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3 いざ輝石集め!

明けましておめでとうございます。

新作ともども、よろしくおねがいします!


「わあ! これがゲーム!? すごいすごい!」


 興奮するマーサの視界には、リアルな世界が広がっていた。

 更には光景だけでなく、頬を撫でる風も、足を支える大地も、はしゃぐマーサを見て笑う声すらも、今のマーサには素晴らしいものに思える程の圧倒的なクオリティ。


 正面には草原が広がり、そこでは見たことも無い生き物がそこかしこにいる。

 そしてそれを追いかけるようにプレイヤー達も駆け回っている。

 丁度近くにいる男に目をやれば、革の鎧や金属の剣も確認出来た。


 振り返ると、そこには大きな門があり、その左右には壁が伸びている。

 その門を通って草原へと出ていく人達は、満面の笑みを浮かべたマーサを様々な表情で眺めながら通り過ぎている。


(VRゲームってこんなに凄いんだ!? ほんとすっごい! こんなにすごいんならもっと早くにログインすれば良かった)


 一しきり感動したマーサは、後悔もそこそこに移動を開始した。

 メッセージを送った倉持から待ち合わせ場所に指定されたのは、西の門の内側。

 マーサがログインした地点も西の門だった為、門をくぐっただけで到着した。


 邪魔にならない場所で中世ヨーロッパのような町並みを眺めながら待つこと数分、マーサに近づく者がいた。


「お待たせ。思ったより早かったね、やれば出来るじゃん」


「えっと、もしかして、くらも――」


「待った。ゲーム内で本名は呼ばないこと。これ最低限のマナーだから、気を付けてよね」


「あ、うん、ごめん!」


 倉持はマーサの言葉を遮ってから、不機嫌そうに教えてくれた。

 その見た目はマーサの知る倉持とは随分違う。

 身長は百六十センチはあり、顔も数段美人になっている。


 極めつけは髪で、前髪がすっきりしているだけじゃなく、ルビーの様な赤が陽の光を反射してキラキラと輝いて見える程。

 現実の倉持は黒髪であった為、マーサはあまりの違いに思わず名前を出して確認しそうになったのだ。

 

「てなわけで、私のことはメリア、って呼んで。私もあんたのことはマーサって呼ぶから」


「うん分かった! よろしくねメリアちゃん!」


「はいはい、よろしくマーサ」


(相変わらず可愛い顔してるなぁ、こいつ。私なんて納得いくまで変えたら原型なんて残ってないのに)


 最新のVRゲームは、メリアの心底うんざりしたような表情すら精巧に表現して見せている。

 しかし、マーサの純真な瞳には映っていなかった。


「それで、ちゃんとクラスは≪プリンセス≫で、私の言う通りのステとスキル構成にした?」


「ステ、スキル構成……うん、もらったデータをそのままAIさんに渡したから大丈夫!」


「そっ、ならおっけー。先行プレイ期間のこの三日間、まずはみっちりしないといけないことがあるんだよね」


「へー、そうなんだ。何するの? あっ、レベル上げ!? それとも、お金稼ぎとか!?」


「ふふん」


 マーサの質問に対し、メリアは勿体ぶった表情を浮かべる。

 そして、間。

 

「教えてメリアちゃん!」


「そこまで言うなら、教えてあげよう。それは、輝石集めだよ」


「輝石集め? 何するの?」


「輝石を、集めるの。いい? この先行プレイ期間はβテスターへの特典の一つ。だけど、制限なしに自由に出来る訳じゃない」


「そうなの?」


「そうなの。この期間中はレベルが十までしか上げられない仕様だからね」


「十って、高い?」


「テストの時だと頑張れば半日くらいで上がっちゃう程度だったね。だから十レベルなんて大した差を付けられないってこと」


「なるほど」


「ま、あんまり差がついちゃうと新規プレイヤーが萎えるだろうから、理解は出来るんだけどね。それで、その代わりに実装されたのが輝石ってわけ」


「集めるといいことがあるの?」


「ズバリ、その通り。輝石を一定数集めると、ガチャが引けるんだってさ。そのガチャで有利なアイテムをゲットすれば、更なるスタートダッシュが出来るって訳。わかった?」


「うん、分かった、ありがとう!」


「そんな訳だから、まずはこれから三日間みっちり輝石を集めるよ。ゲームの仕様とかマナーとか説明出来そうなとこはするけど、詳しくは先行期間が終わってからゆっくり教えてあげるから」


「そっか、分かった! 私頑張るね!」





 早速二人はフィールドへと向かった。

 輝石は鉱石の一種であり、山岳エリアの崖や鉱山エリアに点在する採集ポイントにピッケルを叩きつけることで手に入る事がある。


「えいっ!」

 

 マーサが古ぼけたピッケルの先端を、鉱石のような物が露出している壁面に突き刺した。

 ガツン。コロコロ。


「そうそう、そんな感じ。残念、ハズレだね」


 転がり落ちたただの石をメリアが拾い上げ、残念そうに言った後仕舞い込んだ。

 この場所はスターレの街からさほど離れていない、初心者向けの山岳エリアである。

 弱いモンスターしかいない上に、とりあえずレベルを上げる勢が狩りまくっている為に危険はない。

 戦闘能力が皆無のマーサでも呑気に歩けるレベルだ。


「よーし、もっと頑張るね!」


「うんうん、その調子で頑張ってね。慣れてきたら別行動しようと思うから、分からないことがあったら今の内に聞いといて」


「え、別行動なの?」


「そりゃねー。別々の場所で掘った方が効率いいし。大丈夫大丈夫、道具は用意しといたから」


「うーん……」


(それじゃあ先行プレイが終わるまではメリアちゃんと一緒に遊べないのかぁ。でも、効率よく輝石を集める為だもんね、我慢しなきゃ)


 マーサは少し考え込んだが、すぐに吹っ切れた。

 

「ありがと! たっくさん集めるね!」


「二人でスタートダッシュする為だから、その意気でね。私も負けないくらい集めるし」


 しばらく様子を見た後、メリアは輝石を求めて他のポイントへと向かった。

 マーサはとても楽しそうに、一心不乱にピッケルを振り続けた。



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