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005_装備の制作


 地球で生活すること1ヵ月。とりあえずこの姿での活動には慣れた。戦闘以外ではあるが。ついでに、この姿に若干精神が引っ張られている気もする。


 リーチとコンパスの短さには苦笑するしかないな。距離感がいまだ調整しきれず、わずかに狂ったままだ。まぁ、仕方ない。そもそも体格そのものが小さくなっているんだ。単純に当たり判定が減ったと思えば有用といえよう。


 攻撃の回避だの距離詰めだのは、基本【BS(Brink Step)】だ。正直コンパスはさして関係ないしな。


 攻撃にしても2挺拳銃にすればいいだろう。これまで使っていた刃物を振り回すのは、俺の今の体だと難しいに違いない。筋力がそのままとはいえ、体重は軽く体格もこの有様だからな。そもそもこれまでの得物だと長すぎる。まともに扱えるのはいいとこナイフぐらいか?


 あ、いまの手のサイズに合わせた武器も造らないとな。材質は……地球ならタングステンが手に入るよな? 確か、戦車の砲身なんかにも使われてる材質だ。……あれ? タングステンカーバイドの方だったか? 後で調べればいいか。とにかく頑強な素材であるには違いない。これを手に入れて銃を造ればいいだろう。


 銃、といっても火薬を用いて弾丸を撃つような普通の銃ではなく、魔法使いの持つ魔法の杖みたいなものだ。ただ、砲身から魔力を弾丸として撃ちだすだけの特別製というだけで。


 問題は埋め込む魔法発動体なんだが、それはサラがオーマから取ってきてくれた俺の荷物で解決した。


 ギルドに預けておいたものだが……どうやって取って来たのかは聞かないでおこう。確か、預け期間はあとひと月くらいあったよな? ロッカー開けたら中身が空っぽで、騒ぎになるんじゃないか? 誰かが横領したって。本来ならギルドのものになるハズだからな。


 まぁ、それならそれで面白いか。連中もロクなもんじゃなかったしな。中抜きなんて当たり前だったし。


 テーブルに並べた発動体に加工された石を選別する。


 大、中、小で大きさが違うだけで、基本性能は変わらない。変わるのは出力の最大値だけだが、それは術者の魔力の出力に耐えられるかどうかだけだから、結局のところ性能とは違うだろう。


 いや、耐久度は性能の一部と云っていいのか? まぁ、どうでもいいか。


 直径5センチサイズの大は今回は使わない。義手が壊れた時のスペアで取っといたヤツだからな。


 使うのは直径3センチサイズの中と1センチサイズの小だ。


「はい、姉さん。お求めのタングステンカーバイドです」

「……慣れんなぁ、それ。って、ここ一週間姿が見えなかったけど、どこに行ってたんだ?」

「姉さん呼びは慣れてください。つい先ほどまでは【青】様のところへ。こちらでのことが姉に露見していまして」

「あぁ、うん。幼女になっちゃったしね。俺。で、姉って? ライラ、だっけ? 彼女とは違うんだろ? その感じだと」

「私たちの元締め……元元締めともいえる方です。神を相手に平気で喧嘩をし、しかもやり込めて破滅させるような方でして。私はロールアウトされたばかりですので面識はなかったのですが、私の製造にも関わっていたようです」


 ロールアウトってなんだ? え、天使って工業製品なのか?


「今回【青】様の所へ直接の定期報告に行ったところ、再度、顔を合わせることになりました。定期報告をしたところ大変心配をされて、地球での生活に関してあれこれレクチャーを受けていました。1週間ほどかかってしまいましたが」


 お、おう。


「え、怖い人……じゃない、天使なの?」

「メイドの恰好をしていました」


 は?


「外見は、姉さんより少し年上くらい……10歳くらいの外見でした。なにかあったら、手助けをしてくださると言葉を頂けました。心強いです。ライラ姉さんとはえらい違いです。やらかした事実を元に偏見を持ってはいけない、まさにそれそのものでした」


 ポンコツ扱いのライラさん可哀想。


「ということで、私もこの地球での、特に日本での生活においてレクチャーを受けたので、これまでのような頓珍漢なことをやらかすことは減ると思います」

「それは助かる」


 なにせ部分部分で、オーマみたいなことをしようとしたからなぁ。調理に備え付けのIHじゃなくて、バーベキュー台持ち込んで火を熾そうとしたりしたし。

 室内でそんなことをしたら、消火装置で水浸しになっちまうよ。


 ……まぁ、IHは、俺にとっても未知な代物だけど。


「それで、その用意したタングステンカーバイドのインゴットはなんに使うんです?」

「装備を新調するんだ。なにせ手がちっちゃくなっちまったからな。銃にせよ剣にせよグリップがしっかり握れん。……って、思ったよりも重いなコレ」

「比重が鉄の倍くらいありますからね」

「あー。そういやタングステンは重金属か。確か、金属だと最も重いんだっけか? そりゃ重くなるわな。幾ら筋力が前と変わらんと云っても、同じサイズでこの重さはきっついな」

「素直にチタン合金あたりにすれば良いのでは?」

「チタンか……」

「ミスリル銀は“銀”などとついていますが、チタンの魔力同素体ですよ」


 なん……だと? つか魔力同素体ってなんだ?


 ――よくわからんが、魔力の通りに特化したチタンがミスリルってことでいいみたいだ。

 地球とオーマの違いのひとつらしい。ハーデストとイージーの差といわれても分からんのだが。


 地球だと魔法の難度がオーマよりも遥かに高いからな。だからオーマの人間がこっちに来たら、木っ端な魔法使いが優秀な魔法使い扱いになるようだ。逆にこっちの人間がオーマにいくと、フィジカル面でオーマの人間を普通に圧倒できるらしい。分かりやすくいうと、一般人がプロレスラー並とのことだ。


 いや、そこまでの差があったのか? ……って、俺、5歳からダンジョン住まいなんてバカなことしていたから、レベルが異常ことになってたんだっけな。5桁あるし。俺を基準にしたらオーマの一般人はひ弱もいいところだ。


 そも、基本的にみんな無意識的に魔法で微弱ながらも自身を保護してたからな、あの世界。


「とりあえずタングステンカーバイドはカランビットナイフにでもするか」


 手にすっぽりおさまるサイズの、猛獣の爪のような弧を描いた刃のナイフだ。順手よりは逆手に持って使うイメージのナイフだな。


 【BS】ですれ違いざまに斬る、となると、逆手で持つ方が扱いやすい。


 重いインゴットを持ち上げる。


 インゴットから必要分を毟り取り、グネグネと大雑把に手で形を整えたあと、きちんとナイフらしく整形する。もちろん、砥ぐ必要もないくらいに、刃の部分はしっかりと。


 【位相】の能力は大抵の物をこうして好き勝手に整形できるため、なかば遊び半分で色々と造って鍛えに鍛え捲ったのだ。おかげで、そこらの名刀張りの切れ味の刃物を作るのもお手の物だ。もちろん、熟練の鍛冶師がしっかりとハンマーで鍛えたのと同様にだ。決して鋳造品のような有様にはしない。


 カランビットナイフは完成。一応もう一本。普通のナイフ、いや、ダガーを造る。


 さて、柄の部分だ。金属のままでもいいんだが、折角だし別の材質でつくろう。


 なにを使うとしようか。うん。前々世の頃に映画で見た日本刀の柄を真似よう。あの象牙の柄。さすがに持ってきてもらった荷物の中には象牙はないから、ドラゴンの歯でいいや。数本をまとめてグニグニして、ナイフの柄に。鱗を模したような菱模様のレリーフをいれてと。これで滑り止めになるだろう。あとは手に合わせた形にすれば完成かな。


 残りは鞘だけれど、柄に合わせてドラゴンの革で造ろう。


 ……。


 完成。っと。……柄が真っ白っていうのもアレだな。ちょっと時代を付けてやろう。


 要は、年代物に見えるように真っ白からやや褐の色を差し込む。その気になれば好きな色にもできるが、せっかくドラゴンの歯を使ったんだ。らしい感じにしよう。

 そういえば、象牙の時代付けはタマネギの皮と煮るって聞いたな。まぁ、詐欺の手法のひとつだけど。


 うむ。柄は年代物にみえる代物になった。ま、自分で使うんだし、ひとまずはこれでいいや。


 この調子で他の装備も造って行く。


 魔力発動体を仕込んだ剣と銃。正し、剣は刀身がなく、銃に至っては弾丸のリロードのためのギミックはあるものの、内部構造は本来の銃とはまるで違い、内部には『魔法発動体』を含めた加工された魔石が詰め込まれている。材質はサラの言葉を受けて純チタンで作り上げた。内訳はどこかの世紀末映画に登場したようなソードオフショットガンが2挺。そしてオートマティックハンドガン(見てくれだけ)と魔法発動体としての剣の柄(見た目は懐中電灯)だ。


 使用した『魔法発動体』は特殊加工したもので、無属性の魔法を瞬間的に刃として出現させるものと、6発の魔法弾を同時に撃つ、或いは単発高威力【魔法弾】を撃つだけの代物だ。『魔法発動体』としては、標準仕様のものを更に簡素化したものであり、オーマにしろ地球にしろ廉価品扱いとなるだろう。これらを制作依頼したとしたら、特注となるため値段は標準品より高くなるだろう。物好きでもなければ依頼しないような代物だ。なにせ、わざわざ高い値段を出して性能を下げているような物だからな。


 最も俺は、最初に一度依頼して造ってもらっただけで、以降は自分で造っている。現物さえ見ておけば、俺は自分で造れるんだ。【位相】は無駄に便利だ。素材さえあれば、どうにかできてしまう。

 ま、ここまでできるようになるまで、鍛えるのはえらい苦労したが。使い物になるまでに10年くらい掛かったんだ。


 そして防具も造る。防具と云っても、上衣にシャツ、ベスト、コート、ズボン、ブーツと全身一式。どちらかというと、あれだ、ゴシックホラーな小説のヴァンパイアハンターみたいな恰好だ。おっと、帽子とマスクにグローブも造らないと。

 素材は竜革をベースにする。竜といっても鱗を持たない種類もいる。これはその種類の革だ。鱗持ちの竜の革は、鱗無しの革に比べ脆弱すぎる。


 色は変更せず黒のまま。光沢はなし。一見するだけでは革にみえないようにしておこう。


 柔革装備だから打撃は止められない。だが使っている素材の特性上、酸や毒には強いし、もちろん斬撃だって止められる。天然の万能防刃装備だ。


 あとは、ガンベルトとショルダーホルスターにウェストバッグ。それと薬瓶(試験管型:ミスリル製)とそれ用のレッグホルダーを造ってと。


 残すは細かいサイズの調整。これは身に着けてからやればいい。


 ということで。


「どうよ」

「可愛らしいです」


 サラが胸元で両こぶしを握り締めて目をキラキラとさせている。


「可愛らしいって……」

「コスプレしているみたいです」


 ちょっと待ってくれ。さすがにそれはないんじゃないか?


 鏡を見てみる。


 18、9世紀くらいの英国紳士っぽい服装の子供が写っている。大人の服装を着込んでいる幼女が。


 おぉう……確かにコスプレとしか云えねぇ。ハロウィンの時に見た、魔女姿の幼女を思い出したぞ。完全にちんちくりんじゃねぇか。


 つか、これあれだ。SF漫画にあった、宇宙を放浪するガンマン、ハチローそのものじゃねぇか。別に弾痕がいくつも空いている尖がり帽子とか被ってねぇけど。縁がボロボロのマントも羽織ってねぇけど。着ているシャツも赤じゃなくて普通の白だけどさ。ぶらさげてる銃のせいでそうとしか見えねぇ。


 ま、まぁ、重要なのは性能と着心地だ。周囲に微笑ましく見られようがどうでもいい。


「よし。それじゃ、この体での戦闘慣らしと行くか」

「どのダンジョンに行きますか?」

「こっちじゃなく、オーマの方に行こう。どうせこの(なり)じゃ、ライセンス取得にひと悶着あるだろうし」

「あぁ。確かに。それではオーマに参りましょう。行くダンジョンは決めているのですか?」


 サラが問うた。


「あぁ、管理できていない小規模なダンジョンがあるんだ。近くに人里がないせいで、まず人がいない。たいした魔物もいないから魔物暴走災害(スタンピード)が起こっても放置されている有様だ。そこなら人に絡まれることもないだろ。たしか、まだ名無しのままだったし」

「それはまた……。地球だと未発見ダンジョンでもない限り、有り得ませんね」

「まぁ、向こうはまだ戦争、疫病と人の増えない要因がてんこ盛りだからな。ただ地球と違って、ダンジョンのおかげで食糧難にはどうにかならずに済んでるってところか。それを考えると、あの世界は恵まれてるな」

「まぁ、あの世界はイージーモードですからね」


 は? え? さっきも云ってたけどそれなに?


「それでは、出発の準備をします。携行食はカロリーバーで問題ありませんね?」

「あ、あぁ、よろしく頼む」

「では、1時間後に出発しましょう。準備をしてきます!」


 楽し気にリビングを出ていくサラを、俺は呆然と見送った。


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