61 いざ搭乗!
おそくなりましたが1月29日分の更新です!
島丸ごと占拠という大胆なプライベートビーチを満喫したマーサ達はその後、島に建設されていた土産物屋や施設を観光して周った。
軍勢の魔神メルドから送られてくる増援により、各施設のスタッフの補充も問題ない。
幻想の島バライは魔神王の為の島として生まれ変わったのだ。
そのまま島へもう一泊。
ゆったりとした夜と朝を過ごし、昼前に宿を出立した。
アルディがマーサの為にもぎ取った休みは一週間。
まだ三日目。新婚旅行はこれからである。
二泊したペンションから外へ出ると、マーサは大きく伸びをした。
庭に植えられた草花の上にある雫がキラキラと輝いている。
空は透き通る快晴。絶好の新婚旅行日和である。
「んーっ……ふぅ、今日もいい天気だね」
「そうであるな!」
アルディもご機嫌で同意した。
二日前に思い付いた企画を旅行の日程に捻じ込むつもりなので、天気が良い方が都合も良いのである。
「今日はこれからどうするの?」
「ふっふっふ、今日は無人島の探険に行くのである! そしてそのままキャンプ!」
「おー、それはすっごく楽しそう!」
「そうであろう?そうであろう!」
マーサの反応にアルディは更に機嫌を良くしていく。
楽しげで誇らしげで、マーサとの旅行を心から楽しむように。
それが自然と伝わりマーサの笑みは更に明るさを増していく。いつだって二人がいるだけで無限に幸せはスパイラルしていくのである。
「その無人島へはどうやって行くの? 船?」
「ふっふっふ、それはだな……」
(よーしよし、自然な流れで質問を引き出せたのである! 流石マーサ、自然と吾輩の望むような会話をしてくれるのう!)
「あれである!」
アルディが高らかに宣言すると同時にその小さな右手を伸ばす。
マーサの視線がそちらに向くと、漆黒の魔導列車が二人の方へと真っ直ぐに向かって来ていた。
「えっ、わぁ! あれって全部壊したんじゃかったっけ?」
「実は保管されていたのを一台拝借しておいたのだ。そして我が魔神王専用魔導列車としてスペシャルなチューンが施された、つまり吾輩達の魔導列車である。その名も、≪魔神王専用特別魔導列車≫! 略して魔神列車である!」
機関部である先頭車両の他に四両繋がっている為にそれなりに長い。
≪魔神王専用特別魔導列車≫はその存在を見せつけるためかまるで天を駆ける龍のようにペンションを遠巻きに一周した後、浜辺へと向かって降りていく。
「ここでは狭くて停められぬからな、浜辺まで降りるのである」
「うん、実はちょっと乗ってみたかったんだー、嬉しいな」
「喜んでもらえて何よりである! さ、行こう!」
「うん!」
「わ、あまり急ぐと転ぶのであ、あ、とっとっと」
「アルディちゃん早く早くー!」
マーサはアルディの手を引きながらはやる気持ちを抑えつつ、それでも小走りで浜辺へと向かう。
身体能力が激落ちしているアルディも転びそうになるが、はしゃぐマーサを見て笑みを零した。
「焦らずとも魔神列車は逃げないのであるが、まったく、そこまで喜んでもらえると吾輩も張り切った甲斐があるものであるな」
▽
轟々と唸りを上げて、魔神列車は空を駆ける。
空中に固定されたレールを生成することにより空を走っているのだ。
そんな魔神列車の窓から顔を出す美少女が一人。
マーサである。
凄まじい風が髪をたなびかせ上半身を叩きつける。それでも気持ちよさそうに目を細め、空から見下ろす景色やその速度に大興奮だ。
「すごい!高い高い! 空を飛んでるよアルディちゃん! サラマンダーよりずっと早いかな!?」
「ま、マーサ、あまりそう身を乗り出すと危ないのである……! サラマンダーとはあの地を這う火竜であるか? 奴らよりもずっと早いであるな!」
落ちては大変だとアルディはマーサの腰に抱き着いている。
その状態でもマーサへの返答を欠かしはしない。マーサを無視することなどあってはいけないのだ。
向かうは次の目的地。
メルドに空を飛べる魔物を送り込ませ、二日かけて探し出した未開の孤島である。
タイミング的にギリギリでアルディは肝を冷やしたが、キャンプに丁度良い島が見つかった。
メルチの頑張りで魔神列車も無事に改造が完了した。
全ては魔神王の為。そしてマーサとの新婚旅行を成功させる為。その為だけに魔神王軍は全力を掛ける。
その頃、機関部では。
ペガとグリが懸命に魔力を送っていた。
「ふ、ふんんん……!」
「ペガ貴様、あれだけ自慢していた魔力量はどうした!」
「某は進化して肉体派になったんだよ! お前こそ、魔力にキレが見えぬぞ!」
「俺も貴様と同じく肉体派になったのだ! しかし、弱音を言ってはおれぬ。マーサ様の下僕たる我らが無様を晒すと言う事はすなわち、マーサ様の顔に泥を塗るということ!」
「しかり! 気合いを入れろグリ!」
「言われずとも!」
「「うおおおおおおおお!!」」
「うんうん、青春だねー」
励まし合いながら魔力を込める二体のペット達を眺める男が一人。
上半身を左右に激しく揺らしながら両手に重り代わりの魔力受信装置を持ち、両腕でダンベル運動をしながらスクワットをする。
その姿は正に筋肉の魔神。
ゴッスルはその特性上魔力というものを持たない。
その代わりに、筋力を魔力の代わりに使用することが出来るという特殊能力を持つ。
なのでゴッスルが魔力の補給口となる装置を持ったまま筋トレをすれば燃料が補給されるのである。
気合い共に汗が弾け、魔力が迸る。
機関室が熱気に包まれ魔神列車はそれに比例するように速度を上げていく。
ちなみに、もう一体のペットであるミヤは執事としてマーサ達の身の回りのお世話をするべく別行動しており、現在は昼食を用意しているところであった。
決して、暑苦しいゴッスルと一緒な空間にいるのが嫌で逃げた訳ではない。




