30 いざお正月!
本日四回目の更新です!
ドキドキな生放送のあった日の午前零時、現実の時間では新たな年を迎えた。
新年である。
ゲームの中での時間も等速である為、こちらでも新年を迎えていた。
「明けましておめでとうございます」
「あけましておめでとう。今年だけと言わず末永くよろしく頼むのである!」
「うん! 皆もよろしくね」
「ヒン!」
「ピ!」
「メ!」
「うむうむ、吾輩にもよろしく頼むのである」
「ヒン!」
「ピ!」
「メ!」
服装等はいつもと変わらない。
しかしお正月の概念はこのゲームの世界、そして魔界にも存在しているのだ。
魔神王城の中は至るところにしめ縄が飾られ、正門には巨大な門松型モンスターが二体鎮座していたりする。
「せっかくの元旦である。夜通し何かしようではないか! 今日は仕事もお休みである!」
「やったー!」
「マーサは何かしたいことはあるのか?」
「そうだなー……レベル上げしたいな。この子達も育てたいし」
「ふむ、狩りであるか」
マーサの腕の中には三匹のペット達。
両手に乗るサイズの仔馬、仔羊、大鷲のヒナである。
マーサのペットだが、転生して以降まだ狩りに行けていない。
その為小さいまま日々を過ごしていた。
(この姿はとっても可愛いんだけど、やっぱり立派に成長して欲しいよね)
赤ちゃんの姿はとても愛くるしい。
マーサもアルディもとても可愛がっている。
しかし元々、立派に成長するよう願って名前をつけている。
仔馬は立派なペガサスでペガ。
大鷲は立派なグリフォンでグリ。
仔羊は立派なカシミヤ山羊でミヤ。
その為にはレベルを上げなければいけない。
マーサの計算では、ここから進化すれば目的の種族へなれる筈だ。
「よし、それでは狩りに行くぞ! 吾輩もマーサと狩りに出掛けたことが無かったからな、じ、実は一緒に行きたかったのである!」
「本当? 嬉しいなー! アルディちゃんありがとう!」
「お、おお!?」
アルディの提案を聞いたマーサは、喜びのあまりアルディに突撃した。
ペット達を抱えているので肩からのタックルである。
アルディは上半身全体を使って受け止め、両腕で抱きしめた。
咄嗟のことだったので本人も照れと驚きが沸いて出た。
「ピ……!」
「あ、ごめんなさいグリ!」
「おっと、すまんのである!」
身体の一番弱いグリが苦しそうに鳴き声を挙げた。
二人は慌てて跳び退いたが、その顔は真っ赤だった。
▽
二人がやって来たのは、魔神王城の眼前に広がる高難度ダンジョン嘆きの森。
現在実装されている中でも最高レベルの敵しかいない上、本来ならばメインストーリーの後半で入れるようになる場所である。
そこには魔神王、魔神姫、暗黒四魔神、そして配下の精鋭三百人が総出であった。
精鋭達の大半は森に散り、残った六十名は周囲の警戒にあたる。
そしてマーサ達は。
魔神王特製のバーベキューコンロを囲んでいた。
「マーサ様、こちらのお肉焼けていますよ」
「ありがとうメルドさん」
「マーサ様、こっちのお肉もタンパク質豊富で筋肉にいいよ」
「ゴッスルさんもありがとう」
「うむうむ、やはり食事といえば肉であるな!」
「アルディ様、野菜も食べないとおっきくなれませんよ?」
「吾輩は野菜など食べなくとも魔界では収まりきらない程に成長したのである!」
黒光りのする金属で作られたコンロの中には、真っ赤に燃える炭がある。
その上に置かれているのは同じく黒い金属で出来た網。
そして肉。野菜。
炭から放出された熱が食材を料理へと変えていく。
「三人にもとっておきました。熱いので気を付けて食べてくださいね」
「ヒン!」
「ピ!」
「メ!」
メルドが、マーサのペット達用に取ったものを地面に置いた。
三匹は喜んでがっついている。
「マーサ様、こちらもいい頃合です。この肉には暗黒レモンの果汁がよく合いますよ」
「うん! ……あ、ほんとだ、美味しいよメルドさん!」
「どういたしまして」
「ああ、色々斬れて私は幸せ者だ。切り分けた肉はここでいいか?」
「そこで大丈夫ですよ。ありがとうございます、ミッシュ。貴女も少し食べてはどうですか?」
「うん? 獲物も丁度途切れたところだ、いただくとしよう」
今回はマーサたっての希望で暗黒四魔神は完全には警護に参加していない。
護衛を優先する方向で協議を重ねていたが、アルディの一声で一緒に楽しむこととなった。
勿論、有事の際には全員が護衛に参加する予定である。
薄くなった分は周囲の精鋭を増やすことで対応した。
(これって本当にレベル上げって言っていいのかなぁ? ただバーベキューしてるだけだけど……)
完全にバーベキューであった。
しかもマーサは純然たるゲスト扱い。
ただただ取って貰った肉や野菜に舌鼓を打ち、アルディや暗黒四魔神と楽しく話をする。
完全なバーベキューであった。
(でも、楽しいしいっか。今日はメルドさん達も参加してくれてるし)
マーサは気にするのを止めた。
楽しいのだからいいのである。
「もごもごもごもご!」
「ミッシュ! 口に目一杯詰め込んだまま喋ろうとするのは止めなさい!」
「……ごくん。それでは例のあいつが来たから私は迎え撃つとしよう。美味かった」
「ええ、お願いしますね」
ミッシュは頬張っていた肉を飲みこんでその場を離れた。
精鋭達が引き連れて来たモンスターを斬り、切り分けるのがミッシュの役目なのである。
マーサはミッシュの台詞が気になった。
「例のあいつ?」
「ああ、正月の三が日だけ現れる特殊なモンスターだ。人間界にも出るようだが、ここのは格段に進化した代物だ」
「ギシャアアアアアア!!」
現れたのは、巨大な白い塊。
まるでスライムのように蠢くそれは餅で出来ていた。
背中には若干の焦げ目がついており、それは火属性の力を持つことを示している。
「やつはモッチロン・インフェルノ。細かく刻んで食べるとうまいのである」
「へー、いいね!」
マーサ達はお餅バーベキューを楽しんだ。
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