62 いざ素材集め!
魔神列車が停車したのは無人島の浜辺であった。
バライから更に離れたこの島は、大半が森に覆われた未開の地。
海賊達からこの場所のことを聞いたアルディがキャンプをするのに丁度良いと急遽日程に組み込んだのである。
「今日はここをキャンプ地とするのである!」
「はーい!」
砂浜に降り立ったアルディが高らかに宣言する。
腕を伸ばし、人差し指も天を指してビシッとキメポーズ付きである。
続いて魔神列車を降りたマーサも楽しそうに返事をする。
「それではマーサ様、我らは島内に散らばり警護致します。お二人でごゆるりとお過ごしください」
「うん、分かったー」
三匹のペット達はマーサからの返事を聞くやいなや、素早く散っていった。
二人で過ごす時間を邪魔せぬよう、かつ快適に過ごさせる為の気遣いである。
筋肉の魔神ことゴッスルは列車が浜辺に到着する前に海へと飛び込んでいったが誰も心配していない。
「それではマーサ、まずは拠点作りから始めるとするのである!」
「了解だよ!」
二人はまず拠点を作る為に島の散策を始めた。
マーサ達は上空から見下ろした際に島の地形はある程度把握している。
楕円形をしたこの島の外周半分は浜辺になっており、それ以外は鬱蒼とした森。中には泉のようなものも見えた。
「飲み水の確保も考えねばならぬし、まずは泉までのルートを確保するのである!」
「なるほどー! じゃあこっちだね! アルディちゃん、木がいっぱい生えてて根っこもすごいから気を付けてね」
「うむ、すまないのである」
アルディの提案にマーサは元気よく応える。
そしてアルディの手を取って、森の中を突き進む。
丁度人が通る道のように生えた木々の間を通り、邪魔な枝葉はマーサの周囲に漂うオーラが蹴散らしてしまう。
(これってアルディちゃんにもらった装備の効果かな。便利だなー)
装備している武器による通常攻撃ではあるが、マーサは特に意識していない。
邪魔だと思った意思を汲んで自動で撃墜しているのである。
「そろそろ泉が近いと思うのであるが……む?」
「わぁー、綺麗だね!」
「うむ、良い場所であるな」
二人の前に開けた場所が現れた。
泉である。
どこからか噴出した水が溜まっており、底まで見える程透き通っている。
「よし、泉までのルートと場所の確認はオーケーであるな」
「それじゃあ水を汲んじゃうね」
「ううむ、マーサばかり働かせて申し訳ないのである。吾輩も運べたらいいのであるが」
現在のアルディは超弱体化している。
それは手を引いてもらわねば森の中を満足に歩けない程であり、それは身体能力だけでなく魔力にも働いている。
水が満杯まで入った樽を運ぶ事など不可能なのだ。
「大丈夫だよ、持たなくても運べるから!」
マーサがストレージから取り出した樽は泉へと沈む。
そんなに深くなく、水面は底についた樽より拳一個分ほど上。
樽が水で満たされたところで蓋を閉め、そのままストレージへと仕舞う。
お手軽水汲み作業である。
そのまま運搬も出来る為労力はほぼかからない。プレイヤーの特権である。
「ううむ、何度見ても凄まじいのであるな、その空間魔法は」
「便利だよねー」
▽
浜辺に戻った二人は、次に拠点を作ることにした。
「しかし、魔法でぱぱっと作れぬのは不便であるな。魔法を使わずにどうやって作るのであるか……」
「あ、私なんとなく分かるよ!」
「それならばマーサは拠点作成隊長であるな!」
「やったー!」
マーサ自身も無人島でキャンプなど、勿論したことはない。
しかしテレビや漫画等で知識だけはうっすらとあった。
「まずは材料を集めなきゃだね!」
「うむ」
「これは私がやるから、アルディちゃんは待ってて?」
「いやいや、マーサだけに働かせて吾輩だけ何もせずに待つなど出来ぬのである。薪でも拾ってくるとしよう」
「いいの? 危なかったりしない?」
「歩きやすい浅いところだけしか行かないのである」
「でもほら、危険な生き物とか」
「そういった危険なものがいたとしても、マーサのペット共が排除しているのである。ゴッスルも護衛としてちゃんと待機して……おるといいのであるが」
ゴッスルに関しては微妙に信用がなかった。
しかしアルディの提案通り、マーサは拠点の材料となる流木を拾いに浜辺を。アルディは薪集めに森の浅いところの探索となった。
「使えそうなものないかなー」
浜辺と森の境界付近にはまばらに木が生えている場所があった。
その中でも丁度良く柱に出来そうな間隔で五六本の木が生えている箇所を拠点建設予定地としている。
丁度マーサの背の高さくらいに枝が何本か生えているため、流木を何本か渡して葉っぱのついた枝を重ねて屋根とするのである。
また、それ以外でも何か使えそうなものがないかという期待もあった。
「あっ、おっきな板だ! ――あれ?」
丁度屋根に使えそうな木の板らしきものが浜辺に打ち上げられていた。
それを見つけたマーサは、興奮気味に駆け寄っていく。
そしてその波打ち際で、板に掴まったままの状態でぐったりしている人間に気が付いた。




