24 いざ遭遇!
魔神王城を探険していたマーサは、いつの間にか地下にまで到達していた。
周囲に人の気配は無い。
「ほんとに探険らしくなってきたね、グリ、ペガ、ミヤ……は寝ちゃってる」
「ピ!」
「ヒン!」
「zzz」
ペット達に話しかけたが、ミヤはぐっすりと眠っている。
マーサは今の状況を楽しんでいた。
せっかく探険しているのに行く先々で人と遭遇し声を掛けられるのは、近所の散歩と変わらないのだ。
それに、マーサには結婚式の際に交わした指輪がある。
それもマーサが心に余裕を持っていられる理由の一つであった。
「奥には何があるのかな。何か面白い物があったらいいな」
マーサが歩くのは薄暗い廊下。
造り自体は他の廊下と同じく立派なものであるが、地下ならばということで敢えて照明を減らした、こだわりの場所である。
「あれ、何か聞こえる?」
ふと、マーサは何かに気が付いた。
音のような、声のような、何かが聞こえてくるのだ。
「行ってみよう!」
マーサは勿論引き返さない。
それどころか、床を踏みしめる足には先程までよりも力がこもっている。
ここはゲームの世界。
プレイヤーは死んでなんぼだと教わっているマーサは、恐れることなく突き進んで行く。
「行き止まり? ……あ、扉があるね」
「ピ?」
マーサが突き進んだ廊下の奥には、扉があった。
それに気付いて思わずつぶやくと、グリが不思議そうに鳴いた。
首を傾げつつの可愛い動作だ。
「モジャー……モジャー……」
「この扉の向こうから聞こえる?」
「モジャ? 誰かそこにいるモジャ?」
「え? 誰かそこにいるの?」
「いる、いるモジャ! ここモジャ!」
「どこ?」
マーサは辺りをキョロキョロと見回す。
しかし、誰かがいるようには見えない。
声もやはり扉の方から聞こえてくる。
「ここ、ここモジャ!」
「んんー……?」
「ここモジャー!」
「あ、いた!」
マーサがじっと扉の方を見て数秒。
動くものに気付いた。
扉は高さが三メートルくらいはある、両開きの物だ。
丁度左右の扉が合わさる真ん中、高さ二メートルくらいの場所から黒いものがはみ出ている。
それは癖のついた細かい糸状のものを丸めたような、とてもモジャモジャした物体だった。
「やっと気付いてくれたモジャ!」
「そんなところで何してるの?」
「魔神王様がこの扉を閉めた時に気付かずに、モジャのモジャモジャが挟まったモジャ。ナチュラルはみ出しモジャですモジャ」
「ナチュラルはみ出しモジャ? よく分からないけど、私に何か用事?」
「扉を開けて欲しいモジャ!」
「私に出来るかなぁ?」
「きっと出来るモジャ!」
「分かった、やってみるね! ちょっとここで待っててね」
「ヒン!」
「ピ!」
「メ」
マーサは抱きかかえていた三匹を床にそっと下ろした。
ペット達はマーサを応援するように短く鳴いた。
「えーっと……あ」
ドアノブを握ってみると、扉はあっさりと向こう側に開いた。
はみ出ていたモジャモジャも向こう側に消えた。
「助かったモジャ! ありがとうモジャ!」
「ど、どういたしまして……?」
モジャモジャはすぐにマーサの前に現れた。
宙に浮いている。
それははみ出ていたモジャモジャをそのまま増やしてバスケットボールくらいの大きさにまとめ、二つの目のようなものを付けたような、不思議な物体であった。
「改めて名乗るモジャ。モジャはモジャですモジャ。助けてくれてありがとうモジャ」
「私はマーサ。アルディちゃんのお嫁さんだよ!」
「魔神王様のお嫁さんモジャ! めでたいモジャ! すごいモジャ!」
モジャと名乗った毛の塊はふわふわと飛び上がった。
そのまま空中を緩やかに飛び回りながらはしゃいでいる。
とりあえず一仕事終えたと判断したマーサは、三匹のペット達を再び抱きかかえた。
動物特有のぬくもりがマーサの胸を温める。
「よいしょ。モジャさんは魔族なの?」
「モジャはモジャであって、魔族ではないモジャ。このお城には勝手に住み着いてるモジャ」
「え、それって大丈夫なの? 掃除されたりしない?」
「魔神王様は許してくれたから大丈夫モジャ」
「そうなんだ。良かったね!」
「良かったモジャ。だけどしばらく会ってないから元気か心配してたモジャ。マーサと結婚したってことは今も元気モジャ?」
「うん、すっごく元気だよ! 今はちょっと忙しくて死にそうになってるけど」
「元気そうで良かったモジャ。また今度挨拶に行くと伝えておいて欲しいモジャ」
「うん、分かった」
「それじゃあ、助けてくれてありがとうモジャ。お礼に昔どこかで拾ったこれをあげるモジャ」
カツン。
甲高い音を立てて何かが転がった。
マーサはそれを拾い上げてみる。
小さな石だ。
緑色をしているが半透明で、中で赤色の何かが揺らめいているように見える不思議な石だった。
「ありが――あれ?」
お礼を言おうと顔を上げると、モジャの姿はなかった。
石を拾っている間にどこかへ去ったようだ。
「変わった人(?)だったねー」
「ヒン!」
「ピ!」
「zzz」
マーサの問いかけに同意するように、ペガとグリが鳴いた。
ミヤは既に眠っていた。
「……一応覗いてみようかな」
扉の向こうは薄汚れたただの物置だった。
しかし、マーサは満足していた。
十分探険出来たと感じていたし、楽しかったからだ。
「そろそろお部屋に戻ろっか」
「ヒン!」
「ピ!」
「zzz」
▽
探険を終えたマーサは食堂へとやって来ていた。
部屋に戻ったところでメルドに昼食の時間だと言われたからだ。
ここはゲームの世界。
飲み食いしても味を感じるだけで、満腹感は得られない仕様になっている。
ゲームの世界にのめり込んで餓死する者が出ないようにという配慮だ。
マーサはそんな食事の時間が楽しみだった。
アルディと一緒に過ごす時間は、今までのどんな思い出よりも幸せだと断言出来た。
「それでね、廊下の奥でモジャさんっていう不思議な人(?)に出会ったんだ。アルディちゃん、知り合いなんだよね?」
「おお、あやつか。それはまた、珍しいのに出会ったな。あんなところで何をしていたんだ?」
「うーんと、ドアに挟まってた。ナチュラルはみ出しモジャだって」
「そうか、相変わらず訳の分からん奴であるな」
「いつもあんな感じなの?」
「うむ。まぁ悪い奴ではないぞ。それに、運が良かったな」
「良かったの?」
「あやつは気まぐれな精霊の類でな、滅多に会うことは出来んが、気に入られると良い事がある」
「そうなんだー。あ、そういえば……」
モジャの正体をアルディから聞いたマーサは、とあることを思い出した。
ストレージ画面を操作して一つのアイテムを取り出す。
「こんなのもらったんだけど、分かる?」
「……ふむ。これはスキル水晶だな」
「スキル水晶?」
「スキルが封じ込められた石で、使うとスキルが習得できる。何が込められているかは使ってみないと分からん。見た感じ悪いものではなさそうだ。流石マーサ、あの気分屋にも好かれたようであるな!」
「へー、なんだか凄そうだね」
マーサは石を光に翳した。
透き通った緑の中で薄い赤が揺らめいた。
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