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素材採取、森の中にて

 翌日、アルトとエミリーの姿は学校の周囲を囲う森の中にあった。

 広大な面積を誇るこの森もドワスガルの所有物であり、野外授業でよく利用されていて、今回は錬成魔法で使用する素材を採取するために訪れていたのだ。


「アルト君、ちょっと待ってよ~……よくこんな足場の悪い場所でもスタスタと歩けるね」


 アルトの後ろから付いて行くエミリーは、太い木の根っこに躓きそうになっている。こういう自然環境を歩きなれていない彼女にとっては苦行であり、顔に飛びついてきた虫を全力で振り払いながらエミリーはしかめっ面をしていた。


「ゴメンゴメン」


「アルト君は野生児なの?」


「俺の暮らしていた村はこんな感じの森や山に囲われていてさ、食料や道具の素材を探すために頻繁に出入りしていたんだよ。それで慣れているんだ」


 故郷での生活を懐かしみつつ、アルトはよろけたエミリーの肩をサッと抱き寄せて転倒を防ぐ。体幹がしっかりしていることもあり、体重の軽いエミリー程度であれば支えるのも容易だ。


「あ、ありがとう」


「よく足元を見てみて。凹凸の少ない場所を選んで歩けばコケないよ」


 助言通りにエミリーは地面を観察し、隆起している箇所などを避けて歩を進める。


「そういえば、昨日はどうだった?」


 少し余裕が出てきたエミリーは、気になっていた昨日のアルトとリンザローテの勉強会について問うてみた。なんだか女々しいようにも思えたのだが、意中の相手が別の女性と密室で二人きりになるなど、年頃の少女に気にするなという方が無理があるだろう。


「少しやり過ぎて疲れたよ」


「ヤリ過ぎて!? 野生児どころか超肉食だったんだ!?」


「ナニか勘違いしてないか?」


「だってエッチなコトをシたんでしょ!?」


「してないわ!」


 相変わらずのエミリーの邪推にアルトは反論したが、それに気を取られたせいで土の窪みに気づかず片足を突っ込んで転倒しかけた。

 ダサいところを見せてしまったと恥ずかしくなりながらも、平静を装って体勢を立て直す。


「ホントにどーいう勘違いなの…?」


「だって疲れるくらいヤッたって言うから……」


「だから勉強会だって話したろ? 勉強をし過ぎて疲れたんだよ」

 

 靴に付いた土を払いつつ、アルトはエミリーをジト目で見つめる。


「エミリーは結構ピンクな思考をしているよな」


「思春期なんだからこれくらいフツーですよ、フツー。てか、あんな美人さんを自室に連れ込んで二人きりだなんて、逆にアルト君はムラムラしたりしなかったの!?」


「し、してません!」


 嘘である。


 リンザローテ側のアプローチの効果もあり、アルトは理性を保っていたとはいえ欲求を感じていたのは確かだ。

 それに、今でもリンザローテの腕の感触は明確に憶えている。


「そんなコトは今はいいだろう。それよか、午後の実習時間のためにも早く収集をしておかないと昼飯の時間になっちゃうぞ」


「だね。今回の錬成魔法学では石斧が製作目標だってミカリア先生が言っていたけど、まさか素材集めからやらされるとは思ってもなかったよ」


「素材の良し悪しを見極める能力も錬成には必要なのさ。目標物に合わせた大きさと質量を持った素材でないと、いくら魔法を掛けてもキチンと完成させられない。その観察眼を養うには実際に探し回るのが最適なんだよ」


 同じ材質の素材を用いても、大きさや劣化具合などの状態の違いによって完成品に影響が出るのだ。そのため、一流の錬成魔法士は世界中を巡って納得のいく素材を集めたりもするらしい。


「なるほどね。でも石斧って……かなり原始的な道具じゃない?」


「え、現役で大活躍中の道具だろ? 俺の地元じゃ鉄を入手するのも大変で、石器は重宝されているんだよ。特に石斧は狩りにも木の伐採とか多用な使い方ができるから、村ではよく見るモンだったぞ」


 都市部では鉄などの金属を入手しやすいが、未発達の貧乏地区では貴重品である。そのため、自然環境下で入手のしやすい物品が重宝されているようで、石を用いた道具はポピュラーなのだ。


「だがね、石っていっても丁度いいのを見繕うのは案外大変なんだ」


「そう? コレなんか使えそうじゃない?」


「少し小さいかな。コッチのほうが良さそうだよ」


 アルトは先程転びそうになった場所の近くに落ちていた石を拾い上げる。重量と大きさも程良く、石斧の刃部分として使用するのに適していた。


「さすがアルト君!」


「これもお婆ちゃんの教育の賜物ってヤツさ。こういうのも教え込まれたからな」


「本当にお婆ちゃんが好きだよね、アルト君は」


「人生の師匠とも言えるかもしれない。血は繋がってないんだけど、絆は強いし本当の家族と変わらない間柄だしな」


「え!?」


 アルトは敬愛する祖母と血縁関係は無いらしく、彼がサラッと口にした内容にエミリーは驚いて口を開けていた。

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