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10 関所1

 

 関所が近づいてきた。

 武田は、軍事行動中という事も有って、重々しい警備なのは一目でわかった。

 南蛮風の馬車に従う奇妙と氏郷は、平常心を保とうと心掛けた。

 しかし、緊張するなと言う方が無理なのである。

 怪しいことこの上ないのだ。

「もし、俺に何かあったら、五徳とせんを頼む」

 奇妙が、神妙な声でいった。

「安心しろ、お前だけ死なせるような事は、しねーよ」

 氏郷がきっぱり言った。

「それに、俺だけ生きて帰ってみろ、親父に間違いなく殺されるからな」

「あははっ。すまないな」

 奇妙の口調は、穏やかだが、友に対する信頼が良くわかる。

 

 

 一行は、関所で止まった。通行料を払うためである。

「何処へ行く?」

 関所番が聞いてきた。

「はい、甲斐の国へ行く所です」

 氏郷が答えた。

「ほう。あれは、見慣れん乗り物だな。お前たちは何処の者だ?」

 関所番でなくとも気になるところである。

「私たちは、熱田から参りました、我らが仕える商家のお嬢様と富士の山を見物に行く所です」

 奇妙が打ち合わせ通り説明した。

「そうか……。子供だけで旅とは珍しいな、気をつけて行かれよ」

 関所番は、少し不信に思ったようだが、それ以上追及しなかった。

 二人は、関所番にお辞儀をして、馬車の所にもどった。

「裏の裏は表か」

 奇妙が小声で言うと、氏郷が、上手くいったなと、目配せした。

 その時!

「ほぉう。これは、珍しい物だな」

 と、言いながら少年が馬車の所にやって来た。奇妙と同じ歳位であろう。

 その風体は、旅人であった。

 馬車に興味を引かれてやって来た少年の興味が、馬車の中身に移った。

 五徳である。

 五徳は、その少年と目があったが、動じる様子もなく目を背けもしない。

「ほう。これは、美しい娘だ」

 そうゆうと、五徳のあごを自分の方へ向けた。何とも俺様的な態度である。

 五徳が無表情でその男を見た次の瞬間。


 ―――バシィ!

 音が響き渡った…………

 五徳がその少年のほほを叩いたのだ。

 空気が張りつめた。

 隣のせんは、驚いて手で顔を覆った。

 それを見ていた関所番たちは慌てて奇妙達を囲むと、槍を構えたではないか。

盛信もりのぶ殿!大丈夫ですか」

 関所番達は慌てて、旅人風の少年を心配している。

 盛信と呼ばれた少年は、頬をさすりながら、

「この無礼者を捕らえよ」

 と、言った。

「申し訳ない!さぁ、五徳ちゃんも誤って」

 氏郷が、低姿勢で何とか切り抜けようと、割って入った。

「…………」

 五徳は、悪びれた風もなくそれを無視した。

 関所番が、五徳の腕を掴んで馬車から降ろそうとしたとき、奇妙がそれを止めた。

「無礼なのは、お前だろ!」

 奇妙の物言いには、凄味があった。

「あっはは! 面白い! 生意気なガキだ!」

 歳は変わらないだろうに、挑発的な物言いである。

「退屈しのぎだ、俺を討ち負かしたらその無礼に目をつむろう。腰の物はただの飾りか?」

 

 関所の兵士は盛信もりのぶに言われて、木刀を持って来た。

 盛信は、木刀を掴むと奇妙に投げた。

 活き良い良く投げられた木刀は、回転しながら奇妙の顔面に向けて飛んだ。

 パシッ!

 ――当たるか! というところで、奇妙が取った。

「ほう。少しは出来るか?だが、そのハッタリが何処まで通用するか見ものだ」

「本気でやってよいのか?」

 受け取った木刀を一振り素振りして奇妙が答えた。

「おい! 奇妙! 手加減しろよ」

 騒ぎを大きくするなと氏郷が声をかけた。奇妙が負けるとは思っていないのだ。

奇妙の返事は無い、完全に相手の挑発に乗っている。

「お前たちは手を出すな」

 盛信は、関所番達に言うと木刀を構えた。

 そして、奇妙も構える。

 木刀といえども本気で打てば、致命傷になりかねない。

 二人の殺気に周りの者どもは、息を飲んだ。

「そんな、失礼な奴やっつけちゃえー」

 せんが、馬車から降りて手を振って応援した。場違いな行動であるが、空気は、和まない。

(やっつけたら余計面倒だろう)

 氏郷は思ったが、その面倒な状態に備えて、馬車にくくり付けている槍を肩に担いだ。

 


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