43 いざ成果報告!
二日間もの間、マーサはひたすらに採掘作業を行った。
アクセサリーショップの店主を救う為、ひいては、最愛の魔神王へプレゼントを贈る為。
全力を込めてピッケルを叩き続けた。
「えいっ」
ガキャァン!!
可愛い掛け声とは裏腹に、鋭いピッケルが突き刺さる音は激しい。
マーサのステータスは後衛職らしく筋力は低いが、≪採掘術≫のスキルによるブーストでより効果的な採掘が可能となっている。
「やた、いっぱい出た!」
マーサが一回ピッケルを叩きつけるごとに大体三~四個の鉱石が転がり落ちる。
この時はなんと六個もの鉱石がドロップし、マーサは喜びの声を上げた。
通常、多くても二個程度しか同時には出ないが、マーサの持つスキルとステータスの効果は絶大だった。
「よーし、この調子でもっともっと掘ろうね」
「メェ」
マーサは友人に騙され、狩りには向いていないキャラ構築をした。
それが採掘特化型であったのは幸運だったのかもしれない。
続けて何度かピッケルを振るったマーサは、落ちた鉱石を鞄へと仕舞っていく。
「重さを感じずに運べるなんて、この鞄本当に便利だよね。メルドさんにはもう一回ちゃんとお礼言わないと」
「メェ」
ミヤの身体に括りつけられているその鞄は、魔神王の城から持ち出された伝説級のアイテムである。
その名もマジックバッグ。
100種までのアイテムを重量と個数を無視して無限に入れることが出来る。
アルディの様子を聞く為に召喚したメルドにある程度の事情を話したところ、一週間は過ごせそうな程の料理が詰まったこのバッグを持たされたのである。
筋力の低いマーサでは重量が少し高めに設定してある鉱石の類はそこまでの数を運ぶことが出来ない。
その為本来ならば小まめに街へ戻るなどする必要がある。
それがこの鞄により、休むことのない活動を可能にしていた。
地面に落ちていた鉱石がほとんど無くなったところで、拾うのを手伝っていた毛玉のような物体がマーサの前へ漂ってきた。
「ここも大漁だったモジャ。マーサは採掘が得意モジャねぇ」
「うん、コツとかも分かって来たし、狙った角度でピッケルが刺さると楽しいんだ」
「すごいモジャ。次も張り切って手伝うモジャ」
「ありがとうモジャさん」
「モジャ~」
毛玉は満足そうにミヤの毛皮へと埋まって行った。
黒い毛を丸めたようなこの物体はモジャ。自称モジャの精霊である。
いつの間にかミヤの毛皮に紛れ込んでいたモジャは転移の魔方陣を修復した後はしばらく眠りについていたが、マーサが鉱山にこもる内に復活し、ポイントを掘る度に鉱石拾いを手伝ってくれていた。
「それじゃあ次はあそこの採掘ポイントかな。いこうミヤちゃん」
「メェ」
マーサが二日間にも及ぶ採掘の中で、効率的なサイクルを確立していった。
まずはほぼ全ての採掘ポイントを捜して周り、ひたすらに掘った。
しかし、広大なマップが用意されているアイン大鉱山を周回すると移動する距離がそれなりであった。
これでは効率が悪いと感じたマーサは、採掘ポイントを周るルートを決めた。
アイン大鉱山は広い為、移動距離を考えたら全体を周るよりも効率が良いのだ。
そうして移動距離、ポイントの復活時間を考慮したマーサ的ベストルートが完成した後はそこをひたすら周った。
一つのことに熱中すると凄まじい集中力を発揮するマーサは空腹も眠気も一切感じることなく、二日間もの間、嬉々としてピッケルを振るい続けたのであった。
▽
マーサは採掘に出掛ける時に出来るだけ沢山掘って来てギルドにも納品してくれと頼まれた。
その分張り切って掘ったマーサだったが、そろそろ十分だろうと判断して街へと戻って来ていた。
そうして冒険者ギルドの近くまでやってきたところで、いつもと違う雰囲気を感じ取った。
「あれ、なんだか騒がしい。どうしたんだろうね、ミヤちゃん」
「メェ」
呑気なマーサはミヤに話しかけた後、ミヤと共にギルド内へと入った。
そこには、数日前が嘘のように活気を取り戻したギルドの姿があった。
「すみません、鉱石を持ってきました」
「あ、マーサさん! ギルドマスター! マーサさんが帰って来ましたよー! すみません、すぐにギルドマスターが来ますので」
受付嬢が頭を下げて書類との格闘に戻ったと同時に、小さな岩のようなヒゲモジャの男が姿を現した。
「おお、嬢ちゃん戻ったか。あのクソ卵モドキがいなくなったとはいえ、ある程度のモンスターは出るからな。無事に帰って来られて何よりだ」
「えへへ、頼りになる仲間のお陰で安全でした」
プリズムイーターを討伐したことによりプリザーブドプリズムの群れが消滅したアイン大鉱山ではあるが、モンスターがいない訳ではない。
イベントを終えて配置されているモンスターの種類が変わっただけである。
調査の為に冒険者や鉱夫が走り回っている状況だった為にミヤ以外の仲間は召喚出来なかったが、NPC冒険者によってある程度間引かれていることもあり護衛戦力としては申し分なかった。
「んで、いっぱい採れたか?」
「はい、たっくさん掘りましたよ」
「そうかそうか、そいつは助かるぜ。ついでとばかりに仕事を頼んじまって悪かったな。転移装置の修復が終わらねぇせいで人手が相変わらずカツカツでよ、採掘再開の段取りだけで未だに手いっぱいだぜ」
謝罪とともにギルドマスターのダリガンは愚痴を溢す。
採掘をしに行くと告げに来たマーサに対し、ダリガンは多めに確保して納品して欲しいと依頼した。
現在アインボックスにいる冒険者の数は少なく、人手が足りていなかった為である。
「ははぁ、だから皆さんこんなに慌ただしいんですね」
「まぁな。つっても何日か前に比べりゃ幸せなことだぜ」
「そうですね」
ニヤリと笑うダリガンに対し、マーサも笑顔で応える。
採掘が再開すれば街は蘇る。
それが分かり切っているからこそ、誰もが明るい表情を見せている。
人任せであったとしてもその助けになれたことが、マーサは嬉しかった。
「さて、そんじゃあ鉱石をもらっていいか?」
「はい! たくさんあるんですけどここで出しますか?」
「おお、そいつは期待出来るな。ギルドの裏手に倉庫がある。そっちに頼めるか?」
「はーい。行こ、ミヤちゃん」
「メェ」
移動後、倉庫を埋め尽くす程の鉱石の山にダリガンは言葉を無くすことになる。




