26 いざおさらい!
新章前のおさらい回です!
本日二回目の更新です!
暗黒渦巻く魔界。
太陽の光は無く、空は赤黒く発光する雲に覆われている。
それ故に常に薄暗い。
大気は瘴気で犯され、耐性の無い者が立ち入れば瞬く間に死に至る。
例え瘴気に耐えることが出来たとしても、そこは魔神王が支配する世界。
生半可な強さでは屈強な魔獣の餌になるだけである。
そんな殺伐とした世界の中央に城がある。
魔神王アルディエル・ゴールドライトが住む魔神王城だ。
そこでは今正に、血で血を洗う狂乱の宴が開催されていた。
「もう、もう止めてくれ……!」
「容赦はしませんよ。諦めて楽になってください」
「嫌だ、吾輩絶対に諦めないのである!」
「どうしてそんなに拒むんですか?」
「拒むに決まっておる! なんだその野菜盛りは! えぐい色の野菜が紫色の液体で彩られて大層えぐいことになっておるではないか!」
露出度の高い褐色の少女がテーブルを叩いた。
とても立派なテーブルは十メートル程の長さがある。
輝く程に真っ黒なシーツをかけられ、その上には料理が並んでいる。
「栄養満点な暗黒ウツボカズラは本来悪魔のように苦い血のせいで食べられたものではありませんが、暗黒マンドラゴラの血と和える事でなんやかんやあってまろやかな苦みと渋みを味わえる高級食材ですよ。野菜は嫌だ、血の味が恋しいと言うから特別に用意しました」
「ただの野菜の野菜汁和えではないか!」
再び少女がテーブルを叩く。
皿が一瞬宙に浮く程の衝撃だ。
跳ねた皿の上にはテカテカとした青色の何かが、紫色のヌメヌメしたものを纏って灯りを反射する。
衝撃を受けた後の更でも微かに蠢いており、新鮮さを激しく主張していた。
少女は十三歳くらいの見た目をしている。
腰まで伸びた白髪を真っ直ぐ流し、頭には紫色をした一対の角が冠のように生えている。
肌は褐色で、金の瞳と白い歯をよく引き立てる。
服装はタンクトップのような薄手で僅かに膨らみのある胸のラインがよく分かる黒い布と、黒のショートパンツ。
その上に深紫のマントを羽織り、お腹を全開にしつつマントで隠されるという奇跡のバランスを演出している。
首に巻かれたマントで口元がほぼ埋まっているのもまた幼さを強調している。
本人はかっこよく大人っぽいと思っているのがポイントである。
説明する上で避けては通れないのが足元で、紫のニーハイソックスに黒のロングブーツを履いている。
ショートパンツとソックスの間はまさしく絶対の極地。
その空間においては何人たりとも抗う事は敵わない。
この少女こそが、魔神の頂点である魔神王アルディエル・ゴールドライトである。
「暗黒ウツボカズラも暗黒マンドラゴラもれっきとしたモンスターなので、血ですよアルディ様」
しれっと言ってのけるのは、魔神王アルディエルに仕える魔族の中でも最高幹部≪暗黒四魔神≫に数えられるメルドだ。
メルドはクールな顔立ち、眼鏡、そして執事服という男装の美女である。
それなりでしかない丁寧な態度で日々アルディのお世話を預かっている。
そしてもう一人、少女がその場に存在していた。
年齢は十六歳。
まだあどけなさが残っており、歳の割には幼い顔立ちをしている。
黒を基調としたブラウス。深紫のスカートをレース柄のチュールが優しく覆う。
随所に金の糸の刺繍や金の紐があしらわれ、可愛さと気品を奇跡的なバランスで両立させている。
真横に切り揃えた前髪と長く伸びた深紫の髪はまるでお姫様の様であった。
髪の色はかつて真っ黒であったが、≪魔神姫≫の称号を得た時に変化した。
何本か混ざる金のメッシュはまるで、アルディとの絆を表しているようだ。
「アルディちゃん、好き嫌いは駄目だよ。ほら、この子達だって喜んで食べてるよ!」
少女はすぐテーブルの上の、すぐ近くを手で示した。
そこには二匹の動物達が一心不乱にサラダを食べていた。
もう一匹は肉食である為、細かく刻まれた肉片を啄んでいる。
「あ、いや、そういうわけではないが、これはちょっと見た目がえぐ過ぎるのである……」
「確かにちょっと気持ち悪いけど、食べてみたら意外と美味しいよ? ねっとりしててネバネバしてるけど」
「……ちょっと気合いを溜める時間をもらうのである」
「頑張れアルディちゃん!」
「――マーサよ、吾輩の雄姿をその眼に焼き付けるのである!」
「うん!」
彼女の名前はマーサ。
魔神王アルディエルの妻であり、≪魔神姫≫の称号を持つ初心者プレイヤーだ。
この世界はゲームの世界。
偶然がいくつも重なり合って、二人は出会い、そして結婚した。
きっかけは意図しないスキルによるものだったが、二人は間違いなく、本心から想い合っていた。
「うぐっ、ごごごごごごごごご」
「あ、アルディちゃん? 顔色が暗黒マンドラゴラの血みたいになってるよ!? そんなに不味いなら吐き出していいよ!?」
「な、なんのこれしき……うぐっ!」
「め、メルチさーん!」
「……何かごようですか、マーサ様」
「アルディちゃんの顔色が物凄いやばいの!」
「承知致しました。治療を開始します」
突然どこからともなく現れたのは、暗黒四魔神の一柱、メルチ。
全身に包帯を巻き、黒く薄汚れたローブに身を包む。
露出しているのは赤く血走った片目だけ。
恥ずかしがり屋な妹キャラである。
おもむろにアルディの背後に回ると、抱きしめるように両手をアルディの腹部で組んだ。
そして瞬間的に力を込める。
「うぶっ!?」
その衝撃は腹部を背中まで貫いた。
無理矢理飲みこもうとしていた野菜片が衝撃で吐き出された。
メルドが手を離すと、アルディも力なく崩れ落ちた。
「アルディちゃん! 死なないで!」
「ふ、ふふ、吾輩……頑張ったのであ、る……がくり」
「アルディちゃああああん!!」
この物語は、ゲーム初心者であるマーサがチヤホヤされながら、ラスボスである魔神王アルディと幸せな日常を送るお話である。
お読みいただきありがとうございます!
少しでも興味を持っていただけたら、↓↓から評価&ブックマークをお願いします。感想等も是非お願いします!
作者のモチベーションが上がりますので是非!




