58 いざ決行!
本日二回目の更新です!
どうしてこうなった!
魔導列車。
魔法都市が誇る特級の魔法具である。
先頭車両の先端に組み込まれた魔法具を稼働させることで空中に線路を構築する。そこを通過することにより、魔導列車は空を駆ける。
技術の粋を結集して建造されたこの大型魔法具であるが、現在の技術力を以てしても荷物満載の貨物室換算で五両が限界であったり、航行距離にも制限がある。
しかしそれらを加味したとしても、その存在がもたらす力は計り知れない。それほどまでに画期的な発明なのだ。
現在稼働しているのは三台あり、内一台は現在開発中の最新型を試験的に導入したものである。
その最新型が今魔法都市フェーブルと、観光地として名高い幻想の島バライを結ぶ海上で爆発した。
慈悲の無い程の木端微塵である。
海面近くを走行していたため、道を作り出す先頭車両を失った残りの車両は身投げするように海へ飛び込んで行く。
乗客は爆発が起きる少し前から全員海に叩き落とされていた。
救助された乗客達は皆が、頭が馬の怪人に列車を乗っ取られたと喚き、錯乱していたという。
これは不幸な事故などではない。
他の二台についても、ほぼ同時刻に爆発を起こしている。
こちらの二台は乗客がおらず、荷物と護衛兼燃料の魔法使い達しか乗っていなかったが、怪しい者を見た者はいなかった。
一台建造するのに莫大な費用と時間が必要となる魔導列車は、こうして全滅した。
予備として保管されていた一台も忽然と姿を消してしまったのだ。
本来はプレイヤー達がクエストを進める事で容量や航行距離が伸びる等のグレードアップが出来たのだが、それも消えてしまった。
代わりに建造するための資材やお金を納品するクエストが生えたので問題はない。ヨシ!
▽
「うむ、派手にふき飛んだのである。見事な花火であるな」
「みんな無事に帰って来てくれたし、上手くいったね。ありがとうみんな」
「これくらい、マーサ様のご命令とあらばお安い御用でございます」
「しかり。これからも何なりとご命令ください」
「使命を果たしただけだというのに勿体なきお言葉、光栄にございます、ふふふ」
最新式の魔導列車が爆発したのを眺めていたアルディは、満足そうに呟いた。
隣には笑顔のマーサ。そしてやり遂げた顔のペット達。
そう、魔導列車の爆破はマーサ達の仕組んだことであった。
きっかけは街での散策中、今後の日程についても二人で話し合ったこと。
その時の会話がマーサにある計画を思いつかせたのだ。
そしてそれをアルディに話したところ、快諾。それどころかマーサ以上にやる気を見せた。
ゴッスルに命じて特製の筋肉爆弾を用意させる程であった。
筋肉爆弾とは、ゴッスルの武装でゴッスルの筋肉そのものである。筋肉を千切ると立派な胸板と化すそれは衝撃をためこむ性質があり、ゴッスルが念じるか乳首を優しく押してから十秒するとため込んだ衝撃に応じた規模の爆発を起こす。
そんな危険物を持ったペット達は各自魔導列車に侵入。
ペガとミヤは隠密行動に長けたスキルを獲得しており、見つからずに忍び込んだ。
グリは海上で待ち伏せており、魔導列車が頭上を通る瞬間に直下から奇襲をしかけた。
マーサが覚えた≪念話≫のスキルで一斉に爆弾を起動し、≪ペット召喚≫のスキルで目の前に呼び戻したのである。
魔導列車は爆発四散したが、乗っていた乗客は海に落とされはしたものの無事。魔法使い達は魔法を使って着地したので無事。
死人が出ないようにしたのはマーサなりの優しさである。魔導列車を爆破した時点で優しくないなどとは言ってはいけない。
彼女は魔神姫であり、人類に仇名す魔神王陣営なのだから。
「では、吾輩達の楽園へと向かうとするである」
「うん、行こう!」
▽
翌朝、マーサ達は山賊海賊組合の頭領が用意した船でバライ島へとやって来た。
そこで見たのは、髭面の男達が島にいた人々を縛り上げ、船に乗せている光景であった。
「おらおらぁ! 全員大人しく縛られやがれぇ! 運賃はてめぇらの有り金全部だぁ! がはははは!」
「おらさっさと乗れ! 抵抗するんなあの世に送ってやんぞ? 安心しな、運賃はお前と見ず知らずの他人の命で許してやるからな。ほらどうすんだ選べやぁ!」
マーサの提案はこうだ。
その島、魔神王の領土にしない?
アルディにとってマーサの提案は何事にも優先される。それがアルディ自身や魔神王軍の為となるのなら断る理由は微粒子ほども存在しえない。
ということでまずは魔導列車を破壊、及び奪取。
その後ペット達とゴッスル、いつの間にかいたメルチは先行して島へ。警備している魔法使い達を無力化したのだ。
その後は山賊海賊組合が島を占拠。
島の原住民、観光客などの人々は腕を縛られ、順番にフェーブルの近くで海に叩き込まれて行った。
「順調に掃除が進んでおるな。流石はマーサ、ナイスアイデアであるな」
「そんなことないよ。この島はとても素敵だって聞いたから、私達だけで過ごしたいなって思っただけなの、えへへ」
照れ臭そうに笑うマーサに邪気は一切なかった。これぞ無邪気。
抵抗したNPC達が海賊山賊に斬られようが、海に叩き落とされたNPCが運悪く溺れ死のうが、アルディとゆっくり過ごすのが目的のマーサは一切気にしていないのだ。
まだ幼かった素直な女の子は恋を知り、一途に駆け抜けて行く。
そもそも、ここはゲームの世界なのだから深く気にすることではない。
システム上出来るということは許された行為なのだ。
実際、今回の計画は事前にアルディの方から運営へと話が通っている。
そこで様子見という決断の基『問題なし』という返事が来ている。だから何も問題はない。
「マーサアァァァ! 今夜はこの島一番の宿でゆっくり過ごすのである!」
「うん! 楽しみ!」
お互いにとって、お互いが幸せであることが何よりの幸せなのだから。




