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兄と妹、行きつく先は同じ道なのか…

 アルトの補佐に就任したリィスは、仕事についてのレクチャーを少し受けただけなのに、既に何か月もやっているかのようにテキパキとこなしていた。

 彼女はもともと学業面が優秀で、受験成績も上位レベルで合格した生徒であり、物覚えの早さが役に立っているのだろう。


「リィス、昨日依頼した生徒会名簿の取りまとめについてだが……」


「それ、もう終わってます。製本して棚に入れておきました」


「そ、そうなのか。なら、俺の仕事を手伝ってほしい。各クラブへの予算配分について計算しているんだけど……」


「いいですよ。先輩、計算とか苦手そうですし」


 実際、リィスの言うように大きな数字を取り扱うのは得意ではない。去年まではリンザローテが素早く終わらせていた仕事なのだが、アルトは苦戦して時間を掛けてしまっていたのだ。


「リィスが来てくれて助かってるよ。この二週間で前よりも色々と効率が上がっているし、遅れも取り戻せそうだ」


「期待され過ぎるとプレッシャーになりますけどね」


「確かにそうだな……ほどほどに頑張ってくれ」


 やる気という面では、リィスはドライであった。仕事自体はこなしてくれるが、そこに情熱は一切無いらしい。

 無表情のまま書面上の数字を見つめるリィスとの間に沈黙が流れ、アルトは少し気まずさを感じて話題を振る。


「後少しでゴールデンウィークが来るけど、リィスは何か予定はあるの?」


「わたしをデートに誘う気ですか?」


「じゃなくて! ちょっと気になったから訊いたんだ」


 古代文明の時代から続く伝統的な連休、ゴールデンウィーク。かつてのニッポンという島国にて導入されていた制度で、今の時代でも学生にとってありがたい存在であった。


「…ちょっと家族のところに帰る用事はありますけど」


「ご両親も新しい町で苦労されているだろうし、顔を見せて安心させてあげるといいよ」


 全てを捨てざるを得なかったドートル家にとって、家族の繋がりだけが唯一の財産である。それこそ、リィスことイヴァレアだけが両親にとっては宝物になっていることだろう。

 そのリィスが元気にやっている姿を見るだけでも、両親には至上の喜びになるはずだ。


「ホント、気遣いが上手いですよね先輩は」


「そうか? 普通だと思うよ」


「その普通が出来ない人の方が多いじゃないですか。皆が先輩のように善人だったら……」


 と、リィスは小さくため息をつきながら計算に戻る。

 その後輩の様子が気になるアルトであったが、生徒会のメンバーに呼ばれてしまい、彼女の言葉の真意を問うタイミングを逃してしまうのであった。






 四月の終わり、アルトが口にしたゴールデンウィーク期間が始まって、束の間の休息時間に学生達は胸を躍らせる。約一週間と長期休暇とまでは言えないが、それでもテンションは上がるものだ。

 そんな中、一人の女子生徒が暗い面持ちで魔法列車に乗り込んでいった。


「はぁ……どうなるのかな……」


 ポケットに突っ込んである手紙をくしゃっと握り呟くのは、他でもないリィスである。

 アルトにゴールデンウィークの予定を訊かれた際、両親に会いに行くと返答していたのだが、とてもではないが楽しみにしているとは思えない雰囲気だ。


「先輩にちゃんと言えば良かったのかな……」


 窓際の席にて、思考を放棄したような虚ろな目をして揺られること数十分。ドワスガルを発した魔法列車は、最寄りの町リグ・ディアスへと降り立った。ここに彼女の両親が住んでいるらしい。

 だが、駅にてリィスを出迎えたのは、


「リィス、待ってたぜ」


 かつてヴァルフレアを闇魔法士に誘った男、グレジオであった。紫色のローブではなく、ラフなシャツ姿で傍から見れば闇魔法士だとは思えない。


「来てくれないかと思ったけど、偉いな?」


「あんな風に脅されたら、来ないわけにはいかないでしょ…!」


「おっと、その話は後でしようぜ。ここじゃドワスガルのヤツらに聞かれるかもしれないしな」


 グレジオはリィスの腕を掴み、駅から連れ出す。

 そうして彼女を連行していったのは、町の外縁部にある別荘地帯であった。自然豊かな町リグ・ディアスは憩いの場として有名で、この一帯には湖を囲うようにログハウス型の別荘が幾つも建てられている。

 そのログハウスの一つに、リィスを引っ張り込んだ。


「この建物は闇魔法士の所有物件でな、前にココでヴァルフレアとも秘密の話をしたんだぜ?」


 二年前の全国デュエル大会直前、グレジオはヴァルフレアを呼び出してこの建物の中で勧誘したのである。ドートル家にとっては、ある意味で因縁のある場所なのだ。


「なんだか運命を感じるよな? 兄と妹が揃ってココで闇魔法士への参加を表明するんだからさ」


「ふざけないで! わたしは別に闇魔法士になんか……」


「今更何言ってやがる! オマエに与えられた役目を忘れたのかよ!」


 反抗的なリィスに対し、グレジオは怒りを露わにして殴りつける。魔法を使ってはいないが、それでも魔力で強化された肉体から繰り出される一撃は重く、リィスはそのまま床に倒れた。


「アンタ、ほんとに最低…!」

 

「闇魔法士だからな。殺されなかっただけありがたく思えよ」


「わたしの親を殺そうとしている男が言えたことじゃないでしょ!」


「オマエの行動次第では命だけは助けてやるって言ってんだよ!」


 尚も言い返すリィスの体を、グレジオは思い切り踏みつける。脇腹に強烈な衝撃と痛みが加わって、リィスは悲鳴を上げるのではなく呻き声と共にうずくまった。


「なぁ、言ったろ? オマエがアルト・シュナイドを殺してくれれば、それで全ては解決なんだよ。オレ達にとっては厄介な敵がいなくなるし、オマエと家族も助かる。一石二鳥というヤツだな」


「アナタ達の得のためだけでしょう…!」


「なんでそうも反抗的なのかねぇ。あのヴァルフレアと同じ血が流れるオマエなら、人殺しくらい楽しんでやってもおかしくないハズだろうが」


「わたしはヴァルフレアとは違う! 殺人を楽しめるわけない!」


 ヴァルフレアと同質に見られ、リィスは痛みを忘れて怒鳴る。


「やってみないと分からんぜ? ま、オマエの魔法力じゃアルト・シュナイドを殺すのは簡単じゃないだろう……そこでだ、こんなアイテムをくれてやるよ」


「なに…?」


 グレジオが懐から取り出したのは、拳サイズの魔石であった。半透明のその内部には、紫色をした液体が封じられている。


「コイツは毒薬だ。しかも、ただの毒薬じゃないんだぜ? 闇市で流通していた、魔法薬なのさ。素材に特薬草は勿論のこと、とある希少な魔物から採取した毒液を混ぜて精製されていて、例えS級魔法士でもイチコロってわけだ」


「コレをアルト・シュナイドに飲ませろと?」


「オマエはアイツの側近になったんだろ? なら簡単じゃねぇか。飲み物にでも混ぜて、アイツに飲ませればいいだから」


 グレジオはリィスに魔石を押し付ける。この猛毒の魔法薬にて、アルトの暗殺を命じたのだ。


「一週間だけ時間をやるよ。つまり、ゴールデンウィーク期間中に抹殺すればいいんだ。もし失敗したり、警察とか誰かに計画について喋ったら……分かってるな?」


「この町に住んでいる、わたしの家族を殺すんでしょう?」


「ああ、それこそ楽しんでブッ殺すということだ」


 不気味な笑みを浮かべるグレジオは、リィスを置いてログハウスを出ていく。

 残されたリィスは、魔石を手にしながら暫く動けずに座り込んだままだった……

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