64 いざゲット!!
「改めて聞こう、貴様は何であるか?」
「はい、ワタクシはマーサ様のペットにございます」
「うむ、自分の立場がしっかりと理解出来ているようであるな」
そこは森と浜辺の境界線。
草が生え始めているとはいえ地面のほとんどが砂である。
その砂におでこをめり込ませて土下座しているのは神聖帝国ドミナリオンの第三皇女、ミリアーナ・ドミナリオン。屈辱よりも恐怖で一杯の彼女は溢れそうになる涙をこらえながら、頭を砂に押し付けることで必死にこらえていた。
震えそうになる全身も、逃げ出しそうになる足も。目の前にいるのは敵対者であり圧倒的な強者。何が刺激となって殺されるか分からないからだ。
(どうしてこんなところに魔神王が!? それに、こんなポワポワした娘が魔神姫? でも確かにこの美しさ可憐さはあの映像で見た姿そのまま……! とにかく今は言う通りにしないと簡単に殺されてしまうわ――!!)
そんな姿を腕を組み、満足げに見下ろしているのは魔神王アルディエル・ゴールドライト。
苦笑いしているマーサを溺愛するこの世界のラスボスである。
「アルディちゃん、私ペットはペガ達だけで足りてるよ?」
「っ!?」
「ふむ、ではサクッと始末しておくのである。マーサのペットでなければ貴様の価値などここの砂よりも軽いのである」
「ひ、い、いや……っ」
(こんなところで死んでしまうなんて。しかし、ワタクシは神聖帝国ドミナリオンの第三皇女。惨めに命乞いをするくらいなら最後に一矢報いて散って見せるわ)
泣き叫びそうになるのを抑え込んで、ミリアーナは覚悟を決めた。
殺されるのは間違いないが、それでも最後まで誇りを捨てないと。
しかし、それに待ったをかける人物がいた。
「待ってアルディちゃん」
「む、どうしたマーサ」
「ペットはいらないんだけど、実は私、他に欲しい物があって……」
「言ってみるがいい。吾輩に出来る事ならなんでも叶えるのである」
(まぁ勿論、マーサの為ならば不可能などないのであるがな!!!!)
照れながら言いよどむマーサ。
自信満々に続きを促すアルディ。
土下座のまま沙汰を待つミリアーナ。
「私、ずっと前から妹が欲しかったんだ」
「い、妹? 妹とは、その、あの妹であるか?」
「うん、多分その妹だよ」
チラッ。
ビクッ。
アルディが視線を向けると、何かを感じ取ったのかミリアーナの身体が小さく跳ねた。
「ということは、こやつを妹にするということであるか?」
「うん! ミリアーナちゃんが良ければ、なんだけど……どうかな?」
マーサはミリアーナの側に寄ると、しゃがみこんで問いかけた。
その可憐な声に思わず頷きそうになるも堪えた。そして思考を巡らせる。
(ワタクシを妹に? 狙いは一体? 人質? それならばペットでも大して変わらない筈。……ワタクシを騙す為に言い方を変えた? そうよ、この状況ではどのような関係になったとしても奴隷と変わりはしない。惨めに生きるくらいならば誇りを持って死ぬと決めたのだから、ワタクシの答えは一つ)
ゆっくりと上げたミリアーナの顔は決意に満ちている。
「ワタクシは貴女の妹にはなれませんわ」
「ほう、ではここで死んでも良いのであるな?」
「ええ、構わないわ。ワタクシは誇りと共にある。殺しなさい」
顔を上げただけでほぼ土下座状態ではあるが、それは仕方のないことだ。
魔神王の殺気にあてられて身体が咄嗟に動いてしまった結果なのである。
一度心が折れたとしても最後には誇りを取り戻した彼女の高潔さを褒めるべきであろう。
「お願い、どうしてもミリアーナちゃんみたいな可愛い妹が欲しかったの。私の妹になって欲しいな……ダメ?」
「お姉様……!」
「やった、嬉しい!」
「共にある筈の誇りがどこにも見えんのである」
ミリアーナの精神力もマーサの魅力には抗えなかった。砂まみれの両手をしなやかな両手で優しく包み込み、ねだるように問いかけられればイチコロである。
はいかいいえで答える前に姉と呼んでしまう程に見事な堕ちっぷり。
アルディが嬉しそうに笑うマーサに反応する前に素でつっこんでしまう程に見事な妹堕ちであった。
「誇り? このワタクシにお姉様の妹になる以上の誇りなど存在しないわ!」
「それは間違いないのであるが、貴様はそれで良いのであるか」
「勿論よ!!!」
「そ、そうであるか」
全身全霊を持って断言するミリアーナ。その迫力は魔神王すらたじろかせる勢いがあった。
「それじゃあ、ミリアーナちゃんのこと、ミリアちゃんって呼んでもいい?」
「はい、お姉様の好きなように呼んでください!」
「うん、ありがとうミリアちゃん」
「はぁー……!! か、かわ、おね、お姉様かわわわわわ」
念願の妹を手に入れたマーサは満面の笑みを浮かべる。
それを至近距離で見てしまったミリアはその暴力的なまでの魅力に全身が焼かれるような何かを感じた。
「うむ、マーサの魅力に気づいたのならば良し。マーサの妹ということは吾輩の妹でもあるということなのである! これからよろしく頼むぞ、ミリアーナ!」
マーサの妹となったからには人間と言えど無下に扱うわけにはいかない。
それどころか、マーサの魅力で堕ちたということは同士。そしてマーサの妹ということは自分の妹でもある。
単純な性格をしているアルディは、屈託のない笑顔でミリアに手を差し出した。
「ええ、こちらこそよろしくお願いしますわ、アルディエルお姉様」
その手を握りしめ、すっと立ち上がったミリアも笑顔で応えた。
薄汚い欲望に塗れた姉だった者達とは違う、真の姉。その姉が認めた結婚相手である魔神王。
マーサを共に守り愛でる同士であるからには、相手が魔神王であろうと関係ない。
新たな誇りを胸に、ミリアは淑やかに微笑んだ。
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