35 いざ転送!
マーサがペガ達と共に魔神王城を飛び出してから数時間。
果てしない死の荒野の中で、何か建造物のようなものが見えてきた。
「ペガ、あれ見える?」
「ヒヒン!」
「それじゃああそこに向かってくれる?」
「ヒヒン!」
マーサのお願いに応えるようにペガの進行方向が僅かに傾いた。
そのまま真っ直ぐ進むと、古ぼけた建造物に辿り着いた。
あまり大きくはなく、一軒家サイズである。
ボロボロになっているが石で出来ているように見える。
「これなんだろう。入口はあるけど……行ってみようか」
「ヒヒン!」
「ピィ!」
「メェ!」
ここはゲームの世界。
気になるものを見つけたら調べるものだ。
マーサはぽっかりと空いた入口から中へ入ってみた。
それなりに広い通路を奥へ進んで行くと、部屋に出た。
二十畳程の広い部屋には何もない。
入って来た入口以外は壁で囲われており、行き止まりになっている。
「ただ部屋があるだけ? それにしては意味深過ぎるような……これってなんだろう?」
様子を見ながら部屋へ足を踏み入れた。
床には魔方陣が薄らと描かれている。
「アニメとかで見たことあるような。魔方陣、だっけ」
マーサは線を指でなぞってみる。
何も起きない。
ペット達も蹄で引っ掻いたり匂いを嗅いだり突いたり。
色々してみるが何も起きない。
「うーん、何も起きない。……ミヤちゃん? それどうしたの?」
「メ?」
ふと振り返ると、ミヤのモコモコとした毛が動いている。
中から何かが出てこようとしているような、そんな動きだ。
ミヤが不思議そうに鳴くのと同時に、何かが飛びだしてきた。
「モジャー。良く寝たモジャー」
それはモジャモジャした黒い毛の塊だった。
「モジャさん?」
「モジャです。どうもどうも」
モジャの精霊のモジャである。
以前マーサが出会った時はバスケットボールサイズだったが、今は野球ボール程になっていた。
「どうしてモジャさんがミヤちゃんの毛の中から出てきたの?」
「城を漂ってると、執事みたいな服装の美人さんに千切られそうになったモジャ。むしろ千切られたモジャ。だからこの立派なモジャモジャの中でモジャ力を回復してたモジャ」
「だから前よりも小さいんだね。大丈夫?」
「なんとか生きてるモジャ。あれはきっと妖怪≪モジャ千切り≫モジャ。怖いモジャ!」
「メルドさんのこと?」
「そう呼ばれてた筈モジャ。メルドは床にモジャの眷属達が落ちてるのが気に食わないらしく、よく殲滅されてるモジャ。どうやらモジャの勢力拡大を防ごうとしているみたいだモジャ」
「メルドさん綺麗好きだからね」
モジャから分離した眷属(毛)は床に落ちる。
床に落ちた毛は少しずつ成長して、その密度と量を増していく。
成長した毛はいずれ立派なモジャの精霊へと成り旅立って行く。
それが平和と幸福の象徴を自称するモジャのサイクルである。
なお、他人にはただの毛が落ちてるようにしか見えないので綺麗好きは天敵とされている。
「そういえば、ここどこモジャ?」
「荒野を走ってたら見つけた建物の中なんだけど、モジャさんは何か分かる?」
「ちょっと待つモジャ。むむ、むむむむむ?」
モジャは魔方陣の上へ着地した。
その周囲をコロコロと転がって見せる。
遊んでいるようにしか見えないが、本人は真面目そうな感じに見える。
しばらくするとモジャは再び浮き上がった。
マーサの前まで飛んできて、目線と同じくらいの高さで揺れるように浮かんでいる。
「これは魔方陣モジャね」
「魔方陣って何するものなの?」
「魔法を発動する為の補助的な役割をするモジャ。これも、何か高度な魔法を起動する為に作られているようモジャ。だけど、一部が途切れてしまっているせいで、機能を失ってるみたいモジャねぇ」
「すごい、そんなの分かるんだね!」
「モジャは色々知ってるモジャ」
「それじゃあ直せたりする?」
「任せるモジャ!」
モジャは再び床へと着地した。
そして転がる事数分。
「出来たモジャ。途切れてた部分をモジャで繋いだモジャ!」
「モジャさんすごーい!」
「モジャはすごいモジャ! それじゃあ魔力を流してみるモジャ」
「魔力を流す?」
「魔方陣に手をついて、魔力を流すことをイメージしてみるモジャ。マーサならきっと出来るモジャ」
「よく分からないけど、とりあえずやってみるね! 魔力流れろ~――えっ!?」
マーサが床に手を付いて念じると、部屋が光に包まれた。
咄嗟に目を腕で覆うと、すぐに光は収まった。
「びっくりしたー……あれ?」
マーサが腕を下ろすと、部屋の様子が変わっていた。
石の壁に囲われていた筈が土のような質感になっている。
部屋の大きさも、先程より明らかに狭い。
「転送の魔方陣だったみたいモジャね~」
「転送の魔方陣……移動しちゃったっていう事?」
「それじゃあモジャは疲れたから寝るモジャ」
「え? モジャさん?」
モジャは満足したようにミヤの毛の中へと消えていった。
そこには呆然と佇むマーサと、三匹のペットだけが残された。
「……とりあえず部屋の外に行ってみよっか!」
「ヒヒン!」
「ピィ!」
「メェ!」
気を取り直して部屋の外を探索してみることにした。
部屋には一つだけ出入り口があった。
そこから出てみると通路が伸びていて、突き当りは左右に道が伸びていた。
左は奥に続いている。
右はすぐ向こうが外に繋がっているようで、光に満ちている。
「ここは洞窟なのかな。とりあえず外に出てみようか」
ペット達は元気よく返事をした。
外に出ることに賛成のようだ。
「え?」
「うん?」
「は?」
軽い足取りで外へ出ると、そこにはライフルのようなもので武装した兵士が二人、入口の両脇に立っていた。
思わず固まってしまったマーサとバッチリ目が合った。
戸惑いの声が三人から漏れる。
先に再起動したのは、二人の兵士であった。
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