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51 いざ帰宅!

お待たせしました、再開です!


 マーサは鉄の街アインボックス周辺の領地を手に入れた。

 しかし、領主として運営するわけではない。≪影の支配者≫の称号が示す通りに全てを元いた領主に任せることにした。完全なる丸投げである。

 それにより、表面上は今までと何も変わっていない。

 マーサがそうした理由は単純で、領地の運営などよりもっと大事なことがマーサにはあるのだ。





 転送魔方陣の設置された小さな遺跡から外に出ると、そこは死の荒野。

 簡易的なテントが建ち並び、石造りの施設すらいくつか確認出来る。

 いつのまにやら沢山の兵士が駐屯する軍事基地と化していた。


「なんだかすごいことになってる……けど、今は急いで帰らないと! お願いね、ペガ」


「ヒヒン!」


 深紫の愛馬に跨り、真っ直ぐ整備された道をひた走る。

 

(早くアルディちゃんに会いたい。会って、ちゃんと謝って、それから、ありがとうって言うんだ)


 些細な行き違いから飛び出してしまったマーサは、そのまま偶然辿り着いたアインボックスに滞在していた。

 その間にすっかり頭は冷え、恩返しをする為に色々な準備をしていた為に罪悪感等は忘れていた。

 しかし、ようやく帰る準備が出来た頃に、アルディの側近であるメルドから聞いた様子。

 そして帰還が目前となったことで、アルディを一人にしてしまった申し訳なさが噴出してしまった。


 故に、マーサは駆ける。

 立派に成長した愛馬の献身により、最高速で魔神王城を目指す。


 道の効果とペガの頑張りのおかげか三十分程で城へと到着した。

 門を全速力で潜り抜け、向かうは魔神王城に寄り添うように建てられた神殿が視界に入る。

 アルディがここ最近ずっとそこにいることはメルドから聞いていた。


「グリ、ミヤ、お願い!」


「ピィ!」


「メェ」


 マーサの呼び掛けに応えたのは大鷲のグリと暗黒山羊のミヤ。

 ミヤを鷲掴みにした状態でマーサ疾走するペガの傍らを飛行していたグリは速度を上げる。

 そして放たれたのは風の魔法≪ウインドアロー≫。

 朽ちかけにしか見えない暗黒魔神様式の神殿は重厚感のある扉でさえボロボロで、風の矢を受けて穴だらけとなる。

 

 そのまま直進していたグリはミサイルを発射するかのように真っ直ぐミヤを投下。急旋回。

 切り離されたミヤは≪鋼鉄羊毛(スチールウール)≫のスキルを発動し、速度のままに更に大地を踏みしめる。

 ≪脚力強化≫のスキルを上乗せしたその突撃は木製の扉を粉砕した。


「アルディちゃん!! どこ!?」


 まだ破片が宙に舞う中を、徐々にスピードを落としつつもペガは飛び込んで行く。

 その身に纏う≪暗黒のオーラ≫はその背に乗る主人への害となる木片を全て弾き飛ばすのだ。

 入口から真っ直ぐに伸びる通路の中ほどでペガは停止した。

 マーサは勢いよく飛び降りると、アルディの名前を呼んで奥へと駆け出す。


(いない? メルドさんからはアルディちゃんの像の前で動かなくなってるって聞いたのに)


 聞いていた場所にアルディの姿は無かった。

 そこにあるのはアルディを模して作られた高さ三メートル程の石像のみ。

 その時、混乱するマーサの前の空間から滲み出るように人影が姿を現した。

 暗黒四魔神が一人、メルチだ。


「マーサ様、おかえりなさい」


「メルチさん!」


「アルディ様はこちらにいらっしゃいます」


 メルチの案内でやって来たのは、神殿の中庭。

 そこには、一心不乱に何かの作業をしているアルディと、マーサによく似た巨大な石像。

 神殿の礼拝堂に設置してある神像と比較しても遜色のない大きさ、そしてクオリティである。

 アルディから見たマーサの威容美貌可憐さ、全てが完璧に再現されようとしていた。


 傍目から見ると作りかけの巨大な像に縋り付いてブツブツと何かを呟きながらも手を細かく動かしているという、大変危ない絵面であるが、褐色ロリというだけでセーフ。

 何の問題も存在しない。

 たとえその魔神姫マーサ像の材料が、魔界最高の秘宝である初代魔神王の核だったとしても何の問題も無いのだ。


「ブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツ」


「アルディちゃん!」


 マーサは意を決して口を開いた。

 アルディの姿にドン引いているわけではない。アルディの主観マシマシ全開ダブルコイメカタメで作られた像はマーサから見て自分と同じ服装の何かにしか見えないが、今は気にしていない。

 喧嘩をして飛び出してしまってそのまましばらく離れて過ごしたことへの様々な感情が今、最高潮に達しているのだ。

 それでもマーサは退かない。

 その呼びかけに込められているのは、喜び、決意、そして、喜び。


 それに対して、アルディはピタッと動きを止めた。

 そしてゆっくりと振り返る。

 その表情は信じられないものでも見るようで、そして怯えがありありと浮かんでいた。


「!? ま、マーサ……?」


「ただいま、アルディちゃん!」


 マーサは満面の笑みで、振り返る途中のアルディへと抱き付いた。

 勢いのまま二人とも倒れ込んだが、アルディの顔は晴れない。


「わ、わっ、え、これは、夢? いや、吾輩の妄想であるな。このシチュエーションももはや十三回目である。後が虚しすぎて喜びすら出来なくなったのである……」


「妄想じゃないよアルディちゃん。ちゃんと私、帰って来たから、心配させちゃってごめんね。だから、ただいま!」


「う、ぐ、この感触、温もり、確かにマーサの……マーサ! マーサ! 吾輩の方こそすまなかったのである! よくぞ、よくぞ帰って来てくれたマーサ! うおおおおおおおんおおんおおん!!」


 正気に戻ったアルディは喜びの余り絶叫した。

 覆いかぶさるマーサを抱きしめて、その胸に顔を埋めての大号泣だ。

 その姿に愛おしさを感じつつも、マーサはちょっぴり拗ねていた。

 

「アルディちゃん、せっかく帰って来たんだからもっと言って欲しい事があるんだけど?」


「ううううう!! ……う、ひぐ、そうで、あるな。……すまない、もういっそこの魔神姫マーサ神像に祈りを捧げ続けて生涯を終えようと思っていた程に絶望していたもので、吾輩としたことが気が利かなかったのである……マーサ、おかえりなさい!」


 その笑顔は、何よりも輝いていた。





「アルディ様、マーサ様もお戻りになられましたし、そろそろ仕事を進めて頂きたいのですが」


「嫌である」


「アルディ様」


「嫌である。吾輩、しばらくマーサから離れたくないのである」


「仕事が溜まっているんですが。このままだと侵略にも支障をきたしてしまいます」


「今はそんなものよりもマーサと過ごす方が重要なのである!」


「はぁ……。マーサ様からも何とか説得していただけませんか?」


「ごめんねメルドさん、私もアルディちゃんと一緒にいたいなって」


「マーサ様がそう仰るなら仕方ありませんね」


「あれ? 吾輩の時と反応違い過ぎではない?」


「それでね、私一つ提案したいことがあるんだけど」


「吾輩は全く問題ないぞ! マーサの望みならなんでも叶える所存である!」


「詳細も聞かずにそんなことを言わないでください。勿論、マーサ様が無茶を仰るとは思っていませんが。それで、どういった内容でしょう?」


「えっと、私、新婚旅行に行きたいな、って」



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