33 いざ旅立ち!
暗黒四魔神が一柱、≪軍勢の魔神≫メルド。
クールな眼鏡系キャラである外見そのままに、いつもクールな男装の美女である。
そんなメルドが珍しく慌てた様子で執務室へと駆け込んだ。
「アルディ様!」
魔神王アルディの元に報告が届けられた。
魔神姫マーサがペットの馬に乗って飛び出していったという報告だ。
「何!? マーサが!?」
「どうしますか? アルディ様なら位置や情報は伝わって来るので心配はいらないとは思いますが、万が一を考えるとすぐに呼び戻した方がいいかと」
「ぐぬぅ……」
アルディとマーサは結婚している。
その時に交換した指輪はお互いを召喚する機能がついている為、アルディはいつでもマーサを呼び出すことが出来る。
しかし、それをしようと思えなかった。
「自らの意思で出て行ったのならば、呼び戻すのは酷というものである。きっとマーサは吾輩に愛想を尽かしてしまったのである……」
「そんなことはないと思いますが」
「いいや、でなければ出て行ったりしないのである! 吾輩が我儘を言って困らせてしまった上に、怒らせてしまったからに違いない……」
アルディはすっかり落ち込んでしまっていた。
「マーサが出て行ったのは全面的に吾輩が悪い。そんな吾輩が召喚という手段で強制的に呼び戻したところで、余計嫌われるだけだな……」
「そうでしょうか?」
「そうである。もしかしたら何か事情があってのことかもしれんが、それならば尚のこと召喚は出来ぬ。……一先ず、マーサの方から念話で連絡をくれるのを待つことにする」
「分かりました」
▽
その頃マーサは。
「もー! なんでアルディちゃん何も連絡してくれないの!」
怒っていた。
怒ったまま、死の荒野を爆走していた。
ペガが突然走り出してすぐはマーサも混乱していた。
しかし落ち着いてくると、ペガが自分の意思を汲み取って走り出してくれたことに気付いた。
そんなペガの気持ちを蔑ろにするのもどうかと思い、走るに任せた。
次に考えたのは、アルディのことだ。
自分が飛び出したことを知ればすぐに連絡をして来てくれる。
そこで事情を話せばすぐに呼び戻してくれる。
そう考えていた。
しかし、いくら走り続けても連絡は来ない。
魔神王城も遂に見えなくなってしまっていた。
「確かに私も酷いこと言っちゃったけど、心配してくれたっていいのに!」
勢いと怒りに任せて酷いことを言ってしまったのはマーサも自覚していた。
だからこそ自分からは連絡しづらかった。
乙女心は複雑なのである。
「……やっぱり、アルディちゃんに嫌われちゃったのかな」
段々と怒りが収まるにつれ、今度は不安が芽生えてきた。
手綱を握る手が少し震える。
俯いて自分の手をじっと見つめる。
「ヒヒン!」
「ペガちゃん」
かなりの速度で走りながら、励ますようにペガが鳴いた。
顔を上げると、景色が流れていくのが見える。
そこに、ミヤを鷲掴みにしたグリが並ぶように飛んでいた。
「ピィ!」
「メェ」
「グリちゃん、ミヤちゃんも……あははっ、何その格好!」
「ピィ!」
ミヤを鷲掴みにしてドヤ顔のグリ。
そしていつも通り気の抜けた顔のミヤ。
そんな二匹がすぐ横を飛んでいる。
シュールな光景に、マーサは思い切り笑ってしまった。
「あーもう、おかし……ありがとねみんな」
「ヒヒン!」
「ピィ!」
「メェ」
マーサの中にあった暗い気持ちもどこかへ行ってしまった。
三匹のペットに感謝しつつ、気持ちを切り替えることにした。
「……よし! 皆、せっかくだからこのまま行けるとこまで行っちゃおう! その内アルディちゃんから連絡してくれるよね!」
「ヒヒン!」
「ピィ!」
「メェ」
明るい気持ちで疾走を続ける。
それでもやっぱり、自分から連絡するのは躊躇するマーサであった。
▽
アルディは自室のベッドにうつ伏せになっていた。
妻の残り香のする枕に顔を埋めて号泣しているのである。
「何故だ、何故何も連絡してこないのであるかマーサ……!」
「アルディ様の方から連絡してはどうでしょう?」
「そんなこと出来ぬ! 既に城を飛び出して連絡してこない程に嫌われていると言うのに連絡などしてみろ! 今度こそ完璧に嫌われてしまうかもしれないのである! うわあああああああああああ、マアアアアアサアアアアアアアアアアアアアア……!!」
「大丈夫だと思うんですが……」
「うぐぐぐぐぐ、お前は乙女心というやつを分かっておらん!」
「お、乙女心ですか?」
「そうだ。乙女心は解除の呪文が数秒毎に変わりいつ爆発するかも分からぬ爆裂呪文のように思えと、暗黒古事記にもそう書いてある! 下手な手を打てば吾輩の心はコッパミジンコなのである……」
コッパミジンコとは、とても小さく弱いモンスターの名前である。
ほんの少しの衝撃を与えただけで破裂し砕け散る生態から、例えとしてよく用いられる。
また、状態異常などで仕留めた場合にのみ残るその身体は薬として高値で取引されている。
「アルディ様の心はオリハルコンゴーレムより頑丈だと思いますが」
「ともかく、しばらくは様子を見る。きっと、きっとマーサは吾輩の元に、元に……帰って来てくれるだろうか……マアァァァサアアアアアアアアァァァァオオオオオオオン……!!」
魔神王城はアルディの深い悲しみに包まれた。
お読みいただきありがとうございます!
少しでも興味を持っていただけたら、↓↓から評価&ブックマークをお願いします。感想等も是非お願いします!
作者のモチベーションが上がりますので是非!




