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24 野盗の襲撃

 奇妙達と入れ替わるように少女たちの一団は村にやって来た。

 村の中央に大きな桜の木が見えた。そこは、広場になっているようである。

 少女達が近づくと、笛の音や太鼓のお囃子が聞こえて来た。

 村人が集まり踊っている。女子供が多く目につくのは、男たちが戦に駆り出されているためである。

「まぁ。楽しそう」

 満開の桜の下で踊る村人の笑顔が、少女の心を楽しくさせた。

「お祭りだー。わーい」

 と、傍らにいた、小さな少女と少年が広場へと駆け出した。

「弁丸! 菊!」

 と少女は、呼ぶと自身も広場へと足を進めた。

 その様子を、はなと惣藏は、微笑ましく見ていた。

 

 と、その時。

 村が慌ただしくなった。

 火だ! 各所で家が燃えている。

 その混乱に乗じて、無頼な男たちが家々に押し入っていく。

 野盗達が村に潜んでいたのだ。

 広場でも、その仲間の男たちが刀を抜いて村人を囲んだ。

 でっぷりと太った者や、野盗にしては高価な太刀を差している者、やる気のなさそうな者まで、その様相は、様々である。

「ぶはっはっはっ! おとなしくしていろ! 俺は、鬼熊玄播様だ! この村の物は、有り難く頂いてやろう」

 中でも派手な男が、嫌味たっぷりに高らかに笑った。野盗の頭領であろう。

酒瓶を一気に喉に流し込んで、地面に叩きつけると、

「抵抗する者は殺せ!」

 それを、合図のように、野盗たちは家々に押し入りだした。

 逃げ惑う村人たちの悲鳴が木霊している。

 騒然となった村の、中央に居た人々は、悲哀の表情で黙してみる事しかできなかった。

 

 少女たちの一行も、群衆の中に在った。

「私が切り抜けましょうか?」

 惣藏が、意を決した表情で、はなに言った。

「ここは、やり過ごしましょう」

 はなが、惣藏と少女達を見ると小声で話した。

 一時、ほどすると、頭の所に仲間たちが集まって来た。荷車には、強奪したコメや食料、着物、太刀に農機具、それに草鞋まで有りとあらゆるものが乗せられている。その荷車の数は5台はあろうか。

「はぁん。湿気た村だな、こんな物しかねーのかよ」

 鬼熊と名乗った頭が、嫌味たらしく笑っている。


 その時、広場へ数人の村人が押し行って来た。村の男達である、しかしその大半は老人であった。その手には、鍬や鎌、木の棒を持っている者もいた。

「なんて事をするんだ! 今すぐこの村から出て行け!」

「そうだ! そうだ!」

 と、周りの老人も騒ぎ立てている。

 鬼熊は、嘲笑とも言える笑みを浮かべたかと思うと、冷酷な目で老人たちを見渡した。

「ふん。目障りだ。殺せ!」

 鼻で笑いながら、野盗達に命令した。

 広場の野盗達が男達たちに切りかかる。

 断末魔があがった。武器も人数も違う。

 それでも、野盗達を振り切った一人の村人が、鬼熊めがけて突進した。

「そんな棒きれで、まともうにやり合う気か? 死ねよ! 雑魚」

 鬼熊が、一気に切り捨ててしまった。

 広場に集まる村人の中から、悲痛な叫びがあがったが、抵抗する者は、なく皆目を背ける事しかできなかった。

 

「さぁて、今夜の楽しみを頂くか」

 にやついた笑いを浮かべると、仲間たちに顎をしゃくって合図した。

「ひゃははは!」

 仲間たちは、嫌らしくわらって、それぞれ女たちを物色している。その手には縄が握られていた。

「イヤー! 離してください!」

 女たちの抵抗など、お構いなしに、縄を掛けてゆく。

 鬼熊は、その様子を楽しそうに見ていたが、群衆を見る目が光った。

 はなは、目が合った瞬間、顔をそむけたが一足遅い。

「これは、上玉だ! ハッハッ!」

 嬉しそうに、はなの方に歩いて来る。

 それを見た、惣藏が太刀に手を掛けた。

 その時、惣藏の横から男が飛び出した。

「妻に、何をするんですか!」

 言いながら、女に縄を掛ける野盗の一人に飛びついた!

 宿屋の亭主である。

「それが、この俺とどうゆう関係があるんだ!」

「なにとぞご容赦を」

 そういって、野盗にすがりつくように懇願している。

「女房が、他の男に抱かれるのが、そんなに忍びないか! ――だったら見なくていいようにしてやるよ」

 薄気味悪い笑みを浮かべた次の瞬間、亭主の背中から刃が突き出た。

「グエッ」

 と、うめき声をあげ、口からは血を吐きながらその場に倒れ込んだ。

「あなた!」

 亭主の妻が、悲鳴を上げながら寄り添う。

「おとうちゃん」

 と小さな女の子が泣きながら群衆から駆け出してきた。梅である。倒れた父親をみて泣きじゃくっている。

「なんだ、このガキ! 邪魔だ」

 野盗は、梅を蹴り飛ばすと、亭主から離れようとしない女を無理やり引っ張って縄を掛けようとする。

「あはは! バカなやつだ! 亭主の分まで可愛がってやれよ!」

 鬼熊が笑って言った。

 村人たちは、奥歯を噛みしめて見つめるしかできなかった。

 

 その時。

「やめなさい!!」

 その声は、広場全体に響いた。

 野盗たちはもちろん、そこに居た村人たちも声の主をみた。

 それは、まだ十を少し過ぎたほどの少女であったのだ。

「貴方たちは、それでも人ですか……恥をしりなさい」

 その声は怒りに震えている。 

 

 少女が声を上げると同時に、地面に叩きつけられた梅の元へ少年が駆けてくると、抱き起した。

 弁丸である。六歳の少年は自分と同じ歳程の少女を抱えると、

「大丈夫かい?」

 笑顔を少女に向けると、腰の太刀を野盗に向けた。

 しかし、その手は、震えていた。


 少女の傍らに伏していた惣藏は、一瞬慌てて少女を見上げたが、直ぐに誇らしい表情になった。

「はな殿、皆を連れて逃げてください。私が切り開きます」

そして、それは、決意の表情であった。

「あなた、一人では……私も共に戦いましょう」

「はな殿の腕前は、存じていますが……ここで二人倒れては……皆を守って頂きたい」

 惣藏は、考えるように、はなに言った。

「わかりました」

 はなも決意の表情で返す。

 

 少女は、怒りの眼差しで鬼熊を見ていた。

「なんだ小娘! この俺様に説教か!」

 凄味のある声である。

少女の手が震えた……

「私は…………」

 少女が言い返そうとするが声に成らない。

「ハッハッ! まだガキだが、俺様が一から女の喜びを教えるとするか! いつまで偉そうな口が利けるか見ものだ!」

 その残忍な物言いであった。

 それでも、少女は、怒りの眼差しを解かなかった。折れそうな心を奮い立たすように。

「こいつを捉えろ」

 野盗が、三人、少女に迫った。

 少女と野盗の間に、惣藏が駆けこんで、続けざまに切り倒した!

 見事な太刀筋である。

「お逃げください! ここは、私が!」

 少女を背に、野盗たちに向かって太刀を構えた。

 惣藏と同時に、はなも動く! 菊の手を持つと少女の傍らに走る。

が、一瞬で取り囲まれてしまった。

 仲間を切られて野盗も黙ってはいない。

「殺れ!」

 鬼熊が、遊びは終わりだと言わんばかりに、仲間に指図する。

「仕方ありません!」

 はなも少女達を背に太刀を抜くと、向かって来る敵を一人切り倒す。

 こちらも、手練の身のこなしであった。

 しかし、多勢に無勢。

 絶対絶命の窮地でも少女は身動きせずに鬼熊をにらみつけている。心は折れていないのだ。

 その時、騎馬の賭ける音が聞こえて来たかと思うと、広場の入口で騒ぎが起こった。




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