66 いざ閑話!~皇帝へあてた手紙~
木陰へと移動したアルディは再度通信用魔道具を起動する。
部下のメルドへ細かな指示を出す為である。
『はい、メルドでございます』
「マーサの意向で帝国へも報せを送ることとなった。手紙の代筆を頼むのである」
『畏まりました。手紙の内容はどのようなものにしますか?』
「そこのところもきちんと話してきたのである。あーっと……」
青い空に散りばめられた青い葉っぱを眺めながら、アルディは先程の会話の内容を思い出す。
「まずは、ミリアはもう帝国へ戻ることはないそうだ。本人の意思は固いし、マーサの下を離れるなど有り得んのである」
『それは間違いないですね。では理由は添えますか?』
「うむ。偉大なるマーサの妹として迎えられたから、として欲しいそうである」
『なるほど、簡潔にして明瞭な理由ですね』
「そうであろう。後は、どうやらミリアの元父親である皇帝はミリアを溺愛していたそうである。取り戻そうなどと愚かなことを考えぬよう、釘を刺しておくのである」
『畏まりました。他には何かございますか?』
「いや、おおまかには以上である。細かな部分はいつも通りメルドに任せるのである!」
『細かく指示してくださっても構わないんですが……承知しました。マーサ様と妹君になられたミリア様の為に精一杯働きます』
「うむ、任せたのである」
▽
数日後、神聖帝国ドミナリオンにそびえる宮殿にて。
行方不明となった第三皇女捜索の為に飛び出そうとしていた皇帝の元へ一通の手紙が届いた。
それは突然空中に現れ、パサリと皇帝の前に落ちたのである。
嫌な予感がした皇帝はその手紙を開いた。
中には非常に整った字で、こう書かれていた。
『
お父様へ
貴女の娘ミリアーナは偉大なる魔神姫様の血族に加わることとなりました。
故に、お父様の元へ戻ることは二度とありません。
事情があって代筆を依頼しているので信用出来るよう証拠の品を贈ります。
これは私自身の意思で決めたことです。
決して捜さないでください。
皇女としての誇りを捨て変わり果てた私と再会したところで、きっと幻滅
してしまうだけでしょう。お互い幸せになりません。
この忠告を聞いていただけなかった時は、帝国に災いが振りかかります。
決して捜さないでください。
お願いします。決して捜さないでください。
ミリアーナ
』
皇帝の手の中には、第三皇女ミリアーナが身に着けていた指輪と、それに巻きつけられた美しい薄水色の髪の毛が握り締められていた。
「うちの可愛いミリアちゃんを攫ったのは腐れ魔族かぁ!! 自分の意思だと!? 良く言う! 生贄か何かにする気満々じゃないか!! まずは魔法都市フェーブルへ行くぞ! 魔導列車を襲撃した魔族についての情報を集める!」
「「「「「はっ!!」」」」」
猛り狂った皇帝は自らが先陣に立ち、約五万の兵を引き連れて魔法都市フェーブルへ繋がる転送装置へと突撃していった。
それが災厄の引き金を引く行為だとも知らずに。
皇帝が転送装置へ飛び込んだ直後、とある細工が起動した。
それは巧妙に仕掛けられた罠。
フェーブルに設置された転送装置は一方通行となり、他からフェーブルへは移動出来るが、フェーブルから他へ移動することは不可能。
同時に、魔法都市フェーブルを囲むように大量の魔物が出現した。
どこからともなく突如として現れた魔物に、フェーブルの運営を押し付けられた貴族はすぐさま救援を呼ぶことを決めた。
しかし、転送装置は機能しない。
そして次々と押し寄せる神聖帝国ドミナリオンの兵士達。
帰ることも出来ずに兵士たちは都市の防衛の為駆り出される。
そうしてフェーブルの住民と五万の兵士達は終わりの見えない籠城戦へと唐突に巻き込まれたのであった。
なお、運悪くその場にいたプレイヤー達もしっかり巻き込まれている。
「あらら、だから捜さないように三回も手紙に書いたんですが、お話の通り馬鹿な皇帝ですね」
軍勢の魔神メルドは呆れたように呟いた。




