40 いざお願い!
≪プリズムイーター≫。
それはモンスターの中でも強力で別格であることを表す≪ultimate≫の分類を持つボスモンスター。
眷属を無数に産み落とす能力を持っている。
産み出された≪プリザーブドプリズム≫は光を反射するものを好む。
鉱山に眠る鉱石等の金属も勿論対象である。
金属を満腹になるまで、手当たり次第に喰いつくした眷属達は地下のトンネルからプリズムイーターの元へ戻り、捕食される。
この習性のお陰でアイン大鉱山を含む周辺の鉱山地帯は丸ごとプリズムイーターの餌場と化した。
鉄の街アインボックスはその名の示す通り、鉱山から採れる資源によって成り立っている街だ。
放っておいては鉱山が食い尽くされてしまう。
かといって、魔神王の襲撃の影響で戦力の整わない現状、危険なモンスターがいては満足に採掘も出来ない。
プリズムイーターは、アイン大鉱山に巣食い経済を破綻させかねない打撃を与えていた。
というのが、鉄の街アインボックスを取り巻くイベントの設定である。
この世界はゲームの世界だからプレイヤーが楽しむための状況が用意されている。
プリズムイーターはこの現在実装されているボスの中で、上位に含まれる強さのボスだ。
サービス開始してから十日程度では討伐はおろか、ダンジョンへ入ることすら難しい。
本来ならば。
「ギュシャアアアアアアアアアアア……!!」
「私は斬った。お前は斬られた。私の勝ちだ」
たったの九撃でHPを削り切られたプリズムイーターは断末魔の叫びをあげながら消えていった。
九回の攻撃と言っても時間で言えば一秒も無い。
強めのボスにしては哀れな最後であった。
プリズムイーターの消滅と共に広場にいた他のモンスターも消滅し、辺りは静けさに包まれる。
「ミッシュさん!」
「マーサ様。この度は斬る機会を与えてくれたこと、感謝する」
人の姿へ戻ったミッシュの元に駆け寄ったのは、美少女だった。
特徴的なゴシック調のドレスに身を包み、黒と見紛う程の深い紫の髪には金色のメッシュが入っている。
彼女こそが魔神王の妻である魔神姫、マーサである。
「ううん、私の方こそありがとう。あんな強そうなモンスターを一瞬で倒すなんて、やっぱりミッシュさんは強いね!」
「いえ、私などアルディ様には遠く及ばない。……そういえば、ここはどこなのか。マーサ様がいなくなったとアルディ様が嘆いていたぞ」
「ええっと、実は私もよくわかってないんだけど――」
「何が起きていようと、マーサ様に危険がないのであれば私は一向に構わない」
分からないなりに説明しようとしたマーサの言葉に被せるように、ミッシュは堂々と言い放った。
本当に興味が無いのかマーサに気を遣ったのか、それは本人にしか分からない。
それでもマーサは少し嬉しく思った。
「あはは、ありがとう」
ミッシュは魔神王配下の最高幹部、暗黒四魔神が一柱である。
その見た目は美しい女性だ。
セミロングの金髪を一つに結び、目は鋭く長い。
金で彩られた紫の騎士甲冑に身を包んだその姿は、まさしく女暗黒騎士といった風情だ。
「しかし、メルドの奴は知りたがることだろう。私がマーサ様に喚ばれていたことを知ったらうるさいのは間違いない。だからメルドには説明しておいてくれると有難い」
「うん、分かった。そうするね」
(ちょっと気まずいけど、メルドさんにも心配かけてるだろうからちゃんとお話しとかないとね)
まずミッシュを送還。
そして気合いを入れたマーサは、メルドを召喚した。
ちなみに、ペット達は散らばったドロップアイテムを拾い集めていた。
「ここは……マーサ様!?」
呼び出されたメルドは素早く状況把握に努め、すぐにマーサの姿を認識した。
「ごめんなさいメルドさん、急に喚んじゃって」
「それはいいんですが、これはどういう状況でしょうか?」
「ええと、詳しい事は分からないんだけど、説明するね」
「お願いします」
これまでのことを説明した。
モジャが魔方陣を修復した辺りで物騒な台詞を呟いていたが、小声だったのでマーサの耳には入らなかった。
「なるほど。それで、私がここに喚ばれたというわけですね」
「うん。それで、お願いがあるんだけど……」
「なんですか?」
「アルディちゃんにはこのことは内緒にして欲しいの。ちゃんと私から謝るから」
「それは……」
口を開きかけたところを、マーサは遮るように畳み掛ける。
「ずっとお世話になりっぱなしだから、サプライズプレゼントでお礼がしたいの!」
「サプライズですか……」
メルドは考えた。
アルディは現状、マーサが家出したショックで仕事が手についていない。
今聞いたマーサの気持ちや考えを伝えれば即座に機嫌が戻るだろう。
仕事も進むに違いない。
しかし、マーサはサプライズでプレゼントを贈りたい。
その望みを叶えようと思えば、アルディには何も伝えられない。
マーサの準備が整うまで仕事は全く進まないだろう。
冷静に考えれば、仕事が最優先である。
しかし、しかし。
メルドは考えた。
そして決めた。
「分かりました。内緒にしておきますので、万全の準備をしてください」
「ありがとうメルドさん!」
「どういたしまして」
メルドは決めた。
サプライズの先にあるマーサの笑顔、アルディの驚きと喜び、そして溜まりに溜まった仕事に絶望する自らの主人の姿を目に焼き付けることに。
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