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036_APPENDIX:JDEA本部にて、とある課長とその部下の会話_④


■APPENDIX:JDEA本部にて、とある課長とその部下の会話_④



「課長、お疲れ様です」


「張戸? もう8時だぞ、どうした?」


「まだ8時です。って、それどころではないでしょう。私も配信の許可を出した責任がありますし。受付でのやりとりなど一般的に早々知れることでもないでしょうから、小神さんに配信してよいかを聞かれた際に許可してしまったんですよ。なにせあのマナクラフトのプライベート保護機能は、他者の容姿にモザイクを自動で掛けた上に、音声でも固有名詞は電子音で伏せますから。そうしたら武内所長のアレですよ。なんですかアレ。まさに血の気が引きましたよ。小神さんはケラケラ笑ってましたけど」


「あぁ。いまそれで施設管理課は大騒ぎになってる。上だけでなく防衛省に宮内庁まで出張って来てる。施設管理課はてんやわんやだ。どう始末つけるんだろうなぁ。全力で皇族を公衆の面前でぶん殴ったようなもんだぞ。表を歩くのも危険になりかねん。皇族シンパはたくさんいるからな」


「……ウチは大丈夫だったんですか?」


「事務所の運営管理は、基本、施設管理課と営業部が仕切っているだろう。こっちにゃ直接的な責任はないよ。おまけに武内は日下派閥だからな。これを期にコレだよ」


「首切りジェスチャーなんて、リアルで初めて見ましたよ」


「本格的に大掃除を始めることになるな。本部長がいい笑顔を浮かべてたからな。青筋を添えて」


「うわぁ……」


「それで、そっちの初日はどうだったんだ?」


「……頭を抱えたい有様なんですが。報告書に書けないようなことが多すぎます」

「どれだけだったんだよ」


「一番軽いものが、私に対して千間坂事務所が行った嫌がらせですからね」


「は? 嫌がらせ!?」


「部屋を使えませんでしたから。正確には連絡していたにもかかわらず放置されました。それを知った小神さん……妹、いえ、姉でしょうか? 小神ラクさんが部屋を用意してくださいまして、その賃料を千間坂事務所に請求すると」


「施設管理課の連中はなにをやってんだ……」


「ラクさんがそれはそれは面白がっていましたよ。『神令は傲慢でなくてはならない』とも云っていましたから、管理課は厄介なことになるかもしれません」


「……厄介な事って、例えば?」


「最悪、強制退去もあり得ます。あの賃貸マンションのオーナーは神令家ですから。私は別に部屋を用意して頂けましたけど」


「その交渉は連中がやればいいさ。こっちは知らん。で、他は?」


「あの黒竜ダンジョンにいた毛玉が掃除ロボットのような扱いで飼われていました。ファンタジー金属であるミスリルがありました。そしてなにより、天使が普通にウロウロとしていました」


「待て、待て待て待て。毛玉にミスリル!? 天使が普通に歩いてるって――」


「以前の神令さんの配信、松戸ダンジョンの配信の最後に映り込んだ黒髪の天使です。ゼルエルと名乗っていました」


「……――」


「課長?」


「あー……そりゃ確かに報告書なんて書けんな。書けそうなことはあったか?」


「明日の【同舟会】さんに関してでしょうか。例のゴブリン討伐の件です。丁度【同舟会】の方も神令家にいらしてまして、昨日の魔法の杖の取引を完了させていました。追加で一本魔法の杖を購入。明日、それを使い討伐戦に挑むそうです。その討伐の様子を配信するための、マナクラフトの汎用型試作機も貸与されていました。機能をだいぶオミットして、犯罪利用しにくくしてあるそうです。一番分かり易い変更点は、所有者より10m以上離れることができなくなったとのことです」


「魔法の宣伝ももうはじめるのか?」


「どうせならと、まとめて行うようです。それと魔法ですが、【鑑定】魔法があることがわかりました」


「は? 鑑定魔法!?」


「実用性を考えると簡易のもので事足りるので、モンスターに掛けた場合、知ることのできる情報は【種別名】と【レベル】のみとのことです。ネームドの場合は名前も判明するそうです。アイテムの場合は名称と効果が分かる程度だそうです」


「十分じゃないか。余計な情報があっても邪魔なだけだ」


「さすがに弱点などまでは見抜けないようですが」


「分かったところで、実用性は低いだろ。毒物的なものを要するのであれば意味がないしな。あれか? ゲームみたいに火とか水が弱点みたいなものがわかるということか?」


「そういうことかとも思いますが、結局のところ火攻めで焼き殺したり水攻めで溺死させたりというのは、弱点云々関係ないと思いますね」


「まぁ、リアルならそうなるな。特攻もなにも関係ないだろことにしかならないからな。現役時代、パーティに火使いがいたが、問答無用でモンスターを丸焦げにしていたからな。他の連中から素材が取れねーだろって総スカンだったが」


「イオさんが、無属性魔法は腐らないっていうのはそういうことなんでしょうね」


「そうだ、一度サラさんかシャティさんにDEAで確保している魔法書に関して確認してもらえるように交渉してくれ。今後必要になるだろうし、なにより厄介な魔法であれば表にでないようにしっかり管理しなくてはならないからな。できれば、魔法の使用に関するマニュアル制作にも協力願いたいところだな」


「依頼してみます。依頼料は幾らくらいで設定しましょう?」


「あー……魔法書の解読、いや、この場合は翻訳か。翻訳家のギャラって幾らくらいが相場なんだ?」


「私のほうで調べておきます」


「よろしく頼む。あぁ、それともうひとつ神令さんに依頼があるんだ」


「なんでしょう?」


「オーストラリアで保護した謎の探索者の件だ」


「また随分早いですね。神令さんからその話が出たのは昨日ですよ」


「朝一でDEA本部にあれやこれや送りつけたところ、今日の昼にAUDEAから連絡があった。さすがに本部も謎言語を話す人物は放っておけないらしいな。なにしろ神令同様、鑑定オーブでの鑑定結果がまともにでなかったらしいからな」


「確か、対象のネイティブ言語で表示されるんでしたよね」


「そのせいで向こうも混乱したらしい。表示されたのがまったくの未知言語だったわけだからな。それにファーストコンタクトが、壊滅しかけのエスチームの救援だったらしいしな。おかげでAUDEAは優秀なチームを失わずに済んだわけだ」


「なんですかそのラノベみたいな展開」


「ま、それで神令さんの云っていることが事実だって裏付けになったわけだ。転移罠はあらゆるダンジョンのいずれかに飛ばされるってな。

 小神さんがダンジョン内外で連絡をとれる技術を開発しただろう? それを踏まえて、各探索者にビーコンを所持させることを義務付けることになるかもしれん。救助、救援はもとより、遺体、遺品の回収に有用ということでな。だが一番の目的は転移罠による被害者の追跡だ。これまではどうにもできなかったからな」


「というと、ビーコン消失となった場合は――」


「ビーコンが破損したか、でなければ異世界……オーマだったか? そこへ跳ばされたということだな」


「……少なくとも、それが知れるだけでも捜索に掛かる費用が削減できますね」


「そういえば、それができるユニットは販売されるのか? スマホに取り付けられるものらしいが」


「どうでしょう? そのユニットの販売は考えていないようですが。ダンジョンからの連絡に関しては、マナクラフトに合わせるつもりなんじゃないでしょうか?」


「現状、ロージーの独占になるのが厄介なんだよな。お隣なんかは外務省に技術を寄越せとか騒いでいるらしい」


「相変わらず面倒臭いですねぇ」


「ま、個人の技術だから国がどうこうできるもんでもないんだがな。特許申請しているわけでもないから、完全な秘匿技術だ。というかだ、オカルト満載の技術なんだ。異世界技術に精通した者でもいない限りどうにもならんだろ」


「そうなると、AUDEAはすぐにでも彼女とまともなコミュニケーションを取りたいでしょうね。もっとも、探索者稼業をしている人物がどれほど技術に精通しているかは不明ですが」


「職業探索者に技術を求めるのは無理だろ。神令さんはシャティさんがいたからこその技術だろう? イオさんがこっちに帰還したのは5年前らしいし」


「イオさんは17歳。ハクさんは16歳ですね。わずか5年でオカルト技術を身に着けたハクさんも大概ですね」


「さてと。張戸。とりあえずはダンジョン内外通信用のスマホの外部ユニットに関して小神さんに確認をしてくれ。シャティさんには魔法書の翻訳の依頼。それと、イオさんに例の探索者の通訳だな。これは通信を介してとなるだろうが、多分、ここJDEA本部でやってもらうことになる。それとだ、これがある意味一番厄介だな」


「なんです?」


「上野ダンジョンの件での詫び入れだよ。本部長が出向くそうだ」


「そこまで大事……あぁ、大事ですよね。宮内庁だのまで動いている以上」


「そういうわけでだ。都合の良い日を確認してくれ」


「わかりました。では、これで失礼します」


「あぁ、お疲れ」


「あ、課長。もうひとつ連絡事項がありました。日下常務ですが、軽井沢に所有している別荘に潜伏しているそうです。小神さん把握していました。なんでも、天使様が監視しているとのことです」


「は!? 待て、どういうことだ!?」


「どういうこともなにも、云った通りです。では、失礼します。お疲れ様でした」



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