44 いざ精錬!
本日二回目の更新です!
冒険者ギルドのマスターを仰天させ、テンションがおかしくなったヒゲモジャのおっさんからの感謝を浴びた後、マーサはとある場所へやって来た。
その場所はギルドマスターから紹介してもらった、武具の販売から金属加工、精錬まで手広くやっているこの街でも大手の工房であった。
アクセサリーショップの店主へ届けるものはアクセサリーの原材料であり、つまりは金属である。
マーサが採掘してきた鉱石はその金属の原材料であって、金属ではない。
自力で加工することの出来ない店主に持ち込む為には、精錬する必要があったのだった。
「お邪魔しまーす。うわぁ、まさに武器屋さん、って感じだぁ……ね、ミヤ」
「メェ」
店内に入ると数多くの武器が壁にかけてあったり、棚に飾られていたりする。
材質や加工の精度によっては、樽に刺してあるようなものもある。
今まで馴染の無かった光景にマーサは瞳を輝かせて辺りを見回す。
奥にはカウンターがあり年配の女性が立っていた。
恰幅が良く、意志の強そうな目つきから、肝っ玉母ちゃんとでも呼ばれていそうな風格である。
女性は楽しそうに見て回るマーサに笑顔を浮かべつつ、声を掛ける。
「いらっしゃい。ギナン工房へようこそ。今日はどういった用件だい?」
「すみません、精錬をお願いしたいんですけど」
「精錬ってあんた、鉱山で掘って来たのかい?」
「はい、そうです」
「そういやあんた、そんなに若いお嬢さんなのに鉱山堀りなんかい?」
「あ、違います違います。私は冒険者です」
今のマーサの格好は紫色のツナギに軍手、オレンジ色のヘルメット、丈夫なブーツ。そして首にはタオル。
全身土で汚れており、綺麗な髪もすっかりくすんでしまっていた。
どこからどう見ても鉱夫である。女性が勘違いしてしまうのも自然なことだった。
「なるほど、冒険者さんかい。ダリガンの奴が余所の凄腕の冒険者に依頼を出したとは聞いてたが、まさかこんな可愛い子だったとは。あんた強いんだねぇ」
「私はそんなに大した冒険者じゃ……」
褒められ慣れていないマーサは照れつつも女性の言葉を否定する。
謙遜でもなんでもなく、本人にとっては自分など大した存在ではないと思っている。
この世界に存在するプレイヤーの中でも間違いなくトップクラスなのだが、それを本人は知る由もない。
「あの堅物が認めた冒険者が大したことないわけないだろ、胸をお張りよ」
「あ、はい」
「皆が手が回らない状況であんたに依頼したってことは、そんだけあんたを信頼してるってことなんだ。自身持ちな」
「あ、えと、ありがとうございます」
「よしよし、褒め言葉は素直に受け取っときな」
「はい、私は大した冒険者です!」
「あっはっ! あんた素直だねぇ!」
女性は一しきり大笑いした後、息を吐いた。
「はー、笑った笑った。それじゃ、鉱石はここに出していってくんな」
「はい」
女性に促されたマーサは、鉱石を取り出していく。
鉱石を確認しては背後の箱に入れていた女性だったが、止まらないマーサとうず高く積まれていく鉱石に動きを止めた。
「あんた、まだあるのかい?」
「はい、たくさんあるので全部ついでにお願いしようかと思って。駄目ですか?」
「ああいんやいんや、ただ驚いちまっただけだからさ、ありったけ出しな。ウチにも鉱石なんて残ってなかったからね、手は足りてるよ。ただちょっと待ってておくれ」
女性は手に取っていた鉱石を置いて、奥へと消えていった。
「アンタ達!! 鉱石がいっぱい入るから気合い入れな! ええっ! 精錬担当共はどこ行ったんだい! ああっ!? どうせ仕事なんて無いって飲みに行った!? ふざけるんじゃないよ! 呼び戻してきな!! 返事は!! 走れ!!! 何人か鉱石運ぶの手伝いな!!」
怒号のような音がやんだ後、女性はやけに爽やかな表情で姿を現した。
その後ろには怯えるような表情でうつむき加減の厳つい男達が数人続いていた。
「待たせたね。それじゃあどんどん出してくんな」
「あ、はーい」
ミヤを撫でていたマーサは立ち上がり、再び鞄から鉱石を取り出していく。
ギルドに納品して残った鉱石ではあったが、その数は尋常ではなかった。
・鉄鉱石 1041個
・銅鉱石 1681個
・銀鉱石 1363個
・金鉱石 931個
・ミスリル鉱石 778個
合計 5794個
「これで全部です」
「……なんともまぁ、とんでもない量だね」
「でも、結構減った方ですよ。さっきそれぞれが一割残る様にギルドマスターに納品してきたので」
「……やっぱりあんた、大した冒険者だよ」
「ありがとうございます!」
(アルディちゃんのお嫁さんってことは、私がダメな子だとアルディちゃんまでダメな子だと思われるって事だもんね。つまり自分で自分を貶すってことは、アルディちゃんを貶してるってことだから、自分に自信を持たないと!)
少しだけ前向きになったマーサの笑顔はとても素晴らしいものだった。
「それじゃあこいつが精錬後の金属だよ。手数料は事前に決めてあった通り、いくつか鉱石をもらったから支払いはないよ」
「はい、ありがとうございました」
「こっちも仕事が入って大助かりさ。また来ておくれよ」
ガタイの良い男達が総出で運んで行った多量の鉱石であったが、精錬はすぐさま終了した。
時間にして三十分も掛かっていない。
ここはゲームの世界であり、待ち時間までリアルにしていてはストレスばかりが溜まってしまうからという配慮である。
ちなみに、マーサがボスを討伐した後金属の流通が回復するまで二週間かかると言われたのにも理由がある。
攻略までいくつもの段階を踏んで、三か月程かけて解決するであろうイベントを一日で解決してしまったせいで、色々なイベントのフラグやら何やらが盛大にクラッシュして渋滞を引き起こしたのだ。
本来の手順通りであれば、ボスを討伐した翌日には流通は完全に復旧していた。
「よし、それじゃあアクセサリーショップにしゅっぱーつ!」
「メェ」




