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魔法と魔人と王女様――情報の魔人と重力の魔法で僕と王女の宇宙攻略(ハック)――  作者: 月立淳水
第一部 魔法と魔人と王女様

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第三章 空想の羅針盤(3)


 エミリア三大公爵家、ロッソ公爵家当主、ウドルフォ・ロッソは、彼の派閥に属するロミルダ・カルリージ女伯爵、シルヴェリオ・サルヴァトーリ子爵と席を同じくしていた。

 会食という名の秘密会談である。

 落ち着いた雰囲気のレストランではあるが、あらゆる調度の無いのっぺりとした部屋であることが異様さを醸し出している。それは、調度にまぎれて何らかの盗聴器が仕掛けられることを徹底的に排除するための機能的要求からくるものであり、それが、そのレストランの信用と格調を決めていた。

 中年――と言うにはまだ若々しさの残るカルリージ伯ロミルダは、その明るいカールのかかった髪が特徴の優しげな女性。高位貴族当主ばかりというぴりりとした雰囲気が、彼女が口を開くとわずかに緩んだ。


「セレーナ殿下は、あれでよろしいですか?」


 それを聞いたロッソは、少し苦々しげな表情を浮かべながらも、うなずいた。


「まずは。ともかく優先順位というものがございます」


「しかし、殿下がそのまま新連合に駆け込むことも考えられましょう。今後のことを考えれば地球を妙に刺激してはなりますまい」


 サルヴァトーリ子爵が指摘する。子爵家でありながら縁戚に王族を持つ彼は、王族にしばしば見られる豪奢なブロンドを後ろで一本結びにして、その血縁をアピールする若き野心家だ。


「殿下はだいぶあの青年に影響を受けている。あの青年の――不利になるようなことは、せぬものと考えおります」


「そのことなのですが」


 とサルヴァトーリが続ける。


「殿下はたいそう聡明と聞いておりましたが。よもやあのような青年に心を寄せようとは、私には信じられません」


「いかに聡明とて思春期の少女です。思わぬ心の動きがあっても仕方がありませんわ」


 と、ロミルダは恐れ多くも王女殿下を一人の少女と断じる。


「間違いが起こってからでは遅いのではございますまいか」


 サルヴァトーリの追及に、


「殿下に限ってそれはあり得ませぬ」


 先頭に立って密通を疑っていたロッソが断言し、残る二人が絶句する。


「殿下はそうしたことは深くわきまえていらっしゃる。仮に心惹かれていようとも、そうしたことだけは決して誤りませぬ」


 ロッソにとってセレーナは政敵……いや、政敵だからこその、信頼とでも言えようか。

 敵を高く評価することが、彼の戦略の根底にあるのだ。


「例の件、セレーナ殿下とはまだ和解の落としどころは見えておりませぬ。ヴェロネーゼ公爵家も殿下への支持が固く、もし殿下がヴェロネーゼ家に頼るようなことがあれば、国を割る事態にさえなりかねません」


「それとあの青年がどのような関係が」


 それに答えたのはロミルダだ。


「あの青年への情と依存は、当面、殿下をヴェロネーゼ公から引き離しましょう」


「――と、カルリージ伯はお考えとのことで、このようにいたした」


 ロッソはロミルダの言葉を継いだ。

 それは、理屈ではないが、悪い手ではない、とロッソにも思えたのだ。


「……いっそ、もう間違いがあったものとして……誰もが疑いようなく間違いが起こったと認める事態として、支持勢力の切り崩しに入っては。殿下の信奉者にとっては寝耳に水となりましょう。失望するものも多かろうことでしょうからなあ」


 サルヴァトーリはこの際にやれるところまでやってしまえ、というようなことを口にする。


「今の時点でそこまでのことは考えてはおりませぬ。誤解なきよう」


 ロッソは少し渋い顔をして釘を刺す。

 彼とて、エミリア三公の一角として、さらには初代から続く『筆頭公家』の伝統の重みを背負うものとして、仮にも王家の継承権者がそうした奔放をなすことは許しがたいことと考える。そうしたうわさが立つことさえ。

 そうした心情まで込めた渋面に、さすがにサルヴァトーリも、非礼を詫びる。


「今はともかく、殿下が心情的にあの青年に依存するよう続けるよりほかありませぬ。だから殿下は可能な限り孤立無援とし、あの青年に頼らざるを得ない状況を維持する、それだけです」


「殿下は、殿下が新連合に駆け込めば、あの青年が極めて厄介な立場になること、ご理解あそばしていますわ。だから青年への情さえ育まれれば、それだけは防げます。あるいは、万一ロックウェルにでも駆け込もうものならあの青年は――いえ、さすがにそれはあり得ませんわね」


 ロミルダが補足すると、


「そう。せいぜい、あの青年への情を今後もはぐくんでいただきたいものですな。あの青年こそ、殿下の安全弁となりましょうぞ」


 と、ロッソもそれを肯定した。

 その顔つきを注意深く観察していたロミルダは、ふと、思い付きのように言う。


「仮の話ではございますが。殿下の感極まり、間違いではなく、あの青年を正式にお迎えするとならば、いかがでございましょう」


「あり得ぬ」


 ロッソは即答する。


「仮の話でございます。もしその……殿下のお気持ちがそうであったとして。殿下に恩を売る、そんな物語もありますでしょう?」


「……その程度で恩を売れるなら、ここまで殿下の扱いに困ったりはしませぬ。青年の性向次第ではヴェロネーゼを率いて暴発する危険を下げることにはなりましょうが……むしろ我々がその糸を引いたとならば、枢機院は割れますぞ」


「……失礼を申し上げました」


 素直に引いたロミルダだが、しかし、どこか遠くを眺めるその瞳にはすでにロッソの姿は写っていなかった。

 そしてそのころ、彼らが安全弁と読んだ青年が、歴史の導火線となろうとしていることさえ、ロッソには知る由もなかった。


***


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