47 いざ爆発!
「いらっしゃいませ。冒険者のマーサ様ですね」
「はい、そうです。こっちはペットのミヤちゃん」
「メェ」
「ご案内します。どうぞこちらへ。ミヤ様は厩へお連れしておきますので」
白髪に豊かなヒゲを蓄えた執事オブ執事な老紳士に案内され、マーサは客間へと通された。
ギルドマスターの話を聞いた後、マーサは領主の屋敷へとやって来ていた。
悲しい気持ちで溢れそうだった為断ろうと思ったマーサであったが、ギルマスのとある言葉を聞いて考え直した。
どうしても領主に会っておきたい理由が出来てしまったのだ。
(店長さんがプレゼントを作ってくれたし早くアルディちゃんに会いたかったけど、仕方ないよね。ちゃんとお礼も言えてないんだからしっかり恩返ししておかないと)
ソファーでくつろぐこと数分。
メイドが扉を開け、兵士が二人入って来た。
マーサは二人とも見覚えがあった。
(あ、モルドゥさん。それにもう一人は……)
それは、マーサがアイン大鉱山の中へ転移させられた時に、入口を警備していた二人であった。
若くすらっとした体系の方がモルドゥ。顔も爽やか系のイケメンである。
逆に小太りで厳めしい顔をした方がザボン。領主の息子でもある。
二人の兵士が扉の両脇に立つと、年配の男性が部屋へと入って来た。
この街を治める領主である。
領主はソファにちょこんと座っているマーサを見て驚いた。
「街を救った英雄だと聞いておったのだが、まだ子供ではないか」
そのまま正面のソファへ陣取ると、モルドゥはその後ろへ。
ザボンは領主の隣へどっかりと腰掛けた。
「私はこの辺り一帯の領主をしている、サビザン・アインボックスだ。急に呼び出してしまってすまないな」
「マーサです」
「マーサ殿だな、ううむ、しかしやはり信じられん。その歳でこの地に住まう伝説の魔物を討伐するとは……それにその格好、本業は鉱夫だったりするのかな?」
マーサはとにかく早く済ませて帰りたかった為、格好にまで気が回っていなかった。
今の服装は、採掘の為のフル装備である。
しかも一仕事終えた後そのままな為、その服やタオルからは某魔神王が嗅いだら興奮しすぎて卒倒するような香りが漂っていた。
どこからどう見ても鉱夫であった。
「あ、これは――」
「だから言ったではないか父上。こやつはどう見ても凄腕冒険者などではないと! 伝説の魔物とやらもどうせでっちあげで、魔物共が何かの理由で一時的に大人しくなったのを発見しただけなのだろうどうせ。謝礼と褒美をせしめたら事が露見する前にさっさと逃げるに決まってる!」
マーサの言葉を遮るようにザボンが声を荒げた。
その眼は敵意がむき出しでマーサを睨みつけていた。
理不尽な言いがかりでしかないその言葉に、領主は納得したように頷いた。
「やはりそうであったか。ではどうしようか」
「いかに子供とはいえ、これはれっきとした犯罪。私がきっちりと裁いて見せましょう」
「うむ、任せた」
どことなく目が虚ろな領主はそれきり動かなくなった。
そしてザボンは自信たっぷりに嫌らしい笑みを浮かべる。
「鉱山でいくらか採掘してきたんだろう? それを全て置いて行けば今回のことは不問にしてやる。もしも逆らえば、分かっているだろうな?」
「その前に一つ聞かせてください」
温厚で明るいマーサであったが、まだ十六歳の少女である。
悲しい時は泣くし、腹立たしい時は怒る。
今は溢れ出しそうな感情を必死に抑え込んでいた。
「貴様、質問できる立場だとでも思ってるのか? まぁいい、今は気分がいいから聞くだけ聞いてやろう」
「少し前に、アクセサリーショップの店長さんが鉱山に入り込んだ事件があったと聞きましたが、本当ですか?」
マーサの質問に、ザボンの笑顔が固まった。
見る見る内に不機嫌そうな顔になっていく。
「ちっ、嫌なことを思い出させおって。そ奴はあれだろう、才能があったからと若くして独立した装飾職人。あやつめは怪しげな道具を使って見張りをしていた私の意識を奪い、鉱山に忍び込んだのだ。鉱山から採れる鉱石欲しさにな!」
ザボンは嫌な記憶を思い出してしまったが、目の前のとるに足らない冒険者に愚痴ることで溜飲を下げることにした。
冒険者程度、適当に罪を擦り付ければいくらでもいう事を聞く。
その程度にしか考えていないのだ。
「結果やつは魔物にでも食われたのか帰って来ることはなかった。そのせいで私が仕事をサボっていたなどと言われ迷惑したものだ。結局、私の潔白が証明され無罪放免となったが、実に腹立たしい事件であった。どうせ死ぬのなら全ての罪を自白して死ねばよいものを……」
「分かりました、もういいです」
「そうか。ではあるだけすべての鉱石と金属を置いてさっさとこの屋敷から出ていくが良い」
領主の息子ザボンは、魔に囚われていた。
屋敷の隠し部屋で発見した怪しげなマジックアイテムを見に着けたその時に悪魔と契約し、人を洗脳する魔法を手にしたのだ。
それを使って領主や重要な役職に就く者だけでなく、兵士までも既に洗脳済み。
厄介なことにこの洗脳魔法はレベルが高く、洗脳されていても普段通りの行動が可能であり、誰も洗脳されていることに気付かない。
ザボンが必要だと思った時にだけ、忠実な操り人形と化すのだ。
そうして彼らを陰から操り、採掘される資源を一部横流しすることで不当に利益を得ていた。
プリズムイーターに対する反応が遅れたのも、細かいデータを気にしないザボンの判断によるものである。
その辺りはボスを討伐した後、色々な情報を集める事で辿り着く真実である。
所持している鉱石と金属を全て奪われるこのイベントも、それを示唆するボーナス的なものだった。
拒否するとクソほど強いボスが出てきて先頭となる為、ほぼ負けイベントでもある。
「もう、いいです。店長さんは満足して成仏、したけど、こんな人のせいで死んだなんて、やっぱり、酷い……!」
「なんだ、貴様、一体何の話をしておる」
マーサは号泣していた。
マーサはNPC達をNPCだと思っていない。生きている人間と同じように接している。
その為、店主にまつわる話を聞いて悲しく思った。
それでも、満足そうな笑顔を見ていた為それでいいのだと納得したつもりだった。
そこにきての、ザボンの言葉である。
マーサの悲しみは限界をこえてしまい、涙となって溢れてしまった。
汚れたツナギの袖で涙を拭い、マーサはまっすぐにザボンを睨みつけた。
「鉱石は、あげられません。これは余りだけど店長さんの為に取って来たものだから。……店長さんの無念はもうないかもしれないけど、私の恩返しに付き合ってもらいます!」
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