23 いざ探検!
三匹の転生を終えた後、マーサは再び執務室を訪れていた。
腕の中には三匹のペット達。
レベルが1に戻り、召喚してすぐと同じように赤ちゃん状態である。
変わったことと言えば、それぞれ種族が若干変化した。
ペガは種族が馬から暗黒仔馬に変化。
全身が黒に近い紫で、額の一部だけが紺色。まだ短く生える鬣は黒い。
グリは鷹から大鷲(雛)へ。
まだ雛なので全身灰色な上に毛玉のようにモコモコだ。
ミヤは山羊から暗黒仔山羊へと変化した。
こちらも体毛が濃い紫色にそまり、既に毛玉状態だ。
メルドが開けてくれた入口から中へ。
アルディは相変わらず書類の山を相手に奮闘していた。
「アルディちゃん見て見て!」
「おお、マーサ! ……そやつら、雰囲気が変わったか?」
「うん。転生したんだよ!」
「ほう、転生であるか」
端的に説明するマーサは満面の笑みを浮かべている。
よく意味が分からないが、マーサが笑顔でいるのは素晴らしい事だとアルディは思った。
内容はあまりきちんと伝わっていない。
アルディはずっと執務室で仕事をしていて、三匹のペットがレベルをカンストさせたことすらも知らないのだから当然である。
見かねたメルドがアルディの背後に立ち、こっそりと耳打ちをした。
「アルディ様。ペガ、グリフ、ミヤの三名はそれは先程の狩りで立派に成長しました。そして成長の壁を越える為、転生の儀を執り行ったのです」
「おお、転生の儀を。素材はあったのか?」
「はい。アルディ様が誇る精鋭部隊からメルチが徴収してきたそうです」
「なるほど。それであの変わりようか」
「はい。更なる成長が期待出来ると思います」
「楽しみであるな」
「はい」
(くくく、ようやくメルチの行動に納得がいったぞ。突然髪の毛を数本引き抜いていくから何事かと思ったが……メルチの奴め、吾輩の素材を繋ぎにしおったな)
メルチはアルディや四魔神からも素材を採取していた。
本来ならば≪魂の昇華材≫には同種のモンスターの素材しか使用出来ない。
しかし、メルチは魂の扱いにかけては魔神王すらも上回る。
持ち前の技術で、強大な力を持つ魔神王達の素材を融合することに成功していた。
「マーサよ、そやつらには吾輩の素材も与えられたようだ」
「え、アルディちゃんの!?」
「うむ。大事に育てればきっとマーサを守ってくれるであろう」
「そっかー、アルディちゃんの素材も入ってるんだー」
(それってもう、実質アルディちゃんと私の子供なんじゃ……!?)
「ペガ、グリフ、ミヤ、大事にするからね!」
「ヒン!」
「ピ!」
「メ」
「うむうむ、マーサは今日も元気だな」
マーサが決意を新たにし、三匹を抱きしめる。
三匹は嬉しそうに返事をした。
マーサは尚も抱きしめる。
アルディはその様子を眺めて幸福を噛み締めていた。
しかし、いつまでもそうしているわけにもいかない。
アルディは一旦心を落ち着かせてから口を開いた。
「さて、マーサはこれからどうする? もうそやつらのレベル上げがしたいというならばメルド達を連れて行くがいいぞ」
「あ、とりあえずは大丈夫、ありがとうアルディちゃん!」
「そうであるか」
「そうですか……」
アルディは素直に頷いた。
その隣でメルドは残念そうに呟いた。
マーサを甘やかしながら精鋭達の指揮を執るのは、メルドにとって幸せな時間なのだ。
マーサが望めばすぐにでも出発の準備を整えるつもりであった。
「それで、ちょっとこのお城を探検して来てもいいかな?」
「うむ、構わんぞ。では案内としてメルドを連れて行くがいいのである」
「お任せくださいマーサ様」
「実は……私とこの子達だけで行きたいんだけど、ダメ?」
マーサは広いこのお城を見て回りたかった。
アルディと一緒がいいが、今はそれは難しい。
ならばガイドをつけての観光案内ではなく、好きにさ迷い歩きたかった。
メルドが一緒にいたのでは思っていたのとは違ってしまう。
だからマーサは、思い切って希望をそのまま伝えてみた。
「マーサがそうしたいのであれば吾輩は構わないのである」
「やったー! ありがとうアルディちゃん!」
「何かあったらその指輪に念じるのだぞ」
「うん! それじゃあ行って来るね!」
「転ばないように気を付けるのだぞ!」
マーサは嬉しそうに早足で部屋を出て行った。
その場にはアルディと、観光ツアーのガイドが出来なくて内心落ち込んでいるメルドだけが残された。
▽
マーサは好きに城内を見て回った。
外は暗いが、通路には充分な灯りが設置されている為に危険はない。
「これはマーサ様、お散歩ですか?」
「うん!」
「魔神姫様、ご機嫌はいかがでしょうか?」
「お陰でとっても楽しいよ!」
「マーサ様、この先は傾斜になっているので足元にお気を付け下さい」
「ありがとう!」
「マーサ様、両手が塞がっているようですが、共をお連れ致しましょうか?」
「ううん、抱っこしていたいから大丈夫」
「マーサ様、暗黒馬の仔は暗黒魔人参を好んで食べるそうです」
「そうなんだ、ありがとう!」
道行く魔族はマーサを見かけると声を掛けてくれる。
魔神王の伴侶だから嫌々などではなく、誰もが明らかな好意を持って接してくれる。
現実とはまったく違う光景に、マーサの足取りも軽くなる。
気付けば、マーサは人通りのない、薄暗い場所へとやって来ていた。
そこは魔神王城の地下だった。
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