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8 いざ結婚!

深く考えず頭を空っぽにしてお読みください!


 魔神王城。

 それは古に封印されたはずの魔界の中心に立つ、威厳と格式ある暗黒の城である。

 魔界がこの世界の果てに現界した際に、この城も一緒にやってきた。


 そんな魔神王城のバルコニーへと降り立つ陰が二つ。

 初心者装備に身を固めたマーサと、褐色魔王系ロリのアルディだ。


 飛んで来た時にもその大きさに驚いていたが、降り立っても尚興奮は冷めやらない。

 景色に見える山と比べたり、手すりから見下ろしてその高さを確かめる。

 とても楽しそうだ。


「すっごい大きなお城だね、アルディちゃん!」


「そうであろう? 素材から(こだわ)り抜いた吾輩自慢の居城であるからな!」


「このお城、アルディちゃんが作ったの!?」


「うむ。魔界ごと封印されておる間に、余りにも暇過ぎて作ってやったのだ。やってみると案外楽しくて、ついつい熱が入ってしまったな。たっぷり五百年はかけて完成させたのである」


 魔神王城は世界観通りのファンタジー的な城だ。

 ラスボスの居城に相応しく暗黒感マックスであるが、それはアルディの趣味を形にした結果こうなった。

 素材収集から設計建築の一から十まで一人で作り上げた力作である。


「すごいね! さっきもお空飛んでたし、アルディちゃんって何でも出来るんだね!」


「魔神王である吾輩にとっては当たり前だというのに、マーサにそう言われると……なんだか照れてしまうな」


「うー、アルディちゃん可愛い!」


「魔神王である吾輩を可愛いなどと、本来なら不敬でしかない筈なのだが、恥ずかしく思いつつも悪くない。これも新鮮な気持ちであるな!」


(アルディちゃん、本気で可愛い! 可愛いしか言えない!)


 はにかんだかと思えば照れつつも明るく笑うアルディの姿が、マーサのハートにダイレクトアタック。

 抵抗できずにライフで受けたマーサもまた、正しく魅了されてしまっていた。


「さて、それではさっそくマーサの部屋を用意しなくてはな!」


「私のお部屋?」


「うむ。吾輩の部屋で一緒に過ごすのも良いのだが、焦り過ぎは禁物と古の魔神王が残した≪暗黒古事記≫にも記してある。手始めに吾輩の部屋の隣でどうだ? 長らく使っていなかったが、吾輩の手にかかればすぐに準備が整うぞ!」


「えと、えっと」


「それもまだ早かったか? それならば、好きな部屋を選んでもよいぞ。今は吾輩以外誰もおらぬから、選び放題である!」


「うん……?」


 突然の展開に混乱していたマーサだったが、とある言葉に意識が向いた。

 

「このお城にアルディちゃんしかいないの?」


「ん? 今はそうであるな。何せ魔界ごと異界に封印された時に吾輩以外は完全に封印され――」


「アルディちゃん!」


「――うぶっ!?」


 マーサは、思いきりアルディを抱きしめた。

 小さなアルディの顔が、それなりにあるマーサの胸に押し付けられるように。


 広い城に五百年以上も一人暮らし。

 そう考えたら身体が勝手に動いてしまっていたのだ。

 その突然の抱擁にアルディは驚いた。

 衝撃で硬直し抱きしめられたまま、顔の温度と赤みが急激に上昇していく。


「な、ななななどどどどどどどうしたマーサ!? 暗黒夜空を眺めながらも悪くないがやはり最初はベッドの上で」


「結婚しよう!」


「マーサ……! いいのであるか? こんな吾輩でも」


「大丈夫! 私が幸せにしてあげるから!」


(ゲームだからって、NPCだからって、魔神王だからって! こんな小さな子を放っておけないよ!)


 マーサは断言した。

 オープニングイベントが始まってから色々なことがあって、マーサの思考回路は遂にショートしたのだ。

 普段なら自分がおかしなことを言っていると気付いた可能性もあるが、今のマーサはこれがベストな選択肢だと確信した。


(もうお友達になってたし、可愛いし、可哀そうだし、(しもべ)は無理だけど私がお嫁さんになってアルディちゃんを支える!)


「と、突然そのようなことを言われても困るのである!」


「あ、ごご、ごめんなさい! いきなりすぎたよね! 」


「あいや違う! わ、吾輩が言いたいのは、幸せにしてくれると言われてもだな、その」


「え?」


「幸せにするも何も! ……吾輩は今の時点で既に幸せなのである。マーサの方から結婚しようと言ってくれたことが、とてつもなく幸せなのである!」


「アルディちゃん!!」


「マーサ!!」


 二人は強く抱きしめ合った。

 きっかけは些細なことだったのかもしれない。

 五秒ほど目が合い、魅了されたアルディが好意を持った。

 五百年以上一人で過ごしてきたアルディの境遇を可哀そうだと思った。


 たったそれだけだ。


 マーサへの好意はスキルの効果によるもの。

 マーサが言い出した結婚も、哀れに思ったから勢いで言ったものでしかない。


 しかし、愛が生まれるきっかけに大きなものは必要ない。

 どんなに些細だとしても、大きな大きな愛へと繋がるものなのだ。


「アルディちゃん、二人で仲良く暮らそうね!」


「うむ。ではまずは結婚式を挙げる準備からだな。まずは吾輩の配下の中でも幹部である暗黒四魔神を叩き起こして――」


「えっ?」


 マーサが驚きの声を上げて、アルディを引き剥がした。

 不思議そうにアルディの顔を見つめている。


「うん? ど、どうした? あんまり見つめられると照れるのだが……! ま、まさか、そういうことか!? まだ心の準備が出来ていないが、マーサが望むのであれば……!!」 


「部下の人達、生きてるの?」


 目を閉じてスタンバイに入ろうとしたアルディを止めたのは、マーサの素朴な疑問であった。


「うむ、生きておるぞ」


「え、だってさっき他の人達はいないって……」


「ああ。魔界ごと異界に封印された時に吾輩以外は一緒に完全に封印されてしまったのだ。自由に動けた吾輩も万全ではなかったのでな、部下共を解放するのはこの世界に戻ってからと決めていたのである。異界への封印が解けた今、吾輩を邪魔するものは何も無いのである!」


「な、なるほどー……」


 マーサは、一人で過ごすことになるアルディを不憫に思い、プロポーズをした。

 しかし、実はアルディは一人ではなかった。

 封印されていただけで、部下は存在していたのだ。しかも、すぐにでも復活させることが可能。

 マーサの気遣いは見当外れであったと言える。

 しかし。


「我が配下が目覚めたら結婚式を執り行うぞ! 我が城を挙げての盛大なものにしてくれよう!」


 アルディにとっては間違いなく最高の申し出であった。


(……ま、いっか。アルディちゃん、とっても幸せそうだし)



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