41 いざ報告!
イベントボスである≪プリズムイーター≫をあっさり倒したマーサは、街へと戻っていた。
クエストを受注して対象を討伐した後は報告をするのがお約束であり、この≪CPO≫の世界でもしっかりと踏襲されていた。
相変わらず人気が少なく活気もないギルドに入ったマーサは真っ直ぐに受付へ向かう。
それを確認した女性NPCは、感情を表に出さないよう愛想の良い笑顔を浮かべた。
負けじとマーサも満面の笑みを浮かべる。
依頼を達成した喜びが溢れて仕方が無かった。
「すみません!」
「冒険者ギルドへようこそ。ご用件をお伺いします」
「あのさっき受けた討伐のことなんですけど」
「はい、≪プリザーブドプリズム30体の討伐≫ですね。依頼をキャンセルされますか? キャンセルされる場合、違約金としてキャンセル料をお支払いいただくことに――」
「あ、違います違います。ちゃんと達成して来ましたよ!」
「え? でもまだそんなに時間が、え、嘘……」
マーサの笑顔に、受付嬢は戸惑いながらも確認する。
受付に備え付けられている討伐を確認する装置は、間違いなく依頼の達成を示していた。
「た、確かに、≪プリザーブドプリズム30体討伐≫の達成を確認しました――!」
「やったー!」
受付嬢は興奮した様子で報告を受け付けた。
立ち上がり、口元を両手で覆い、今にも泣きだしそうな程に涙を溜めている。
これは依頼の達成度やかかった時間等から算出された総合評価によって変わる、演出の一つだ。
マーサは依頼を受けてから一時間も経たずに、しかも30体どころか数百体討伐したため、最高ランクを叩きだしていた。
そうとも知らないマーサは単純に依頼を達成出来たことに喜んでいる。
「うそ、あの依頼をこんな短時間で……!?」
「今プリザーブドプリズムっつったか?」
「まさか、俺達にも手に負えねぇものをあんな嬢ちゃんが? 酔ってんのかお前」
「酔ってはいるが確かに聞こえた。ありゃあこの街を救ってくれる英雄かもしんねぇぞ」
周囲の人々が受付嬢の言葉に反応した。
隣に座っていた別の受付嬢を皮切りに、酒場でしょぼくれていた職人や冒険者も驚いた様子で話し合っている。
全員の視線がマーサに集中する。
「おいおいなんの騒ぎだ?」
そんな中、顔面のほとんどをヒゲで覆われた男がカウンターの奥から姿を現した。
背はあまり高くないが、全身に厚みがあり腕も脚も太い。
まるで岩のようなこの男こそ、冒険者ギルド鉄の街アインボックス支部のギルドマスターである。
「ギルドマスター! 聞いてください、この、この子がすごい早さで例の依頼を達成してくれたんです!」
「ああん? こんな嬢ちゃんが例の依頼を?」
ギルドマスターは胡散臭そうにマーサに視線をやった。
まるで睨みつけるように向けられたその視線は鋭く、並のプレイヤーなら怯んでしまう程の迫力だ。
しかし、マーサはそういった感情に疎い。
「アクセサリーショップの店長さんにお願いされたので行ってきました!」
手を上げて笑顔で理由を述べていた。
そんなマーサの相手を面倒だと思ったのか、ギルドマスターは視線を受付嬢へ戻した。
「……まぁいい。んで、それがどうしたってんだよ。あの程度の数片付けたところで大した影響は」
「それがですね、ヒソヒソヒソ」
ギルドマスターの言葉を遮った受付嬢は、素早く小声で伝える。
マーサが討伐したプリザーブドプリズムの数と掛かった時間を正確に。
「……なぁっ!?」
その報告を聞いたギルドマスターは目を見開いた。
有り得ない。
その言葉しか頭には浮かばず、口から出てきたのは声にもならない驚きだけだった。
「嬢ちゃん、名前は?」
「マーサです」
「ワシはこの支部のギルドマスターをしておるダリガンだ。マーサ、詳しい話を聞かせてくれ」
「分かりました」
▽
マーサ達はギルド内にある一室へと移動していた。
応接室のようなその場所は、内密の話に使用される部屋である。
そこでマーサは聞かれるままに、どこで数百にも及ぶプリザーブドプリズムを倒したのかを説明した。
そしてその場所で、巨大なタコのようなモンスターを討伐した事もしっかりと。
「まさか、まさかそいつは、プリズムイーター……!?」
プリズムイーターはとても凶悪なモンスターとして、この地で語り継がれていた。
そのおとぎ話を知っていたダリガンの脳内で全てが繋がった。
「今すぐアイン大鉱山を、いや、全ての鉱山を調べる必要がある! もしもマーサが倒したのがプリズムイーターならば、今頃あのクソ卵擬き共も綺麗さっぱり消えておる筈だ!」
「は、はい、只今!」
同席していた受付嬢はダリガンの指示で部屋を飛び出していった。
ギルドマスターは興奮が冷めやらない様子で、再びマーサに顔を向けた。
「すまぬが、しばらく調査をする時間をくれまいか。お主への報酬はきちんと用意する」
「分かりました。また何かあったら言って下さいね」
「あ、ああ」
マーサは軽くそう告げるとさっさと部屋を出て行った。
彼女にとってはただの報告であり、さして重要なことではなかったのだ。
ペット達やミッシュが全て片付けてくれたお陰で、大したことをしたという意識も無い。
「まったく、なんというやつだ。あれは大物だな……」
ダリガンは気の抜けたようにソファーに身体を預け、ポツリと呟いた。
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