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57 いざ詰問!


「大変だ、マーサが攫われたのである!?」


 人通りのほとんどない路地裏。

 夕方から夜へと移ろっていく今の時間は既に薄暗い。

 そんな場所にぽつんと最高に可愛いお姫様が一人でいたらどうなるか。間違いなく誘拐される。

 アルディの黄金の脳細胞はその結論に一瞬で到達した。


 可愛い女の子が誘拐されてしまえばどんな悲惨な目に合うか分からない。

 事は一刻を争う。


「探知魔法いや転移魔法を――ちっ、さっきの洗脳魔術一発で魔力が尽きておる。これだからあの契約は厄介なのである。ゴッスル!」


「はいはーい、アルディ様呼んだ?」


 忌々しげに呟いたアルディはすぐに思考を切り替えた。

 大事なのはマーサを救う事。悪態などついている暇は無いのだ。

 そうして呼んだのは、護衛として控えさせていた筋肉の魔神ゴッスル。

 こいつは何をしていたのかと怒りが沸きそうになったが、それも一旦頭の隅に追いやる。


「マーサはどこへ行った? 今すぐに誘拐したやつらをブラッドフェスティバルにご招待するのである!」


「まあまあ落ち着いてアルディ様。そんなに慌てなくても大丈夫だから」


「ぬ? その落ち着きよう、マーサは誘拐されたのではなくその辺りに移動しているだけであるな?」


「いやー? ならずものっぽい人達に連れて行かれたよ」


「誘拐されとるではないか! 早く取り戻さねば!」


「大丈夫大丈夫。僕の筋肉には彼らの声が聞こえたのさ」


「ええい相変わらずわけの分からん奴め。とにかく案内するのである」


「はーい」





 とある倉庫の一室。

 そこでは数名の男女が膝と足首を地面につけ、上半身を倒し、頭と両手を地面にピッタリとくっつけている。これぞ謝罪と無抵抗の証。DOGEZAである。

 ここはゲームの世界であるので、ヨーロッパ風ファンタジー世界にも土下座はしっかりと存在している。


 その正面には、古いながらもそこそこ立派な椅子に座る制服の美少女。

 一部地域では魔神姫として人気の美少女マーサである。

 マーサは困ったような苦笑いを浮かべつつ、土下座する男女を眺める。


「そろそろ頭を上げてもらっても……」


「なりませぬマーサ様。こやつらはマーサ様を誘拐したのです。その犯した罪の重さをまだ理解させなければ」


「みんながすぐに助けてくれたから何もされてないし、そこまでしなくても大丈夫だよ」


「ぬぅ、しかし……」


「その辺りにしておけ。マーサ様の指示は全てに優先される」


「ふん、命拾いしたなゴミ共め」


 マーサの前に立ち土下座する男女を見下ろすのはマーサのペット。

 鍛え抜かれた肉体は全身が深い紫色をしており、言葉を話す程の知性を持っている。

 頭部が黒い鬣を持った馬のもので、真っ赤なフンドシを締めているのがペガ。マーサを攫ってきた男達へ殺意を漲らせていたが、主人の言葉と同僚の言葉で冷静さを取り戻した。


 隣に立つのがグリ。鷲の頭に膝から下も鷲の鉤爪になっている。

 その背中には漆黒の翼。袴と腕に巻く布には所々金色が用いられている。


 そしてマーサの背後に立ち無言で状況を見守っているのがミヤ。

 頭部が山羊で、一人だけ執事服をきっちりと着こなしている。

 が、肉体のボリューム感は他二体に比べて控え目ではあるが、細身なだけで脱いだらすごい。


 彼らは進化の時を待っていた。

 そしてマーサが攫われた時、主人の危機を感じたペット達は同時にその瞬間を迎えた。

 魔神王アルディエルを筆頭に配下の魔神達の素材の力と適合して奇跡の化学反応を見せた結果、三体ともに人型のレア種族へと進化を遂げたのである。


「それじゃあ顔を上げてください」


「は、はい」


 土下座して沙汰を待っていたのは男が二人、女が一人。

 一人前に出ているのはいかにも親分といった見た目の男だ。

 適当に切った短い髪はボサボサで、髭も盛大に生え散らかしている。

 三人共がホッとしたように顔を上げた。


「何かあったんですか? 事情があるなら教えてください」


「あっし達にも慈悲をくれるなんて、なんつうお人だ……! 僭越ながら、語らせていただきやす……!」


 それは余りにも身勝手な理屈であった。


 ここは魔法都市。様々な魔法具(マジックアイテム)が作られ利用されている。

 その中でも最大級のものこそが、塔の誇る≪魔導列車≫である。

 組み込まれたいくつもの機構により空を駆けるこの列車は魔法都市の流通を大いに助けている。


 そこで割を食ったのがこの男達。

 山賊と海賊である。

 地上や海を走る獲物が少なくなり、獲物に在り付けなくなった。

 だから腹いせも兼ねて塔の魔法学園の生徒を誘拐して、家族や塔に対して多額の身代金を要求するつもりだった。

 これが彼らがマーサを誘拐した理由だ。


「なるほど……」


 マーサは考えた。

 強盗は悪いことだし、当然誘拐も悪いことだ。

 しかし話を聞くに、彼らも食うに困ってそういう職業に身を落としており、殺しはやらないらしい。

 魔法の発展の裏には、魔法を使えない者に対する差別的な歴史が存在している。

 彼らはまさにその被害者とも言えた。


 ドバーン!!


「マーサ!! 無事であるかー!!?」


 マーサが一つのアイデアを思い付いた時、倉庫の扉が内側に吹き飛んだ。

 そこから飛び込んで来たのはアルディ。

 目に涙を浮かべて倉庫内を見渡し、マーサを発見。全速力でマーサの胸に飛び込んだ。

 かなりの弱体化補正を受けているおかげでマーサが吹き飛ばされることもなく、踏み台にされた男もザクロのようにグッショリ潰れることもなかった。


「よし、こやつらは処刑だ」


「あっはっは、判断が早すぎるよアルディ様」


「アルディちゃんに、ゴッスルさんまで。ごめんね、心配かけちゃったみたいで」


「なんのなんの、悪いのは全てこやつらだ。どういうつもりか知らぬが親族仲間諸共根絶やしにしてやるのである! ってうわ、なんだこやつらは」


「これはお久しぶりでございます、アルディエル様。魔神姫マーサ様の僕、ガルダのグリでございます。こちらは馬頭のペガ。そしてバフォメットのミヤでございます」


「ご健勝なにより」


「よろしくお願いいたします、ふふふ」


「おお、なんだ立派になりおって。なるほど、ゴッスルが言っていたのは貴様らのことか。なるほど、これからもマーサの為に尽くすのである」


「「はっ」」


「ええ、勿論です、ふふふ」


 マーサのペット達と和やかに挨拶を終えたアルディは、一瞬で表情が切り替わる。

 それは汚物を見る目。マーサに危害を加えようとした、その一点だけで決して存在を許すことなど出来はしない。


「さて、薄汚いゴミ共の処理の方法であるが――」


「アルディちゃん、ちょっとお願いがあるんだけどいいかな?」


「うむ、なんでも言ってみるが良い!!」


 勿論、マーサの言う事が最優先である。


Q、ペット達の共通点って何?

A、動物の頭を持つ人型のモチーフ

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