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平穏を崩す者達

 午後の錬成魔法学実習に備えて素材を集めたアルトとエミリーは、昼食のために学校食堂を目指す。生徒数が多いことから大ホールのような施設の中にあり、テーブルや椅子の数も多くパーティ会場のようだ。

 しかし、そんなキャパシティを誇る食堂もほぼ満席状態となっていて、空席を見つけるのも大変であった。


「エミリー、俺が席を確保しておくから先に注文してきなよ」


「いいの?」


「ああ。レディーファーストってやつだな」


 エミリーにそう促し、アルトは百人近い人でごった返す中から二人分の席を確保するべく視線を走らせた。

 その時、


「オマエ達、今いる場所から動くんじゃねぇ!」


 という怒声にも似た叫び声が入口の方から聞こえ、何事かとソチラに顔を向ける。

 すると、そこには紫色のローブを羽織った奇妙な男が八人立っており、先頭で叫んだ男は女子生徒を羽交い絞めにしているのが見えた。


「アルト君、アレ何…?」


「さあ……愉快な催し物とは思えないけど」


 何かのサプライズな行事とかイベントではなさそうで、羽交い絞めにされている女子生徒の恐怖に引き攣った表情は作り物ではないだろう。

 アルトは魔法で対抗策を考えようとしたが、先にローブの男から次なる声明が出される。


「この俺、グレジオ・ブレームの言う事には従ってもらう。もしオマエ達が魔法なり道具なりを使おうとする素振りを見せれば、この女を殺すからな。まずは大人しく人質となってもらおうか」


 そう言って生徒達を脅迫したのはグレジオだ。先程ヴァルフレアと湖畔で会った後、闇魔法士の仲間と合流して行動を起こしたのである。

 グレジオは女子生徒を仲間に預け、自らの右手を生徒達へと向けた。

 直後、食堂である大ホールの床に魔法陣が現れ、生徒達の足元で怪しく光る。


「アイツめ、無詠唱で魔法を使うのならS級魔法士なのか…?」


 自分と同じく詠唱無しで魔法を行使するとなれば、グレジオと名乗る男もまたS級魔法士なのだろうとアルトは推測する。


「エミリー、コッチに」


「う、うん……」


 この段階でアルトが反撃を行うことも可能ではあったが、敢えて魔法を使わずに様子を見る選択をした。

 というのも、敵の総数と真の目的が不明であるため、ここで一戦交えるのは危険だと判断したからだ。他にも敵の味方が潜んでいるかもしれず、予想外の奇襲を受ければアルトとてピンチは免れられない。

 それに、グレジオは生徒を人質にすると宣言したため、彼の魔法は殺傷系のモノではないと推測したのである。


「ア、アルト君…!」


 アルトの推測は正しく、発動したのは魔法士を無力化する魔法で、呪術系のカース・サイレンスと呼ばれるものであった。

 この魔法を受けると発声することが不可能になり、沈黙の状態異常となってしまうのだ。つまり、魔法の詠唱が不可能となり、反撃の手段を失ってしまう。

 食堂にいた生徒達は次々とカース・サイレンスによって言葉を発せなくなり、グレジオの指示に従って一か所に集められて事態の成り行きを見守るしかなかった。


「さて、もう少ししたら異常に気が付いた学校の職員どもがやってくるだろう。そうしたらコチラの要求を伝えるんだ」


「校長の命と金目の物を差し出すように、だよな? だが、相手は俺達の要求を呑むかな?」


「本気度を示すためにも、見せしめとして何人か生徒を殺して差し出すか。そして、時間が経過するごとに更に殺すと脅す」


「いいね、それ」


 闇魔法士の仲間に対し、なんとも恐ろしい提案をするグレジオだが、彼に罪の意識などはないようだ。まるでビジネスの話のように策を示しているのである。


「そして目的を達成したら、このガキどもを盾にしつつ逃走する。ついでに何人か拉致し、海外に売り払って金に換えるのもアリだな」


 そう呟くグレジオは有頂天になっているのか、声のトーンが普段よりも高くなっていた。今のところは順調に事が推移しており、後は校長への復讐と金品の略奪を完了させるだけである。

 しかし、そんな中でアルトは冷静であった。


「エミリー、俺はアンチ・カースで既にヤツの魔法を解除している。今キミのも解除するが、声は出さないようにね」


 このカース・サイレンスはA級以下の魔法士にのみ有効であるという欠点があった。というのも、S級魔法士は詠唱を行う必要が無いため、アルトのように呪術系の状態異常に対する対抗魔法で解除出来るのである。

 アルトはグレジオ達の視線が自分に向いていないのを確認し、エミリーの喉に人差し指で触れ、解除魔法のアンチ・カースを発動して治癒をした。


「ヤツら以外に仲間はいないようだね。ともすれば……」


「ど、どうするの?」


 耳元で消え入るような小さい声で問いかけてきたエミリーにアルトは説明を行う。


「俺がヤツらを制圧する。奇襲を掛け、一気に無力化するんだ」


「危ないよ、そんなこと……」


「しかし、アイツらは俺達を無事に解放する気はない。さっきの話を聞く限り、何人かは犠牲になるかもしれないからね……なら、やれる時にやるしかない」


 不安げなエミリーに決意の眼差しを向けるアルトは、魔力を全身に巡らせて臨戦態勢を取る。このような状況ではもっと穏便な解決手段を講じるべきなのだが、このまま安全が保障されるわけもない。

 アルトはグレジオ達の隙を探りながら、闘志を漲らせる…!

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