25 いざ起床!
真朝は不思議な感覚の中にいた。
記憶は曖昧で、感覚も曖昧で。
右も左も上も下も、目に見える景色も何もかもがよく分からない。
流れているようでもあり漂っているようでもあり、止まっているようでもあった。
(なんだろう、ぼーっとする。私は誰だったっけ……)
何もかもがよく分からない。
自分自身の事ですら考える事が出来ない。
自分が何をして、何故ここにいるのかも分からない。
(私は……そうだ、ゲームをしていて、それから……)
真朝の脳裏に昨日の記憶が浮かんでくる。
転職をしたこと、レベル上げをしたこと、ペット達の転生を見守ったこと、魔神王城を探険した事、そして、アルディと過ごしたこと。
(そうだ、アルディちゃん! 私は、魔神王のアルディちゃんと結婚したんだ!)
マーサは思い出した。
しかし、今の状況については何も知らない。
(ええっとううんっと……そうだ。昨日アルディちゃんと晩御飯を食べてたら意識が遠くなって、それから……それから先の記憶が無い? なんだろう、私死んじゃった!?)
段々と意識がはっきりしてきたマーサは次第に混乱してきた。
昨夜の途中からの記憶が無いのだ。
先程までの意識混濁状態とは違う。
確実にその時点で記憶が途切れたと断言出来るのだから。
(せっかくこんなに楽しい世界に来れたのに! 倉持さんとは喧嘩しちゃったけど、アルディちゃんと出会えて、すっごく幸せなのに……! まだ――)
「――まだ死にたくない!」
先程まで動くことの無かった口から、マーサ自身驚く程の大きな声が出た。
手足の感覚もはっきりとある。
「――! ――サ!」
そして、何かの音も聞こえ始めた。
それは誰かの声だ。
気付いた時、マーサの視界は眩しい光に包まれた。
▽
目を覚ましたマーサの視界には、泣きそうなアルディの顔があった。
「マーサ!」
「……アルディちゃん?」
「マーサ! おおマーサ! 良かったのである……良かったのである! おおおおぉぉぉぉん……!!」
名前を不思議そうに呟いた。
アルディの涙腺は完全に崩壊。
身体を起こしたマーサの腹に、号泣しながら抱き着いた。
マーサは、二人の部屋のベッドに寝ていた。
辺りを見回してみると足元には三匹のペット達。
ベッドの傍らには涙ぐんでいるメルドと、回復魔法をマーサにかけ続けているメルチがいた。
マーサはまだ状況が掴めていなかった。
「アルディちゃん? どうしたの?」
「どうしたの、じゃない! マーサはもう三日も眠っておったのだ!」
「三日も!? だって昨日はレベル上げをして、皆の転生をして、それから探険もして――」
「それから三日なのである!」
マーサはお腹に顔を埋めて怒鳴るアルディの頭を撫でる。
自分の行動を思い返してみるが、三日もの時間を過ごした記憶がない
何か夢を見ていた気もするがそれは思い出せない。
(ログアウトした記憶も無いのはなんでだろう。寝ちゃったのかな?)
「最初はただ寝ておるだけだと思っていた。だが、丸一日経っても起きない。全身撫でまわしても髪の毛の匂いを嗅いでも起きなかった。そこでようやくおかしいと気付いたのである」
「えっ!? アルディちゃん、私の匂い嗅いだの!?」
「え、あ、いやちが、――そう! い、意識の確認! 意識の確認の為にやったのである! 本当だぞ!」
「むー……それなら仕方ないけど」
「ほっ」
「私変な匂いしてないよね?」
「変な匂いなど、全くしていないのである。それどころか、魔界のどの香よりも良い香りで――」
「アルディちゃん!?」
「げっほごっほん! 一旦話を戻すぞ!」
「うー……」
口を滑らせかけたアルディは強引に話題を戻す。
一応真面目な話である為、不本意ながらマーサも見逃すことにした。
(後で絶対アルディちゃんの全身の匂いを嗅がせてもらうからね……!)
「どうすべきか皆で話し合い、色々な対策を実行してみた。しかしどれも上手くいかなかったのである」
「それでどうなったの? まさかそのまま目を覚まさなかったんじゃ……!」
「馬鹿者、今こうして起きているではないか!」
「あ、ホントだね、ごめんごめん」
えへへ、とマーサは照れ笑いを浮かべた。
腹部にぐりぐりと押し付けられるアルディの頭を撫でまわす。
「全く……。そこでマーサを救ったのが、メルチである!」
「メルチさんが?」
マーサが視線を向けると、メルチは頭を下げた。
未だに回復魔法をかけ続けている。
「マーサが危険な状態だと言い、マーサの元へ向かってみると酷く苦しんでいた。手を握っていることしか出来ぬ吾輩を後目に、メルチは回復魔法の秘奥をマーサへと施したのである」
「ごくり」
「見る見る内にマーサは状態が回復し、目を覚ましたのである!」
「やったー! メルチさんすごいね!」
「うむ、流石は吾輩の誇る暗黒四魔神が一柱である!」
「……お役に立てたのならば光栄です」
マーサとアルディがメルチをべた褒めする。
メルチが静かに頭を下げても二人の勢いは止まらない。
表情が全く分からないメルチであるが、実はとても照れていた。
本人もマーサの、そしてアルディの助けとなれたことがとても嬉しいのである。
(それにしても、なんだったんだろう。体調が悪くなってたのかな。もしそうなら、ゲームの中の回復魔法も効くってことだよね。すごいなぁ)
ここはゲームの世界である。
いくら回復魔法をかけようが、現実の世界に一切影響など有る筈がない。
マーサは素直にメルチの魔法を称賛していた。
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