第三章 空想の羅針盤(5)
アンビリアの軌道上に浮かぶ、宇宙でも有数の規模を誇る星間カノン基地。
視界に入る範囲だけで、全長200kmから500kmの長大な砲身が四つと、それぞれが一辺2kmはあるかという荷捌き場と待機場を兼ねた格納庫が百を超える無数の群れとなっている。小さなものは100メートル、大きいものは300メートルにも及ぶ全長を持つ貨物船が列をなしている。
こうした基地が、アンビリア上空にはあと六つある。
これを、かつては地球が支配し、ロックウェルが奪い取った――。
本当かウソか、それはまだはっきりしないけれど。
でも、その謎を解く、その入り口に僕らは立っている。
「オーツ共和国に向かい、その艦隊の出どころを、まずは押さえる」
自分の考えを整理するようにつぶやくと、
「そうね、だとしても、そこで何をするか、考えはあるの?」
セレーナがつぶやきを拾った。
それに関しては、今逃げ出すパニックの中でも、ちょっとずつ形になってきている。
「その疑問には、もう一つ、究極兵器がどんなものだったのかという想定を加えないと答えられない。そして僕の想定は、少なくとも戦艦の主砲クラスの大仰な兵器だったというものだ」
「主砲? よく分かんないけど、なんとかかんとかいう大砲よね。そこに、たとえばものすごい弾丸を詰めた、みたいな?」
「『アタック・カノン』ね。それはたぶん、違うと思う。アタック・カノンは超光速航行技術を応用した強力な主砲だけれど、あんなクレーターを掘れるような弾丸は撃てない。だから、主砲を丸ごと取り換えて、何か根本的に違う兵器に載せ換えた、そんなものだと思うんだ」
「……で、そうすると次に探す場所が見えるの?」
「うん。つまり、それだけの兵器の艤装ができる基地がある惑星で、その痕跡を探すのが一番早いと思ったんだ」
「……そう? ロックウェルの他の国で作った艦かもしれないじゃない。それこそ、ロックウェルの首都、惑星エディンバラってことだって」
セレーナが口にしたのは、ロックウェル連合国の首都ではあるのだけれど、多分そうじゃない、と僕は考えている。
「大きな船の作り方の問題。大昔、海に浮かべる船は、まず船体を作って、母港に近い艤装ドックに回航するんだ。で、母港近くで、いろんな装備だとかを取り付ける『二回目の造船』をやる。船体を作れる造船所は少ないし、船の装備は実際の母港の近くで保守しなきゃならないから、そうしたやり方が普通だったんだ。これは宇宙でも基本的に同じ。だから、戦艦自体はどこかほかのところで作られたとしても、搭載される兵器を組み付けるっていう作業は母港近くでやるはずなんだ。戦艦がオーツ共和国の持ち物だったのなら、そこに搭載する究極兵器もオーツ共和国内でメンテナンスできるよう、オーツ内で組み立てをしてたと思う」
「ふーん。聞いてみれば確かにその通りだけど。でも、そんな痕跡、残ってるかしら」
「いろんな理由で注意深く隠されているのだろうから簡単には見つからないと思う。でも、もし究極兵器の艤装をしていたんだとすると、整備ドックだとかには、普通とは少し違う設備があったりするんじゃないかと思う。そういうものが、退役した後でも、撤去コストがかかるからとかなんとか、そんな理由で案外残っているものだよ」
僕は言いながら、大昔の歴史的な記録を思い出す。全地球的な内戦があった頃。
世界のあちこちに海岸防衛のための沿岸砲台が築かれた。
ただの鉛の球を無粋に投げつけ合うだけの大砲。
時代が巡り、やがて砲弾による防衛は役立たずとなったにも関わらず、沿岸砲台はそのままに残された。用済みになったものは、きれいに撤去されるよりは、そのまま放置されることの方が多いのだ。
結果としてそれが歴史遺構としてのちの研究に大いに役に立ったわけだけれど。
「ふうん。……ひろいオーツ共和国内を当てもなく痕跡付きドック探し、ねえ」
なんだか、引っかかる言い方をするなあ。
……という僕の顔色を読んだのか、
「もっと情報が集まってるところで情報収集するほうが早いんじゃない?」
とセレーナは言う。
「アンビリアでの事件は確か標準歴四百三十年よね? ロックウェル連合の発足は三百八十二年。五十年もたってるなら、兵装とか指揮系統は統合されてるんじゃないかしら。それに、現地より文書、そうでしょう?」
文書を掘れ、とは確かに僕が言ったことだけど。
「だとしたら、例えばロックウェルの首都エディンバラ。そこで文書を掘った方がきっと早いわ」
「文書を漁るのはもちろん王道だけどさ、その……」
「なによ、もう宗旨替え?」
「違うよ、その、要するに、ジーニー・ルカがやらかしたとんでもない特権の話だよ」
「あ……」
これでセレーナもようやく問題点に気づいてくれたようだ。
結局、文書を掘るにしても、普通の学者が掘れる資料ならとっくに掘り起こされてる。一方、普通に掘れない資料を探すならジーニーを使ったうっかりお漏らしを期待するしかない。管理の甘いアンビリアではそれがたまたまうまくいった。じゃあ次もそれに期待して『最高権限』を指定して不正アクセス、……する?
さっきのパニック中に、そこまで考えて出した答えが、オーツ共和国での遺構探し、なのだった。
「ただでさえ管理が厳重なロックウェルの中枢であんな真似は、さすがに」
「やめときましょう。いや、オーツでもなるべく妙な真似はしないように、いいわね!」
ちょっと冷や汗をかきながら、セレーナはそんな結論を出した。
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