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軟派な男、ウィル・ステーク

 翌日、アルトの姿はデュエル会場としても利用されるコロシアム型施設の中にあった。ここでリンザローテと戦ったことは記憶に新しく、そんな彼女と僅か数日の間で絆を深めたのだから世の中どうなるか分からないものである。


「では皆さん、これから攻撃と防御魔法について学びますよぉ」


 自らが受け持つクラスの生徒達に声を掛けるのはミカリアで、今日は急遽授業の内容を変更して戦闘に役立つ魔法を習得する事になっていた。

 本来、一年時の前半カリキュラムは基礎魔法を中心としているのだが、先日のグレジオ一派による事件を受けて、自己防衛をするための力を早めに養うという方針が採用されたのだ。


「闇魔法士という良からぬ者達がパラドキア王国の各地で事件を起こしています。実際にこの学校にも現れて、他人ごとではないと皆さんも理解したでしょう?」


 ほんわかとした性格のミカリアだが、今は表情を引き締めて真面目な教師という口調である。いつもの平和が崩され生徒の身に危険が及んだとなれば、いくらミカリアでも深刻に捉えざるを得ないのだろう。


「皆さんが戦いを望んでいなくても、邪悪な相手はコチラの事情など関係なく攻撃を仕掛けてくるわけで、そうした脅威から自分や大切な人を守るには力を付けなくてはいけません。今日から学ぶ攻撃と防御の魔法はイザという時に役立ちますから、集中して取り組みましょう。皆さんにとって幸運なことに、闇魔法士や魔物を撃退したアルトさんがいらっしゃるので彼から教えを乞うのもいいですねぇ」


 ここでミカリアは砕けたような言い回しに戻り、アルトを名指しする。緊張したままでは上手く力を発揮できないので、少し雰囲気を柔らかくしようと平時のような態度を示したのだ。

 アルトは他のクラスメイトからの視線を受けて恥ずかしくなっていたが、何故か隣のエミリーはドヤ顔である。


「いやぁ皆もアルト君の凄さに気づき始めたようだね~。うんうん、私も誇らしいよ」


「どうしてエミリーが…?」


「ケド、これ以上ライバルが増えても困るなぁ……」


「エミリー…?」


 ブツブツと呟くエミリーにアルトの声は届いていないようで、これ以上の問いかけは意味無いなとミカリアへと意識を向けた。


「では、まずはバリアフルシールドからいきますよぉ。この魔法を咄嗟に使えるかどうかで生存率が大きく変わってきますから、一番重要とも言える魔法ですねぇ」


 アルトも多用する防御魔法バリアフルシールドは、戦闘時には必要不可欠な存在だ。これが無ければアルトも何度か命を落とすタイミングがあり、地味なように見えて何度も救われてきたのである。

 しかし、簡単に使えるかというとそうではない。他の魔法と同じように修練を重ねなければ身に付かない。


「アルト君が使うトコロを何回か見たし、私でもいけそうな気がする。そぉれ、バリアフルシールド!」


 この学校でアルトが戦闘に陥った時、すぐ近くに居たのはエミリーである。そして、その戦いぶりを見守ってきた彼女はマネして唱えてみたのだが、


「あれー…?」


 一瞬パッとバリアが展開されたものの、すぐに消滅してしまう。見様見真似でやっても上手くいくものではなく、慣れが必要だ。


「錬成魔法と同じさ。繰り返し練習しなきゃ身に付かない魔法だよ。俺も手伝うから、やってみよう」


 と、アルトはエミリーにコツを教えようとしたのだが、背後から声を掛けられて振り返る。


「よぉ、色男。オレにも個人レッスンをお願いしたいが?」


「色男…?」


 そこに居たのはクラスメイトで、制服のブレザーを着崩した軽薄そうな男である。というよりチャラいと言ってもよく、顔立ちは良いのだがどこか胡散臭い雰囲気を醸し出していた。


「オマエはオレと張り合えるモテ具合らしいからな。フフ、まさかライバルが現れるなんて思ってもいなかったぜ」


「いや、何を言っているのかサッパリ分からないんだけど……キミは確か、ウィル・ステークだったか?」


「名前を憶えてもらっているなんて光栄だね。ン、もしかしてオマエはオレに気がある…?」


「そうじゃねーよ! 入学初日の自己紹介で妙にスベっていたから印象に残ってたんだ」


「え、オレの自己紹介スベってたの…?」


 アルトは記憶を辿り、入学初日のウィルを想起する。彼はどうやら自分に自信がある男のようで、自己紹介ついでにクラスの女子達にデートのお誘いを飛ばしていたのだ。

 しかし、当然というか冷めた目で見られていたのだが、当の本人はソレに気が付いていなかったらしい。

 そして、エミリーもまたウィルを警戒する目で見ていた。


「私、あの人にナンパされたんだよね。断ったけどね」


 エミリーは出会って早々に口説かれていたようで、そのためウィルに対して良い印象を持っていないのだ。


「エミリーは男に襲われそうになった嫌な過去があるんだ。もしかして、無理矢理に誘ったりしたんじゃないだろうな?」


 男子上級生に酷い事をされかけてエミリーは心に傷を負っているのだ。だからこそ、そのトラウマを刺激するような事は許せないし、アルトはグレジオに立ち向かった時のようにウィルを睨んでいた。


「オイオイ、オレは無理矢理女の子を襲ったりだとか卑怯なマネはしない男だぜ? 正々堂々と正面から口説き落とすのが流儀なんだ」


「そう言われてもキミを俺はよく知らないからな……まあともかく、エミリーが怖い思いをするようなやり方はダメだ。もし彼女が嫌がるような事をするのなら、俺が許さない」


 真剣になってエミリーを慮るアルト。

 その後ろ姿に惚れ惚れとした視線を送るエミリーは、心底彼に恋心を抱いているのだなと誰が見ても分かる。


「なるほどな。オレからしてもオマエはカッコイイよ。エミリーちゃんが”私にはアルト君がいるのでっ!”と断ってきたのも頷ける」


「ちょっとちょっと! そーいうのは黙っておいてよ!」


 それではアルトに好意があるのがバレバレではないかとエミリーはウィルに抗議するが、このエミリーの態度自体が答え合わせのようなものである。黙っておけばその場凌ぎの断り文句だったのだろうと思えるのに、冷や汗をかきながら必死になってしまっていた。


「え、オマエ達って付き合ってるんじゃないの?」


「違うけど…?」


 二人は既に交際しているものと考えていたウィルは、ポカンとして驚いている。これだけ仲が良さそうなのに、ただの友人関係でしかないというのは意外としか言いようがなかった。


「まあいいや……とにかくな、他の男を理由に断られたというのはオレのプライドがキズつくのさ」


「あ、そう……」


「そこでだ。オレとデュエルしろ、アルト・シュナイド!」


「なんで…?」


 よく分からない因縁を付けられ、デュエルを申し込まれたアルトは困惑するしかない。ウィルの言い分はハッキリ言ってアルトに関係無いのだが、どうやらウィルは逃がす気は無いようだ。


「オマエがS級で、闇魔法士を撃退する強さがあるのは知っている。そんなオマエを倒せば、オレの評価だって上がってもっとモテるようになるハズだろ?」


「そうとは限らないんじゃ…?」


「いいや、間違いない! オレはもっともっとモテ男になって、ナンパしても絶対に拒否されないようなスペシャリストになってやるんだ」


「いや、モテるためには他にも磨くべき要素があるだろう? 強さや名声が魅力の全てじゃないぞ」


「さあ受けて立て、アルト・シュナイド! オレの方は準備オーケーだッ!」


「話を聞けよ」


 もうアルトの言葉など届いておらず、拳を握り絞めて気合を入れているウィル。

 こうなったらアルトにとっては無意味だがデュエルを受けるしかないかと、諦めの境地な表情でため息をつくのであった。

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