ドワスガルの商業区へ
閉鎖された食堂に代わる食事処を求めたアルト達は、校舎を始めとした教育施設が置かれた地区から商業施設が複数並び立つ地区へと移動した。
ここはドワスガル魔法高等学校の敷地内でありながらも、まるで繁華街のように様相を変えて活気にあふれている。
「凄いな、これは。俺の故郷にある商店街よりも規模が大きい」
アルトは自らの故郷を思い起こしながら呟く。彼の暮らしていたボラティフ地方にも一応は商店街と呼ぶべき場所はあったのだが、治安の悪さも相まってマトモに営業している店舗など少数であった。
そういう環境で育ってきた身からすれば、一般的には普通に感じるようなモノでも感激できるのだ。
「他の学生らもオレ達と同じ考えらしい。こりゃ早くしないとメシにあり付く前に昼休憩が終わっちまうぜ」
「どうする?」
「こうなりゃドコでもいいから入るしかないな。あのレストランは商業区でも一番大きいし、なんとかなるか」
ウィルの言うように他の生徒達も昼食を求めて流れてきており、どうやら普段以上の人通りとなっている。
そのため悠長に選んでいる余裕も無く、ウィルの示すレストランへと入ることにした。
「本当はもっとオシャレで美味しい店がいいんだけど……アッチにあるカフェとかな。でもかなり並んでいるし、あとでナンパした娘とデートの時にでも行くとするか」
「シュカを連れていってあげなさいよ」
「気が向いたらな。それよか、せっかく生徒数の多いデカい学校まで来たんだからさ、出来得る限り声を掛けて遊んでおかないと勿体ないと思わんか?」
「そうかい…?」
「若い今だからこそ許されるアレコレを楽しんでおかにゃな」
グッと親指を立ててサムズアップするウィルに対し同意はしなかったが、確かに学生の時だからこその体験というものはあるのだろうなとアルトは思う。実際、こうやって友人と昼休みを過ごすというのも、大人になって振り返れば貴重な時間であったなと懐かしくなる時が来るのかもしれない。
レストラン内は二階建てで四人掛けのテーブル席が五十以上存在し、収容できる客数も多くアルト達もすぐに席へと案内された。
「本当に学生が運営しているんだ」
アルトの見た範囲では、従業員は皆学生である。とは言っても普段の制服ではなくウェイトレス姿に服装をチェンジしており、さながらプロのように振る舞っていた。
席まで案内してくれたウェイトレスに注文を伝え、アルトはテーブルの端に置いてあった”アルバイト募集”のチラシを手に取る。
「ああ、ちゃんと給料は発生するんだね」
「そりゃ労働なんだから働いた分はお給料も出るよ、アルト君」
「俺の地元じゃ労働は基本無償奉仕だった……雇い主の気分が良ければ給料が出たけど」
「ええ……アルト君の故郷怖……」
ボラティフ地方の闇を改めて垣間見たエミリー。前にもアルトから捨て子が多いなどの話を聞いたが、マトモな環境ではないということは行かなくても推測可能だ。
「そ、それはともかく……アルト君や皆は課外活動は何するか決めた?」
「エミリー、課外活動って何…?」
「クラブ活動とか、こうした商業区でのアルバイトなんかを課外活動って言うんだよ。授業と違って必須ではないんだけど、参加しておくと学校生活も充実するし、新しい目標が見つかったりする場合もあるし損は無いと思う」
同じ趣味趣向を持った生徒で結成されるクラブ活動や、生計を立てるためにアルバイトを行うといった課外活動がドワスガルでは活発なようだ。確かに上級生による勧誘活動が盛んに行われているのをアルトも目にしたし、入学したばかりの新入生達は所属する組織を吟味している時期である。
「エミリーはどうするの? もう決まってるの?」
「私は飲食店でアルバイトしようと思ってるんだ。ウチの実家も金持ちってわけじゃなから仕送りが厳しくてねぇ……だから、自分で稼ごうと思ってさ」
「なるほど。飲食店て、エミリーは料理とか得意なんだ?」
「結構上手なんですよ、これでも! このお店なんか給料もいいし、ウェイトレス衣装も可愛いしアリかも」
エミリーはアルトの見ていたチラシを手に取り、条件等をじっくりと確認していた。
それを隣に座るシュカも覗き込み、ふむふむと唸っている。
「ウチもココでアルバイトしようかなぁ。ねぇねぇエミリー、一緒に応募してみない?」
「そうしよう! 急募って書いてあるし、すぐに採用してくれそうだしね。シュカちゃんは他にはクラブ活動とかするの?」
「ウチは魔法薬研究部にも入ろうと思ってんの」
「魔法薬に興味あるの?」
「実家が魔法薬を売るお店でさ、ウチも将来的には家業を継ごうかなって。だから丁度いいクラブがあって良かったよ」
アルトと同じようにシュカもまた将来を見据えているようで、目標に対する具体的な行動を取ろうとする彼女は立派なものである。
そんな女子二人の会話を耳にしていたウィルは、今度は自分の番だと口を開く。
「アルト、オレがナニをするかも気になるだろ?」
「え? ああ、うん」
「オレはな、デュエルクラブに入るぜ。ライバルと競い合って強さに磨きを掛けんのよ。まずはデュエルクラブ最強の座を獲得して、そんで改めてオマエにリベンジマッチを挑むことにするぜ」
よほどウィルは強い魔法士になりたいらしい。王国の有名な戦士は異性からの人気が高いので、そうしたスターの仲間入りをしてモテようという算段なのだろう。
そういう不純な動機はいかがなものかと思うが、一概に悪いとは言えない。努力をして身に着けた技術や実力は本物であり、それが誰かの役に立つのなら有益でしかないのだから。
「アルト君も何かやってみたら? まだ特には決めてないんでしょ?」
「アルトさんは既に生徒会所属の身ですわ。わたくしの補佐として」
「うわっ!? リンザローテ会長!?」
唐突に会話に割り込んできたのはリンザローテで、何故か腰に手を当てながらフフンとドヤ顔になっている。ライバルと認定するエミリーの一歩先を行っているという余裕が態度にも現れているようだ。
どうやらリンザローテも昼食のためにレストランを訪れたようで、その背後には彼女と同じく二年生の女子生徒が数人立っている。恐らくは同じクラスの友人達だろう。
その友人達に先に席に向かうよう伝え、リンザローテは言葉を続けた。
「彼は先日のグレジオ捜索の時点から生徒会の活動に参加しているのですよ。うふ、一日中行動を共にしましたし、夜の生徒会室で二人きりの時間も過ごしましたし!」
「なぁにぃ!? ク…この生徒会長はやはり侮れない…!」
ぐぬぬと悔しそうに顔を歪めるエミリー。なんならサイクロプスなどよりも強大な敵として認識しており、どうやって打ち倒そうか考えているようだった。
「さて、丁度良いところでお会いしましたわね、アルトさん。今日の放課後、正式にあなたを生徒会に迎え入れたという報告を他のメンバーに行おうと思っていたのですよ。なので、終業のホームルームが終わったら生徒会室へと来て頂けます?」
「分かりました」
リンザローテに対して素直に頷くアルトを見たエミリーは更にジェラシーを感じ、今にもリンザローテに飛びかからんとばかりに闘気を体に溜めている。
そんなエミリーとリンザローテの様子を見ていたシュカは、さすが年頃の少女といったところで二人の恋の戦いを敏感に察知し、アルトという罪作りな男が両者のどちらを選ぶのか興味を抱くのであった。




