46 いざ説明!
説明多目になってしまいました
アクセサリーショップの店主が突然姿を消したことに首を捻りつつもマーサが店を出ると、見覚えのある岩のような男が少し先にいた。
冒険者ギルドアインボックス支部のギルドマアスターであるダリガンだ。
ダリガンも丁度マーサの姿を発見したらしく、早足で駆けてきた。
どこか慌てたような表情で立ち止まったダリガンは既に息を切らせた状態であった為、息を吐いて整えた後顔を上げた。
「……ふぅ、探したぞマーサ。アクセサリーショップに向かうと聞いていたがどこの店に使いを出してもおらん。宿にも戻ってないというし、こんなところで何をやっていたんだ?」
「何って、そこのアクセサリーショップでプレゼントを作ってもらってましたよ」
「ここ、で? ……ここにはアクセサリーショップなど無い」
「え? ここにあるじゃ……あれ?」
ダリガンの言葉に反論しようと振り返ったマーサは思わず疑問の声をあげてしまった。
振り返った先に一軒の建物はあったが、看板も無く、寂れて見えるそれは、明らかに営業している店の雰囲気ではなかった。
何よりも、記憶にある店の姿と違い過ぎて困惑してしまっていた。
「正確には、今はもう無い、と言うべきか」
「今は?」
「こんなところで話すのもなんだ。お前さんに用件もあったことだしギルドへ来ないか? そこでならゆっくり話が出来る」
「あ、はい、分かりました」
ギルドへやってきたマーサは、依頼の報告時に使用した応接室へと通された。
そこでギルドマスターからアクセサリーショップの店主についての話を聞いた。
プリズムイーターによる被害は、突然現れたものではない。
ずっと前から少しずつその予兆はあったのだ。
最初に気付いたのはベテラン鉱夫。それでも採掘量が僅かに減ったような気がするという、確証のないものでしかなかった。
実際その鉱夫も気のせいだと結論付けて誰にも話すことは無かった。
目に見えて採掘量が減って来たところでようやく、何かがおかしいと気付き始めた。
しかし、領主の判断は様子見であった。
速やかに原因を特定せよと指令を出し調査を進めたが、街の営みは何も変わらなかった。
造り出し、運び出す。
「だがな、その領主の慎重な性格が災いした」
アインボックスは≪鉄の街≫と呼ばれる程に鉱山からの恵みに頼り切っていた。
金属や金属製品を輸出し、他の物資を輸入する。
輸出する量は決まっており、採掘量が減っても変えなかった。
それにより金属の蓄えは徐々に減っていった。
しかし、誰もが楽観視していたのだ。
すぐに原因をつきとめて排除する。そうすれば、採掘量も元通りで在庫もすぐに復活すると。
「見慣れないモンスターがいると報告が出始めた後は、もう一瞬だった」
プリザーブドプリズムが鉱山のいたるところに出現するようになり、討伐が追いつかなくなり、遂には占拠されてしまった。
完全に採掘がストップしたところに重ねて、魔神王の復活による転送装置の破損。
アインボックスの流通は完全に死んでしまったのだ。
「……まぁ、ここまではおさらいみたいなもんだ。それで、あの店のことだな」
「お願いします」
「あそこは、一人の職人が興した店だ。あいつの名前はクーネっつってな、腕も行動力もあるいい職人になれる逸材だった。あの歳で独立出来る奴ぁ、この街でも中々いねぇ」
「はい、自分でも言ってたけどすごくいい腕でした!」
「自分で、か」
マーサの言葉を聞いてダリガンの眉間に深い皺が寄る。
「あいつは独立してあの工房を作ったわけだが、時期が丁度採掘量の減少が明らかになった辺りでな、まぁ昔から間の悪いやつではあったんだ」
「それは大変そうですね」
「んでな、輸出量は減らさないことに決めたもんだから、採掘したもんは大きい工房に優先的に回されることになった。当然、街で流通してる金属の値段も上がっていく。ワシも出来る限りの交渉はしたんだがな、どうしてもしわ寄せが小さい工房にいっちまった」
ダリガンは眉間に皺を刻んだまま話を続ける。
どこか後悔しているようなその表情は、マーサから見ても苦しそうだと感じるものであった。
「そんでとうとう鉄の一欠けも無くなった頃に、あいつは馬鹿な癖に行動力だけはあったからよ、一人で鉱山へ行ったんだ」
「鉱山へ? 私が行ったときは兵士さんが見張ってましたけど、前はいなかったんですか?」
「居るにはいたが、居眠りでもしてたのか素通りさせちまったみたいでな。そいつはきちんと見張っていた、特殊なマジックアイテムで通り抜けたに違いない、なんて言って無罪放免、お咎めなしってんだから気分悪ぃぜ……すまん、話が逸れちまった」
ダリガンは軽く謝った後一つ息を吐いた。
空気と共に熱を吐き出すことで冷静さを取り戻すよう努力していた。
「つってももうほぼ終わりだ。そのまま帰ってこなかった、ってだけだからな」
「そうなんですね……」
「あの店であいつに会ったのか?」
「はい。普通のお店に見えたので入ったら、材料が無いので助けて欲しいって。それでギルドの依頼を受けることにしたんです」
「なるほどな……ったく、死んでも尚行動力の塊かよあいつは。自由すぎるだろうがよ」
「えっと、聞かせてもらってありがとうございました。店長さん……クーネさん、すっごく楽しそうにしてました。お願いしたプレゼントが完成した時もすっごくいい笑顔で、幸せそうでした」
「……そうか、そいつは朗報だ」
ダリガンはおどけるように肩を竦めて見せた。
それが一種の照れ隠しであることはマーサにも伝わるくらい明らかであった。
「そういえば、どうして私を捜してたんですか? 何かあったんですか?」
「ああ、一応そっちが本題だったな。正直このまま忘れちまいたいくらいなんだが、立場上そういうわけにもいかんなぁ」
「よくないことですか?」
「どうだろうな。普通は良いことなんだろうが、何せ普通じゃない相手だ。悪いがワシには判断が付かん」
ダリガンの曖昧な言葉にマーサは首を傾げた。
遠まわしすぎてさっぱり意味が分からないのだ。
「この街の領主からの呼び出しがかかった」
それは、少人数でボスを討伐した者に発生する特別イベント開始の報せであった。
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