ロッシュの本音
朝陽に顔を照らされ、その眩しさによって目を覚ましたアルト。いつもと変わりない起床であったのだが、少し違和感を覚えて首を傾げた。
「あれ、裸になってる……」
部屋着など一切身に纏っておらず、布団の感触がダイレクトに素肌に伝わってきて、それが違和感の原因であった。アルトは裸族というわけではなく、このような姿で寝るなど今まで無かったのだ。
どうしてこうなったのかと、記憶を辿る。
「えっと、昨日の夜は……アッ!」
思わず大声を出してしまったのには理由があって、何故なら隣でアルトと同じく裸体のリンザローテが眠っていたからだ。寝顔すらも美しく、きめ細やかな肌が太陽光を反射して眩しく感じる。
そのリンザローテを見て、全てを思い出したアルト。想いを寄せていたこの生徒会長と交際関係となった初日に、体を重ねてしまったのだ。
「めちゃくちゃ気持ち良かったな……じゃなくて! 俺は学生の身分でありながら、なんてことをしてしまったんだ…!」
昨晩の至福の時間がフラッシュバックして体が火照るが、すぐさま理性で制御して頭を振る。学生ならば清い交際をするべきだと祖母にも言われていたのに、一線を超えてしまって強い反省の念に苛まれているようだ。
しかし、リンザローテのダイレクトな求愛を受けて断るなどあり得ず、お互いに求め合ったのならば悪い事ではない。
アルトの独り言のせいか、リンザローテもまた目を覚ました。
「あら、起きていらっしゃったのですわね」
「お、おはようございます、リンザ先輩」
「ふふふ、昨日の夜は楽しかったですわね」
「え、ええ。まあ……」
まだ寝ぼけているのか、目を擦りながらリンザローテは艶めかしく腰をくねらせ上半身を起こす。
「リンザ先輩、何か羽織った方がよろしいのでは…?」
「いえ、必要ありませんわ。だって、まだ家を出るまでには時間がありますでしょう?」
「そ、そうではありますが、裸のままでは……」
アタフタするアルトに対し、リンザローテは余裕の笑みである。しかも、獲物を狩るヘビのように眼光を光らせて、ゆっくりとアルトの胸板に指を這わせた。
「リンザ先輩…?」
「あの魔法薬の効果は十二時間持続しますわ。つまり、まだアルトさんの体内で効果を発揮している」
「は、はい?」
「わたくしの言いたいことは分かりますわね?」
と、リンザローテはアルトをベッドに押し倒す。その力は寝起き直後とは思えないほど強く、アルトは一切抵抗できない。する気も無いようだが。
「散々わたくしを焦らしたんですもの、責任を取っていただきませんとね。まだまだ付き合ってくださいな」
もはや欲望をセーブする必要など無くなったわけで、リンザローテは魅惑のキスと共にアルトに覆いかぶさっていく……
それから数刻後、アルトはリンザローテと共に正門から少し歩いた場所にある駅舎を訪れていた。全国デュエル大会の全日程が終了し、来校していた他の魔法高等学校の生徒らを送り出すためである。
アルトが駅のホームへと上がると、先に来ていたウィルが手を振りながら近づいてきた。生徒会ではないものの、ドワスガル代表選手としてお見送りに参加しているのだ。
「よぉ、アルト。昨晩はお楽しみ……って、随分ゲッソリとしているな」
ウィルが覗き込んだアルトの顔は、かなり疲労したようにやつれていた。まるで、闇魔法士や魔物と連戦して、魔力も体力も使い果たした姿である。
「ま、まあね……」
「それに対してリンザローテ会長は肌ツヤも良く、活き活きとしている……アルト、オマエよっぽどリンザローテ会長に搾り取られたんだな……」
「凄かったです……」
「チクショー! 羨ましいヤツだなオイ!」
昨日の夜の出来事について、これはもう訊くのは野暮だろう。アルトとリンザローテの様子を見れば、イロイロと”せいこう”したのは間違いなく、ウィルは心底羨ましそうにアルトにヘッドロックをかました。
「うふ、アルトさんとウィルさんは本当に仲がよろしいのですわね。まっ、わたくしとアルトさんのスキンシップには勝てませんが」
謎のドヤ顔マウントをしながら、リンザローテはホームに停まっている列車の傍に移動する。そこには、ブロデナンゾ高校の一行とロッシュ・バウラーが居た。
「やあ、リンザ。アルト君とは上手くいっているようだねっ?」
「ええ、それはもう。交際自体は昨日からですが、この一年半の間に育まれた二人の絆は既に夫婦の域に突入していると言っても過言ではありませんもの」
リンザローテの言うように、アルトとの間にある愛情と絆は急に芽生えたものではなく、去年から徐々に大きくなっていたのだ。昨日のアルトの告白によって想いが通じ合ったのは間違いないが、二人はとっくに良好な関係であった。
「ハハッ、それは良かったねっ。これからも仲良くやるんだよっ」
「ロッシュさん、アナタはこうなる事を望んでいたのではありませんか? わたくしとの縁談を円満に破棄するため、わざとアルトさんを焚きつけたのでしょう?」
「…まあね。軽蔑されるだろうけど、ボク個人はお見合いをしたいとは思っていなかったんだよ。勿論、バウラー家のために尽くす気ではいる……その辺の感情がゴチャゴチャになっていてね、ボクも精神的に追い詰められていたんだ。だから、アルト君に懸けてみたんだ。運命のサイコロを振らせて、ボクの今後を占おうとしたのは事実だよ」
個人の感情で格上であるガルフィア家との縁談を蹴るなど、それはバウラー家の看板にドロを塗るのと同じ行為である。そのため、リンザローテと結ばれたいとは考えていなかったロッシュにとって、アルトの存在は天啓のように思えたのだ。
もしアルトが勝ったのならそれで良し、ロッシュが勝ったのならばバウラー家の一子として使命を全うしようと懸けに出たのである。
「ボクもお年頃だからねっ、まだまだ色んな女の子と遊んでいたいのさ。その中で、運命の娘を見つけたいんだよ」
「ウィルさんみたいな事を仰る……まあ確かにアナタがアルトさんを利用した点は褒められたものではありませんが、しかしわたくしとしては感謝しているんですの。経緯はどうであれ、今回の事がキッカケとなって正式にアルトさんとお付き合いできるようになったのですから」
ロッシュがアルトの気持ちを問いたださなければ、いつまでもリンザローテとの関係は進展しなかったかもしれない。そういう意味では、リンザローテにとっては結果オーライであった。
「リンザ先輩、ロッシュさん、お待たせしました」
そんな会話をしている中、ようやくアルトがウィルから解放されてロッシュのもとを訪れた。
「アルト君、リンザとお幸せにねっ! キミとリンザはとてもお似合いなカップルだ。まさに運命の二人といった感じだよっ」
「なんだか照れますね。でも、俺とリンザ先輩は出会うべくして出会ったのだと思っていますよ」
一皮剝けたこともあり、心の内にある気持ちを包み隠さず口にするアルト。せっかく結ばれたのだから、もう遠慮するつもりは無かった。
そのアルトの言葉にリンザローテは耳を赤くする。今朝は積極的にアルトを押し倒したクセに、愛の籠った言葉には弱いらしい。
「うんうん、これで全て丸く収まって一件落着だねっ! さて、ボクは王都へと帰るよ。また近いうちに会う事もあるだろうし、それまでのお別れだっ」
ロッシュは満足したように、待機していた魔法列車へと乗り込む。
それを見送るアルトとリンザローテの手は、自然と静かにギュッと握り結ぶのであった。
明日も更新しますので、次話をお楽しみに!




