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37 いざ人助け!

おそくなってしまいすみません!


 アインボックスへと到着したマーサは、スターレとはまた違った雰囲気に感動していた。

 外出する機会が少なく、ゲームもほとんどしたことのなかったマーサにとって、この世界の見るもの全てが新鮮で楽しいものなのである。


「すごい、街中から熱気がするよミヤ!」


「メェ」


 アインボックスは鉄の街の異名を持つ。

 鉱物の産出と加工を主な産業として発展したのがその理由である。

 街並も金属が街中に使われており、加工の際に出る蒸気と熱、そして音が街に溢れている。


「しばらく滞在するっていうことは、まずは宿だよね! 宿なんて自分で取ったこと無いから楽しみ!」


「メェ」


 眠そうな返事をするミヤをお供にマーサは歩く。

 マップを開けば街の詳細な地図が現れる。

 施設の中から宿を検索し、表示された中で一番近い所へと向かった。


 扉を開けるとカウンターの向こうには厳ついおじさんが立っていた。

 アインボックスは似たような雰囲気のNPCの比率が高めになっている。


「こんにちは!」


「いらっしゃい。食事と宿泊、どっちだ?」


「宿泊でお願いします!」


「動物連れなら一泊200(コール)だ」


「200、こーる……?」


「あん? コールは金の単位だろ。まさか持ってないって言うんじゃねぇだろうな」


 店主は怖い顔でマーサを睨む。


 マーサは初めて聞いた単位に戸惑っていたが、言われて初めて理解した。

 今までお金を使う機会が無かったせいで馴染が無かったのだ。

 慌ててメニューを開くと、所持金の覧もしっかり存在している。

 

(すっかり忘れてたけど、商売なんだから当然だよね。お金、お金――あった!)


 そこには12900の数字が並んでいた。

 これはβテスターへの特典としての先行プレイ期間に集めた輝石の余りが変換されたものである。


「あ、ありますあります! ありました!」


「そうかい、金さえ払ってくれりゃあ文句はねぇ。んで、一泊でいいか?」


「んーっと、とりあえず一泊でお願いします。必要があれば後で延長してもいいですか?」


「ああ構わねぇぜ。それじゃああんたの部屋は二階の三号室だ。鍵を渡しておくぞ」


「ありがとうございます!」


(お金のことは忘れてたけどちゃんと持ってたし、無事に部屋を取れて良かった! 何日か前からログアウト出来ないからゲーム内でもちゃんと寝とかないと身体に良くないよね)


 こうしてマーサは無事に宿を取ることが出来た。

 部屋に入って内装を少し確認した後はすぐに街へとくり出した。

 新しい場所へ来たマーサは、観光がしたくてたまらなかった。

 

「見て見てミヤ、あそこは銃が売ってるんだって!」


「メェ」


「あっ! あそこは調理器具だって!」


「メェ」


 ご機嫌な様子で歩くマーサに、道行く人々は笑顔を見せる。

 冒険者の格好をした人もちらほらいるが、この街にプレイヤーはマーサしかいない。

 全員NPCである。

 

 転送装置の復旧に至る程スターレの復興が進んでいないのだ。

 マーサが装備を騙し取られそうになった恨みを、創造主の許可が下りるギリギリのラインの破壊工作でぶつけている結果だというのは、一部の者しか知らない事実である。


「ここはアクセサリー屋さんだって!」


「メェ」


「アクセサリーかぁ、アルディちゃんに似合いそうなのあるかなぁ。……そういえば私、アルディちゃんからもらってばかりで何も返せてないよね」


「メェ?」


「うん、良いの無いか探してくるから、ちょっとここで待ってて!」


「メェ!」


 ミヤの応援するような声を受けて、マーサは店内へ突入した。

 こじんまりとした一軒家で中もそんなに広くない。

 数メートル程奥にカウンターがある。

 その向こう側で若い女がカウンターに額をつけて項垂れている。

 距離はそんなに無いにも関わらず、マーサに気付いた様子はない。


「こんにちはー」


「ああ、どうしよう。このままじゃうちはお終いだ……」


「あのー」


「え、あ、お、お客さん!?」


「一応そのつもりです」


「し、失礼しました、いらっしゃいませ!」


 若い女はようやくマーサに気が付いて、姿勢を正した。

 見た目は二十代前半程。

 長い金髪を後ろに結い上げた、エプロン姿の女性NPCだ。

 数秒して思考が冷静になったのか、落ち込んだように再び項垂れた。


「せっかく来てもらったけど、今うちには売れるものが無いんですよ。だから今日はもう閉店……それどころか、永遠に店仕舞いです……はぁ」


「何かあったんですか?」


「ううぅ……実は私、これでもかなりの腕のアクセサリー職人なんです。中々独立を認めてくれない師匠のところを飛び出して、ここに私の店を構えたんです」


「その歳で自分のお店なんてすごいですね!」


「あはは、ありがとうございます。それで始めたお店は大繁盛。最初に用意してた材料を全部使い切るくらい売れたんです」


 照れ笑いから自慢げな顔へと変化する女性。

 それなりにある胸を張って誇らしげだ。

 しかし、またすぐに落ち込んでしまう。


「それで調子に乗っちゃったんです。設備を更に良いものにしようと思って、最初に稼いだお金をほとんど使って一式を新しくしたんですよ」


「はい」


「そしたら急に、急にですよ!? そのタイミングで、材料である鉄や銀の値段が物凄い上がっちゃって、残してたお金じゃ買えなくなってしまいました。いくら設備が良くても材料が無ければ何も作れません……だからもうこのお店もお終いなんです」


 女性は完全にカウンターに突っ伏してしまった。

 その声は絶望に塗れている。


「値上がりって、何が原因なんですか?」


「どうやら、この辺りの鉱山に強めのモンスターが現れるようになったらしいです。復活した魔神王の影響じゃないかって話してるのを聞きました」


「なるほど」


(詳しくないけど、すごくゲームっぽい!)


 表面上は平静を装いながらも内心では興奮していた。

 困っている人から話を聞き、お使いや討伐をして解決する。

 ゲームではお馴染とも言える、定番の流れだ。

 しかしゲームの経験がほとんど無いマーサにとっては、テンションの上がるイベントであった。


「あと、この間魔神王が宣戦布告したらしいじゃないですか。それで軍備を強化する為に、なんとか採掘した金属もほとんどを国に買い占められてるんだとか。大きい工房は備蓄もあるでしょうけど、ウチみたいな個人でやってる店はたまったもんじゃないですよ……」


「分かりました。私がなんとかします!」


「ええ!? だってお客さん、確かに冒険者って感じの装備してるけど私よりも明らかな駆け出しじゃないですか! 悲しい愚痴を聞かせた私が言うのもなんだけど、無理しなくっていいんですよ!?」


 自信満々に名乗り出たマーサ。

 対して、女性店員は恐縮してしまった。

 まだ十五歳にもなってない見た目の、見るからに駆け出し装備の少女に全てを任せることに申し訳なく思ってしまった。

 それは人として、当然の反応である。


 しかし、ここはゲームの世界。

 そしてマーサはプレイヤーである。

 目の前にあるこの困難を、救いたくて仕方がない。

 勿論、それだけが目的ではない。


「大丈夫、私に任せてください!」


「ううん、いいんでしょうか……」


「大丈夫ですって! だけど、一つ条件があります」


「条件ですか?」


「はい。解決したら、私の旦那様の為に全力でアクセサリーを作って欲しいんです!」



お読みいただきありがとうございます!

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