29 いざ生中継!+運営の呟き
本日三回目の更新です!
魔神王城のとある部屋。
そこは調度品のほとんどない殺風景な部屋だった。
家具は椅子が何脚かある程度。
片側には謎の道具が乱雑に安置されている。
ここは魔神王城の撮影スタジオ。
魔界や人間界に魔神王の勇壮なる姿を見せつける為に設置された部屋である。
そこに魔神王であるアルディとその妻、マーサの姿があった。
アルディはばっちりおめかし完了。
いつも可愛いが、今は更に可愛くなって準備万端の状態だ。
「……アルディちゃん、ほんとに私も映るの?」
「うむ。何だ、不安であるか?」
マーサは椅子に座らされ、身だしなみを整えられていた。
メルドの持つ櫛が長い髪の毛を通る。
その度に、深紫の流れは輝きを増していく。
「人に見られるのって得意じゃなくって……って、それもあるけど、これって魔神王のお仕事なんでしょ? 私が映っても大丈夫なのかなって」
「そこは問題ない。吾輩とマーサの結婚は既に創造主へ報告済みである。きちんと祝福してくれたぞ」
「創造主?」
「うむ。この魔界と我々魔神を産み出した者だ。時折創造主から来る指令に従うのが、魔神王としての大きな責務なのである」
「そうだったんだ」
(創造主ってもしかして、このゲームを造った人達のことかな?)
マーサの考える通り、創造主とはこのゲームの作成者である、管理AIのイレブンのことだ。
イレブンはNPCを用意し基本的にはそのNPCの性格や行動様式に任せている。
そして重要なことだけは指示を出すという方式で、このゲームを管理していた。
アルディとマーサの結婚はイレブンにとっても想定外のことだったが、彼女は大雑把である。
なんとかなるだろうとそのまま祝福。
むしろ可愛いキャラが画面に増えれば受けるだろうからと、告知動画に出演させるよう指示を出したのだった。
「それに、マーサの出演は創造主からの指示でもあるのだ。つまりこれは魔神姫としての初仕事。大丈夫、マーサは可愛いのである!」
「が、頑張る……」
マーサは諦めたように覚悟を決めた。
メルドによる入念なスタイリングが行われ、ついに準備が完了した。
「ではお二人の準備が出来ましたのでに入りたいと思います」
「うむ」
「う、うん!」
「それでは最初の立ち位置ですが、アルディ様はここへ。マーサ様は一歩下がったこちらへお願いします。カメラはここで、照明、配置についてください」
メルドはテキパキと指示を出していく。
撮影スタッフはメルドの能力で生み出された僕達。
幾度となく撮影を行ってきた専門のスタッフである。
「それではリハーサルを始めます!」
リハーサルはすんなりと終了した。
アルディが宣戦布告を行い、マーサは側に控えているだけ。
特に問題は見られなかった。
(最初はどうなるかと思ったけど、良かったー。本番は生放送だけど、これなら大丈夫そう)
マーサはホッと一息ついた。
告知動画はアルディが創造主からもらった台本を自分なりの言葉で読み上げるだけだ。
マーサに台詞は無く、これならば安心だとマーサは喜んでいた。
しかし、物足りないと思っている者がいた。
アルディだ。
(ううむ、マーサにも喋らせたい)
アルディは、こっそりと念話を使用した。
相手は創造主である。
『創造主、一つ聞きたいのであるが』
『んー? なにー?』
『これから行う生放送、魔神姫であるマーサに挨拶させても良いであるか?』
『んー、いいよー』
イレブンは大雑把だった。
特に問題ないだろうと深く考えず、即座に許可を出した。
『流石吾輩達の創造主、話が分かるな! ついでに吾輩達の結婚を大々的に報告して見せつけてやっても良いであるか?』
『いいよー』
『うむ、回答感謝するぞ!』
『生放送頑張ってねー。それじゃーまたー』
(うむ、許可ももらえたしこれでマーサの可愛さを見せつけてやれるのである!)
喜んだアルディであったが、ふと悪戯心が湧いてきた。
(マーサには何も言わずに本番に突入した方が面白そうだ。慌てる可愛いマーサを見たいし、そうするのである)
アルディは本番での突然の振りを仕掛けることにした。
この計画はメルドへと提案し、実行されることとなる。
▽
とある電脳空間。
ここは、超高性能AIイレブンが拠点としている場所だ。
基本プログラムを元にVRゲームを開発したイレブンは、加速されたこの空間で日夜運営業務に励んでいる。
それは部下の作業用AIの報告から始まった。
「魔神王が魅了されました」
「マジで」
一般プレイヤーにより、魔神王が魅了された。
魅了とは状態異常ではなく、相手の自分への好感度をMAXに書き換えると言う仕様だ。
状態異常とは違う為、防ぐことは出来ない。
特に魔神王はそのキャラ設定上恋愛というものへの耐性が全く無い為、喜んで奴隷にでも成り下がる程の威力を発揮した。
これは本来想定していない事象がいくつも重なった偶然の産物。
云わば奇跡とも呼べる出来事だ。
このままでは何が起きるかも分からない。
ゲームの根幹が崩壊するかもしれない。
そんな状況の中イレブンが下した決断は。
「ま、いっか。様子見で」
放置だった。
ものぐさで大雑把なイレブンは、運営の大半を思考するNPC達に丸投げしている。
今回も特に何もしないことに決めたのであった。
「監視対象がプロポーズを実施。魔神王と結婚しました」
「んー、とりあえず様子見。報告あったら祝電送っといて」
「魔神王がこの時点で存在しないレアリティの装備をいくつも作り出してマーサへ贈りました」
「んー、様子見」
「監視対象がレベル上限に達し、隠し上級クラスへ転職しました」
「んー、様子見しよう」
「監視対象がペットをこの時点で想定していない種族へ転生させました」
「んー、様子見で」
イレブンは超が付く程の大雑把であった。
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