしまったとアルトは弁明するが、ウィルは気色の悪いニヤけ面である。
そんな男子のくだらないやり取りを尻目に、女子は女子で恋バナに花を咲かせていた。
「にしてもエミリーってば前途多難ね。相手があのリンザローテだなんて」
「メチャクチャ強い相手だよ……あの人、顔も体も魅力的だし、お家柄も王家に次ぐレベルだもんなぁ。どうしてこうなった……」
「ま、でも諦めちゃダメよ。アルトの好みに当てはまってないかもだし、ステータスだけが全てじゃないんだから」
いくらリンザローテが魅力的でも、アルトの好みのタイプではない可能性は充分にある。男女の関係では思い出だとか相性というものも重要で、単純な勝負にはならないものだ。
とはいえ、アルトがリンザローテを悪く思っていないのはエミリーも知るところであり、この相手に打ち勝つのは容易ではない。
「エミリーにはアルトと同じクラスだというアドバンテージがあるのだから、これを活かして積極的に時間を一緒に過ごしていけばいいのよ。ウチはエミリーを応援するし、頑張って」
「うん! いくら相手が強くても諦めないよ」
「その意気! てか、もう告白しちゃったら?」
「さすがに早すぎるんじゃない!? 先手必勝という言葉はあるけれど、アルト君ともっと気持ちを通わせてからじゃないと失敗する未来しか見えないよ」
怯まず恋路を突き進む決意をするエミリーだが、ここは慎重であった。いくら相手がコチラを友好的に見てくれていても、恋人という関係になりたいと考えてくれていない状態では意味がない。
しかも、まだ出会って日が浅いのだ。いくらなんでも性急過ぎるだろう。
「仕留めるタイミングは重要ではあるか。でも、あの生徒会長に先を越されないよう気を付けないと」
シュカの言葉に頷きつつ、エミリーは想い人に気づかれないよう視線を送るのであった。
改めてライバルの存在を意識したエミリーは、午後の授業ではより積極的にアルトに教えを請おうとしていた。アルトは一年生でただ一人のS級ということもあり、他のクラスメイトからも頼られているため、自発的にいかなければチャンスを掴めないので大変ではあるが引き下がるわけにはいかない。
「アルト君、フレイムバレットの撃ち方を教えてほしいな」
「ああ、いいよ。攻撃魔法系では一番使いやすいし、初心者でもきっとスグに上達すると思う」
午前中は防御魔法バリアフルシールドを中心とした授業であったが、午後は攻撃魔法フレイムバレットを練習することになっていた。攻撃魔法はバリエーションが多く他にも強力な技はあるのだが、アルトの言うようにフレイムバレットは習得しやすいものであるため入門に最適なのだ。
「火炎の弾を撃ち出すイメージをしっかり持つんだ。そうして詠唱すれば、俺のように飛ばせるはずだよ」
「やってみる。フレイムバレット!」
上空に向かって手をかざし、その掌に魔力を集中させて魔法陣を形成する。
だが、詠唱してもボッと軽い火が生じただけで弾丸とはならなかった。
「うーん。コレも難しいなぁ」
「大丈夫、覚醒の兆しはあるよ。一瞬ではあったけど火は出ていたし、魔力制御に慣れれば遠くまで届くようになるさ。最初は腕を砲身に見立ててもっと伸ばすといいかも」
アルトはエミリーの腕に手を当てながらアドバイスを続ける。
その様子を近くで見ていたシュカは、自分も練習しながらもエミリーの健気さを心から応援していた。
「うんうん、ああやってスキンシップを取ってくれるしイイ感じじゃないの。あのまま雰囲気が盛り上がってくれればねぇ」
「なに一人でブツクサ言ってんだよ、シュカ。スキンシップがどうしたってんだ?」
シュカの独り言に反応したのはウィルで、モゴモゴと呟いているシュカの顔を不思議そうに覗き込む。
「別になんでもないがな」
「もしかして欲求不満なんか? そんなにイチャコラしたいなら…ま、オレが相手してやらんこともないぜ?」
「ッ!! デリカシーの無いバカウィルは黙ってらっしゃい!!」
「おわッ!?」
怒りに震えるシュカの掌から真紅の閃光が放たれる。
それを間近で見たウィルは、生まれて初めて本気の生命の危機を感じるのであった。




