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ヴァルフレア、叛逆

 アルトは宿泊している部屋を抜け出し、リンザローテとの待ち合わせ場所へと急ぐ。

 だが、これは逢瀬を重ねるためではなく、ヴァルフレアに呼び出されたリンザローテを護衛する任務を帯びているからであり、少し緊張した面持ちであった。


「リンザ先輩に大切な話とやらがあるらしいけど、こんな深夜に一体どういう用件なんだヴァルフレアめ……」


 間もなく夜の十一時ということもあり、同室のウィルや他の宿泊客達は就寝していて廊下に人影は無い。

 そんな時間に人を呼び出すというのは普通ではないし、ヴァルフレアの性格を考えればリンザローテの身を案じるのも当然だろう。

 何か悪い予感を感じながらも、一階エントランスに降りたアルトはリンザローテの姿を探した。


「アルトさん、コッチですわ」


 アルトを先に発見したのはリンザローテで、エントランスの端に設置されていたソファから立ち上がり手を振っている。


「お待たせしました、リンザ先輩」


「申し訳ありません、お手数をお掛けしてしまいまして……」


「気になさらないでください。一人でヴァルフレアに会わない方がいいと進言したのは俺ですし」


「しかし、ヴァルフレアには見つからないようお願いしますわ。あの人を刺激してしまうと、どうなるか分かりませんから……」


 周囲を観察し、リンザローテはヴァルフレアに見られていないか用心しているようだ。

 一人で来るよう指示を受けていたし、特にアルトは連れてくるなとクギを刺されているので、こんな場面を彼に目撃されたら怒りを買ってしまうのは間違いない。


「俺は庭園の物陰に隠れてあなたを見守っています。キシュにも協力をしてもらいましょう」


 と、アルトはキシュを呼び出す。味方は多い方がいいし、小型のキシュならば隠密性が高くより近くまで接近して隠れられるだろう。

 しかし、アルトからの依頼を聞いたキシュはムキーッと拳を振り上げ、怒りのまま抗議する。


「なんであたしがこの女の護衛なんか!」


「そう言わないの。リンザ先輩は、俺も大変お世話になっている方なんだから」


「でもあたしのライバルなんですケドー!?」


「ライバル…? ともかく頼むよ」


 真剣な眼差しで訴えるアルトの目を見れば、キシュだって不満ながらも従わざるを得ない。使い魔としてアルトに尽くすと誓って契りを立てたわけであるし、この真面目な男が憂いているとなればよほどの事態だとキシュも理解している。


「もう、分かったわよ。まったく、感謝しなさいよねリンザローテ」


「ええ、助かりますわ。心細かったですし、ありがとうございます」


「そ、そう素直に言われると調子が狂うけれど……ダーリンのために働くだけなんだから!」


 ツンとそっぽを向くキシュだが、これは照れ隠しのようなものである。

 口は悪いし、アルト以外には気遣いをすることなどない彼女だが、性格破綻者というわけでもないのだ。なので、こう真っ向から礼を言われれば多少は気に掛けてやろうという気分にもなる。


「では、参りましょう。わたくしが先に」


 リンザローテが先行しエントランスを出ていく。

 その行く先は宿に隣接された庭園で、宿泊客達の憩いの場として提供されていた。専門の園芸師に整えられたのであろう木々や、丁寧に育成された花々が美しいのだが、深夜ということもあって人気は無い。

 しかし、その庭園の中にポツンと一人立つ者がいる。鋭い目つきのその男は、他の誰でもないヴァルフレア・ドートルだ。


「…来たか」


 待ちわびていたとばかりに、ヴァルフレアは近づいてきたリンザローテに迫る。


「ヴァルフレア……何用ですの? こんな時間に」


「単刀直入に言う。俺の女になれ、リンザローテ」


「愛の告白のつもりですの? そんな風に言われて、”はい”と答える人間はいませんわよ」


「オマエのためを想って言っているのだ、俺は!」


 何か焦燥感に駆られるように、ヴァルフレアはリンザローテの手首を強く掴む。

 痛みを感じたリンザローテは眉を歪めながら振りほどこうとするが、ヴァルフレアは離そうとせず、むしろ無理矢理に引き寄せた。


「わたくしのためを想うのならば、こんな乱暴なやり方など…!」


「もう時間が無いんだ! この宿は間もなく闇魔法士によって襲撃される。詳細は省くが、ターゲットは客全員なんだよ!」


「なにを言って…?」


「闇魔法士に参加する俺ならば、オマエを守れる。これしか方法は無いんだよ!」


「!?」


 ヴァルフレアの言葉を呑み込めずにいるリンザローテだが、彼の”闇魔法士に参加する”という文言だけは明確に理解できた。反社会勢力の一員となり、人々の敵となるということだけは。


「ヴァルフレア、それがどのような事なのか分かっているのですか! 闇魔法士になるなど、冗談でも言っていいものではありませんわ!」


「冗談ではない! 俺はドワスガルをヤメて、己の力で生きていける世界に身を投じるんだ!」


「であるならば、わたくしはドワスガルの生徒会長としてアナタを拘束しますわ! そして、闇魔法士の計画について喋っていただく!」


「やれるものかよ! A級のオマエが、S級の俺をッ!」


 反抗されてやむを得ず、ヴァルフレアはカース・サイレンスを無詠唱で行使する。これによってリンザローテは声を発することが不可能になり、A級の彼女は魔法を使えなくなってしまった。

 こうなれば、あとは連れ去るだけだとヴァルフレアは再びリンザローテの腕を掴むが、


「そこまで堕ちたか、ヴァルフレア!」


「なんだっ!? アルト・シュナイド!?」


 庭園の木々の影に息を潜めて隠れていたアルトが、リンザローテの危機に飛び出してきたのである。

 そうしてヴァルフレアの動きを封じ込めようと、バインドロープを発射した。


「こんなロープ如きなど!」


 しかし、ヴァルフレアとてダテにS級魔法士ではない。自身の体にロープが接触した直後、アンチバインドによって打ち消してみせる。

 だが、これは陽動であった。アルトの狙いはヴァルフレアの気を引くことにあったのだ。


「ダーリンの役に立てるんなら!」


 アルトとは別の位置に隠れていたキシュが、ヴァルフレアの死角を突いて飛翔。そうして一気に接近し、ヴァルフレアの頭髪にしがみ付いて引っ張る。


「またこの小さいヤツかよッ!」


 更なる予想外の不意打ちによってキシュに意識を向けざるを得ず、リンザローテを掴む手を離してしまった。

 そこに滑り込むアルトは、魔法ではなく素手でヴァルフレアの頬を殴りつける。勿論魔法攻撃も可能ではあるものの、リンザローテに被害が出る可能性を考えての行動であった。


「アルト・シュナイド…! クソッ、俺を裏切ったのだなリンザローテ!」


「前にも言ったことだが、最初にリンザ先輩を裏切ったのは貴様だ! そんな貴様が、言えたことか!」


 アルトはアンチカースでリンザローテを治癒し、ヴァルフレアに睨みを効かせる。 

 出会った頃からいけ好かない相手ではあったが、いよいよ許せぬと敵意を強めていった。


「ヴァルフレア、もう手加減はしない!」


「それはコチラのセリフだ! テメェだけは絶対に殺す、今度こそ殺す!」


 リンザローテの心を掴めなかったヴァルフレアは、逆恨みのままアルト目掛けてフレイムバレットを撃つ。もはや、リンザローテを巻き添えにすることなどお構いなしだ。

 その一撃をバリアフルシールドで防ぎながら、アルトはキシュと共に攻勢に打って出る…!

 遂に第100話を迎えました! 


 一つの区切りではありますが、まだまだ物語は続いていきますので今後とも宜しくお願いいたします!

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