48 いざ解決!
決定的な拒絶の意思を示したマーサを見て、ザボンは嫌らしく笑った。
指輪を掲げると、それが怪しく光る。
「くふふ、では仕方がない。素直に出せば見逃してやったものを、死んで後悔するが良い!」
指輪から溢れ出す禍々しい魔力がザボンの全身を覆っていく。
見る見るうちにザボンの身体が膨れ上がり、全長三メートルはある筋肉モリモリのマッチョへと変貌を遂げた。
頭には一対の角が後ろ向きに生え、身体も鱗のようなもので覆われている。両手と両足が特に顕著で、まるでドラゴンの腕のような姿であった。
「この姿になった私は無敵だ! 死ねい!」
このイベントで発生するザボン竜魔人形態との戦闘は、負けイベントである。
プレイヤーのレベル、スキル、ステータス等の情報を考慮して、絶対に勝つことの出来ない強さへと補正がかかるのだ。
例え何かを呼び出したとしても、そのレベルで呼び出せるようなもので倒すことは絶対に不可能。絶対に負ける。
通常のプレイではどう足掻いても乗り越えることは出来ない。
故に負けイベント。
敗北を乗り越えて、得た情報を元に様々な手順を辿り、そして乗り越える。
カタルシスを増大させる為の演出であり、これは様々なアニメやゲーム等で広く用いられている。
この≪CPO≫でも例外ではなかった。
「死ぬが良い、小娘ぇ!」
その凶悪な拳がマーサへと放たれた。
▽
「頑張れ頑張れ! そんなにプルプルしてると小鹿ちゃんと間違われちゃうよ!」
「た、たす、助けて……!!」
「ほらほらどうしたの! そんな急造の筋肉じゃ僕には勝てないんだから、もっと気合い入れないと!」
「むり、もうむ、む……りっ――あ」
ズズゥウン。
凶悪なモンスターと化したザボンは堪えきれず、部屋の半分程は有りそうな真っ黒な巨岩に押し潰された。
モンスターが消滅するエフェクトと共に泡のように消えていく巨岩。
残されたのはうつぶせのままピクリとも動かない、元の姿に戻ったザボン。
すっかり元の小太りのおっさんの姿に戻っていた。
スキンヘッドのゴリゴリマッチョマンはしゃがみ込み、失神しているザボンの身体をつつく。
「あーあ、しぼんじゃった。筋肉はそういう怪しい力に頼らずに地道な努力が大切だよ……って、聞いてないやこれ」
「ありがとうございましたゴッスルさん!」
「どういたしまして! 力になれて僕も僕の筋肉も喜んでるよー」
マッチョメンの名はゴッスル。
魔神王軍最高幹部である≪暗黒四魔神≫が一人、≪筋肉の魔神≫である。
気さくで軽いその態度とは裏腹に、重量級の超弩級筋肉ファイターだ。
マーサの持つスキルによって召喚されたゴッスルは状況把握の前にとりあえずザボンを羽交い絞めにした。
そのまま説明を聞いた後はザボンの筋肉と根性を叩き直す為に修行をつけていたのだが、五分と経たずに力尽きてしまった。
如何に負けイベントであろうと、所詮は常識の範囲内で想定されたもの。
既に常識という枠を外れて驀進しているマーサにとってはただのイベントに過ぎなかった。
「それじゃあ僕は戻るけど、マーサ様も早めに帰って来てねー。メルドもそろそろ限界が近いっぽいし」
「メルドさん? とりあえず、もう帰りま……帰るから大丈夫! アルディちゃんには内緒にしたいからメルドさんにこっそり伝えておいてくれる?」
「おっけー。それじゃまたねー」
ゴッスルは笑顔で手を振りつつ姿を消した。
(ふぅ、なんか勢いでやっつけてもらったけど、これで良かったのかな? ……うん、ゴッスルさんが殴り飛ばしてくれてスッキリしたから良かったような気がする)
「マーサ様」
一人満足げに納得したマーサに声をかけたのは今まで部屋の隅で佇んでいたモルドゥであった。
彼は魔神王アルディエルの配下で、兵士としてこの街へ潜入していた。
「あ、モルドゥさん! 大丈夫? 領主さんは様子がおかしかったみたいだけど……」
「はい、私は無事です。このザボンは洗脳のスキルを持っていたようですが、メルド様から賜ったアイテムのお陰でレジスト出来たようです」
「そうなんだ、良かったぁ」
モルドゥが特に被害に遭っていなかったと聞いて、マーサは安心したように微笑んだ。
それを見たモルドゥは申し訳なさそうな顔をした後その場に跪いた。
「申し訳ありませんマーサ様。このゴミクズがマーサ様へ危害を加えようとしていたのに動かなかったことを、心よりお詫びいたします。しかし、マーサ様ならばこの程度のカスに手間取ることはないという、信頼の上での行動です。気に障ったようでしたら、この任務が終わり次第どのように処分していただいても構いません。今すぐにと仰るのならせめてメルド様に後任を手配するお時間だけでも」
怒涛の様に喋り出すモルドゥ。
マーサも突然のことに焦り出すが、数秒かけて再起動する。
「だ、大丈夫! 大丈夫だから、気にしなくていいから!」
「なんとお優しい――このモルドゥ、これからも誠心誠意、魔神王様、魔神姫様の為にお仕えさせていただきます……!」
「わぁ……どうしよう」
跪いたまま感涙に咽ぶモルドゥ。
焦りを通り越して困惑するマーサ。
カオスな状況であったが、数分も経つとモルドゥもすっかり落ち着いた。
「この腐れ外道の処理は私にお任せください。魔神姫様の都合が良いように事を済ませてみせましょう」
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