アルトの過去
アルトは祖母の教えを自身の行動指針としており、強く尊敬しているのだなというのは付き合いの短いエミリーでも分かるほどであった。
だが、その祖母とアルトは血縁関係にないらしく、エミリーはヨソの家庭事情に口を突っ込むのは如何なものかと思いながらも聞かずにはいられない。
「血が繋がってないってどういうコト?」
「俺が赤ん坊の時に拾ったんだって。まさにこんな感じの森の中でね」
周囲の環境を腕で示しつつ、アルトは身の上話を始める。
「捨て子だったんだ。だから本当の親の顔など知らない」
「そんな……」
「でも、俺の地元じゃ珍しいものじゃなくてね。子供を作ったのはいいけど、貧困のせいで育てるのがままならないからと捨てる親が後を絶たない。無責任だと思わないか?」
「そりゃ酷いよ。育てられもしないのにさ」
「だけど娯楽の少ない地域では遊びとして肉体関係を持ち、望んでいないが子供を作ってしまう事例が多いんだ。そして、産んだあとは山や森といった人気の無い場所に……」
淡々と語るアルトには悲嘆の感情は無い。自分を捨てた真の親に対する怒りも感じてはいないし、事象を説明する研究者のような口ぶりで、まるで他人事のようだ。
「だからね、村を少し離れると白骨化した遺体などが転がっているんだ。俺も何回も目にしたし、そういうのが無いドワスガルの森は良い場所だって思えるよ」
「アルト君……」
「ごめん、ヘンな話をしてしまったね。ともかく、俺はお婆ちゃんに感謝しているんだ。ちゃんと面倒を見てくれたし、生きるために必要な知識や技術を色々と仕込んでくれた。だからこうしてエミリーに素材集めのレクチャーも出来るわけだしさ」
そう言ってウインクし、アルトは木の枝を拾い上げる。これは石斧の持ち手として加工するのに丁度良い太さと長さで、午後の錬成魔法実習の素材として適していた。
「とりあえず最低限の素材は集めることができたね。もう少し探索して予備の物を見つけてから学校へ戻ろうか」
「この木の枝と石に錬成魔法”クラフト”を使えば石斧になるんだね?」
「あとはエミリーの想像力、そして魔力の加減にかかっている」
「うぅ、胃が痛くなってきた……スコップを作ろうとしてグルグル巻きの奇怪な物体を作ってしまう女だからね私は……」
「アレは芸術点が高かったけどなぁ。ま、そんなに心配しなくても大丈夫。集中すれば大抵の物は造作もないって俺のお婆ちゃんも言ってた」
エミリーの肩に手を当てて励まし、アルトは彼女を先導しながら緑を掻き分けていく。
生い立ちを考えれば不幸ではあるが、今のアルトは自分の運命を呪ったりはしていない。
こうして学友と元気に授業に勤しめるのなら、それで充分であった。
アルトとエミリーが校外探索しているのと同時刻、ヴァルフレアも森の中に足を踏み入れていた。
ふてぶてしい態度で虫をワザと踏み潰し、時に魔法で小動物を痛めつける彼の行動を咎める者はおらず、一人で草木を掻き分けていく。
「ったく、こんな場所を待ち合わせに指定するなってんだ」
彼は授業の一環で訪れたわけではなく、木々に囲われた大きな湖へと辿り着いて周囲を見渡す。ここを何者かとの待ち合わせ場所としているらしい。
そして、湖畔を見つめる青紫色のローブを羽織った青年を見つけて声を掛けた。
「お久しぶりっすね、グレジオ先輩。いや、元先輩って言った方が正しいですかね?」
ヴァルフレアの声に反応し、グレジオと呼ばれた男がゆっくりと振り向く。その生気の無い瞳に見つめられると本能的に警戒感を感じざるを得ないが、ヴァルフレアは慣れているのか動じずにグレジオの隣に並び立つ。
「呼び方なんてどうでもいいさ。学年は違えど、同じS級魔法士としてイロイロと楽しんだ仲だろう?」
S級魔法士であるグレジオは一つ上の先輩で、ヴァルフレアを仲間に引き込んで堕落させた張本人である。この男と出会わなければ、ヴァルフレアは真面目なままだったかもしれない。
「そうっすね。半年前に先輩が退学させられて俺も寂しかったっすよ」
心にも思っていない棒読みっぷりでそう口にするヴァルフレア。
最初の内はグレジオを慕っていたのだが、次第に邪魔だと感じるようになっていたのだ。というのも、グレジオさえいなければ学校内の生徒でS級魔法士はヴァルフレアだけとなり、特別な存在として注目をもっと自分に集められるという邪念を抱いたからである。
「悪目立ちし過ぎたとはいえ、校長の野郎……まさかS級の俺を退学処分にするなんて……」
約半年前、グレジオは素行不良を原因として退学処分となっていた。S級は希少である事から多少の問題は見逃されるのが現行の社会であり、注意を受けてもそれ以上は無いだろうと慢心していたのだが、バッサリと断じられてしまったのだ。
「で、先輩は……」
「ああ、俺は学校と校長に復讐するために来た。この俺を、S級の俺を貶めた罪を償わせるために!」




