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56 いざ観光! 2


 小一時間程吟味した後、お互いに服を選んで贈り合うことに決まった。

 二人ともが相手に服を贈りたいと思ったが故に起きたイベントである。

 服を受け取った二人は早速その服へと着替えることにした。


 まず試着室から出てきたのはマーサだ。

 プレイヤーであるマーサは一瞬で服を着替えることが出来る。


 アルディがチョイスしたのはブレザーと呼ばれる、制服に属するものであった。

 薄いオレンジ色をしたジャケットに白いシャツ。そしてグレーのプリーツスカート。

 胸元には大きなリボン。

 

(これ、ブレザーだよね。セーラー服しか着たことなかったから嬉しいな)


 その服は、塔に組み込まれている魔法学園高等部の制服であった。

 本来は学園の生徒にしか販売のされないものであるが、アルディの洗脳魔法であれやこれやしたことで購入が可能となった。

 ゲームの世界で制服というチョイスではあるが、マーサは普通に喜んでいた。

 そもそも、ファンタジーもののゲームだろうと世界観を無視した制服や水着なんかの衣装は人気なのである。

 その特別な衣装を着たキャラや衣装そのものを引き当てる為にガチャに数万円つっこむ者も多い。


 スカートは膝下。そして白のニーソックス。

 スカート丈は生徒の個性として自由な為、どちらかというと真面目なマーサは長めにセット。

 靴下は指定のものであり塔の設立者である賢者の残した十戒により定められているものだ。


 それらをマーサは完璧に着こなしていた。

 試しにゆっくり回ってみると、スカートがふわりと広がる。

 黒に見える髪の毛も薄く広がると光を取り込んで紫に輝く。腰まで伸びるその髪は夜のベールのようにたなびいては星々の煌めきをその流れに宿す。


 簡単に言えば、とても可愛い。


 装備の状態としては上下鎧にカテゴリされている『闇紫(やみむらさき)絶空(ぜっくう)』は制服とスカートに置き換えられ、他の装備はそのまま装備中だ。

 なのでマーサは今ブレザーの上からケープを羽織り、左腕には小盾を装着し、頭には小さなティアラを乗せている。

 どこかチグハグにも見えるが、ゲームの世界だと考えると何もおかしくはない。

 可愛いに可愛いを足せばもっと可愛いのである。


 そうこうしている内に、隣の試着室のカーテンが開かれた。

 そこから姿を現したのはアルディだ。

 他の客は二人の尊さで正気を失いそうになって店外に脱出済みである。


「む、待たせてしまったようであるな」


 アルディに着てもらう為にマーサが選んだのは、何枚か試着していた内の一着。

 そう、ワンピースである。

 それも真っ白な、純白の、ワンピースである。

 全体にレースがあしらわれており、腕や膝周りが透けて見えている。 

 これをアルディが着ることでその清楚ポイントは200万パワーへと到達する。


「あ、アルディちゃん! やっぱり可愛い! とっっっっっっても可愛いよアルディちゃん!」


「あ、あまり見るでない。照れるのである」


 普段露出の多い服を着てそのほっそりとした太ももやお腹を全開にしていても特に気にしていないのに、着なれていない清楚なワンピースを着たアルディは頬を染めて照れ臭そうに笑う。

 それを見たマーサは幸せそうに笑う。

 そしてアルディが更に照れる。

 これこそが幸せのスパイラル。世界を救う幸福の連鎖である。


「それじゃあアルディちゃん、行こう」


「うむ、行くのである」


 購入した服を着て店を出る。

 元々着ていた服はマーサのストレージに格納してあるので手ぶらだ。

 手ぶらではあるが、お互いに大切な物を握りしめている。


 それからも散策は続いた。

 飲んだジュースが激辛で本当に火を吐いたり。振ってから開けるとキラキラと光が零れ出てくる瓶を買ったり。一瞬で地面に文字や絵を書く魔法具を試してみてと言われた時なんかは、マーサが「末永くよろしくね」と大きく書いて周囲が大興奮、アルディが照れに照れるという大変微笑ましい一幕もあった。


 夕暮れが近づいて来た頃、街の喧噪は変わらない。

 しかし二人は一旦休憩することにした。

 路地に入った人通りの少ない場所の段差に腰かけて一息つく。

 この辺りの建物は民家や倉庫ばかりで店が無いのも静かである要因のようだ。


「あー、楽しい。アルディちゃんとこんな風にゆっくり観光できるなんて思ってなかったから、とっても嬉しい。我儘を聞いてくれてありがとう」


「マーサの為ならこのくらいお安い御用である。それに、吾輩もこれ以上ないくらいに楽しい、幸せである」


「えへへ、嬉しいな」


「ふふふ」


 嬉しそうに笑うマーサを見て、アルディも笑う。

 これこそが幸せのスパイラ(以下略)。

 一しきり笑ったあと、アルディは立ち上がった。


「さっきそこで美味しそうなジュース屋に目星を付けておいたからちょっと買ってくるのである。さっき飲んだのは火を噴くのは楽しかったが辛くてかなわんかった」


「私も行くよ?」


「いやいい、マーサはそこで少し休んでおくのである。すぐ戻るからのう」


「わかった、ありがとう」


「うむ、任せておくのである」


 気遣いを断り続けるのも悪いかと、マーサは笑顔でお礼を言った。

 アルディは満足げに頷いてジュースを買いにとてとてと走った。


 ファンタスティックピーチ1000%生絞りフレッシュジュースを二本購入し、アルディは上機嫌でマーサの待つ場所へと戻った。


「うん? マーサ?」


 しかし、そこにマーサの姿はなかった。


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