16 いざ宣言!
本日三回目の更新です!
メリアはマーサを泥棒呼ばわりし、混乱するばかりで反論出来ないマーサを周囲は泥棒だと決めつけた。
様子を見ているプレイヤーもいるが、すなわち放置である。
マーサの味方はいなかった。
プレイヤー達の中には。
「そこまでです!」
「な、NPC……?」
「え、メルドさん……?」
悔しくて悲しくて、ゲームの中なのに泣きそうになっていたマーサの側に現れたのはメルドだった。
マーサの位置からは見えないが、まるで氷のように冷たい表情をしている。
そしてメルチもまた、マーサの傍らに立っている。
「メルチさんまで、どうしてここに……?」
「……内密に護衛をしておりました。ここは我々にお任せください」
「ごめんなさい、ありがとうメルチさん」
「マーサ様の友人ということで大目に見ていましたが、もう我慢の限界です。一体、何の根拠があって泥棒呼ばわりしているのですか、貴女は」
「そこの女がその装備を私にくれる筈だったのに、約束を破ったの。だから泥棒。これで気が済んだ? 部外者は引っ込んでてよ」
「わ、私はそんな約束し――」
「言い訳しないでよ!」
「えええ……」
マーサの発言をメリアは大きな声で遮る。
気の小さい方であるマーサはそれだけで驚き、続きが出てこない。
自分に不利になる発言はそれで全て封じ込めるという、メリアの作戦である。
「マーサ様、大丈夫です。私があの不届き者にわからせてやります」
「え、あの、大丈夫?」
「問題ありません」
振り向いて声を掛けるメルドに、マーサは少し不安になった。
どう見ても大丈夫じゃない顔をしているからだ。
メルドは怒りのオーラを身に纏い、メリアへ向き直る。
「愚かな人間どもよ! このドレスは我らが主、魔神王様が自らこの御方へ贈られたものだ! そしてこの御方こそ、魔神王様の伴侶である魔神姫マーサ様だ!」
「は?」
「魔神王? 魔神王ってあの魔神王?」
「魔神王ってアルディエルちゃんだよなぁ!? あの子と結婚したのか!?」
「おいおいマジか? そんなこと有り得るのか?」
「でもあれってNPCだろ? そんな変な嘘つくか?」
「ロリ魔神王と美少女プレイヤーの結婚。アリだな」
「アリの中のアリ」
「アリでしかない」
「ナシは殺すからアリでしかない」
メルドの宣言により、今度はメリアが絶句する番だった。
そして周囲のプレイヤー達はどよめく。
NPCとプレイヤーの見分けは簡単につく。偽装は不可能。
そのNPCが嘘などつく理由が無い。
「うわぁ~……!!」
そしてマーサもまた、驚きと恥ずかしさで蹲った。
周囲の反応と生暖かい視線がマーサの顔を熱くさせる。
「ちょっとそれ、どういうことよ! 適当なこと言わないでくれる!?」
「適当な事、ですか?」
再起動したメリアが、メルドへ食って掛かる。
このままでは泥棒呼ばわりしたことがばれる。そうなれば、メリアは悪質なプレイヤーとして扱われるだろう。
それを回避する為に、メリアは譲る訳にはいかなかったのだ。
「そうよ。魔神王から直接もらったなんて、どうしてあんたが分かるわけ!?」
「……いいでしょう。反省の色が無いようですし、自己紹介して差し上げましょう」
スッと、メルドの身体が浮き上がった。
背中からは漆黒の翼が生え、両腕両脚は膨れ上がり、黒くゴツゴツした質感へと変わる。
整った顔には幾本ものひび割れが奔り、その眼は真っ赤に染まる。
本来の姿と人の姿、その中間であるこの姿は、≪魔人態≫とよばれる形態である。
「私は魔神王アルディエル様にお仕えする暗黒四魔神が一、≪軍勢の魔神≫メルドでございます。勿論、
魔神王様の大切な方であるマーサ様にも忠誠を誓っております」
「あ、ま、魔神!? そんなのがなんでここに!」
「これで分かりましたか? あのドレスは正真正銘、魔神王様が贈られたドレスです」
「はいはい、分かったわよ。これで気が済んだ?」
「仕方ありません。これは、お仕置きが必要ですね。マーサ様、一足お先にお帰り下さい」
メルドはため息を吐いた後、マーサへ向き直った。
「え、確かにもう帰りたいけど、今帰ったらメルドさんが何するか――えぇ!?」
薬指に装備された指輪が、マーサの帰りたい気持ちを感じ取った。
そしてそれは遠く離れた魔神王へと伝えられた。
即座に発動する送還魔法。
マーサは光に包まれ消え去った。
「では、掃除をしましょう」
メルドの周囲に十体の細身の悪魔が出現した。
レベルは50程度だが、動きが早く、獲物をどこまでも追いかける習性を持つ。
「この場にいた全てのプレイヤー共を抹殺しなさい。行け!」
勿論、今のプレイヤー達では一体が相手でも勝てる相手ではない。
スターレの街の一角で、蹂躙劇が幕を開けた。
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