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034_上野ダンジョン攻略配信_①


 待機画面代わりに流していた動画が終わる。


 本来ならば、適当なアニメーションなりなんなりにBGMを添えているものだろう。


 いわゆるVtuberというわけではないが、アバターを使った配信をしているのだから、それに順じるほうが無難というものだ。少なくとも私はそう考えた。


 末の妹……あぁ、いや、その後に1体生み出されたんだっけ。とにかく、ライラのあの有様を見て来た以上、実践に置いて無難をを選ぶことは、安定度を考えれば正しいことだ。望んだ結果が正しく得られるのであれば。


 さて、流していた動画はなにかというと、松戸ダンジョンのモンスター紹介動画だ。それこそゲームのモンスター紹介みたいに各種データを添えたような感じに拵えた。


 一応、回収したダンジョンコアから引き出したデータを下に作成したものだから、その内容は正確だ。とはいえ、それを示す訳にはいかないから、すべてのデータ内容に関しては“推定”と記してある。これでなにも問題ないだろう。


 ……思った以上に好評? なのは何故だろう。なんか、JDEAではなく、WDEAからデータ提供のお願いまで来たけど。


 とりあえずデータは映像を送って、握力だのなんだののデータはあくまで推定だから、ということで詳細データは省いておこう。バルクが戦車をひっくり返したとかはWDEAの方でも、かつての遭遇戦で把握しているわけだし、鮮明な映像データさえあれば十分だろう。


 それじゃ、配信を始めようか。



★ ☆ ★



『あー。あー。みんな聞こえているかな? おはようございます。イオ・サラChの裏方のハクです』



:ハクちゃんだ!

:おはよー

:ダンジョン攻略配信だー!



『本日はタイトルにもあるように、上野ダンジョンの攻略のライブ配信です。1フロアが日本最大規模であると同時に、世界でも有数の大規模ダンジョンです。えっと、世界最大規模はイエローストーンダンジョンだったかな? あれ? スフィンクスダンジョンの方だっけ?』



:1フロアの広さだとイエローストーンのほう

:だだっ広いだけで難易度は低いんだっけ?

:確か20層まで踏破済み

:フロアボスが倒せないんだったよね?

:完全な幽霊タイプで物理攻撃が無効らしい



『あー。銀腕ダンジョンと一緒ですか。物理無効だと、魔法が使えないとどうにもなりませんね。魔剣の類があっても、ボス級が相手じゃ削り切る前に殺されるんじゃないですか?』



:銀腕ダンジョン?

:銀腕ダンジョンって聞いたことない

:どこのダンジョン?



『銀腕ダンジョンはまだ未発見扱いですかね。一応、JDEAには報告してあります。……スコットランドはハイランドのダンジョンですけど』



:スコットランド!?

:なんで!?



『そんなの、イオちゃんとサラの出身があっちだからですよ。もっとももう見捨てて逃げてきたわけですが。こっちで探索者ライセンスを取りましたから、そこでJDEAに報告という流れです。GBDEAは面目丸つぶれでしょうね。なにせ自国の未発見ダンジョンの報告を、JDEA経由で知らされた分けですから。そうそう、あの黒竜ダンジョンもあるのはスコットランドですよ』



:うわぁ……

:えっと、意趣返し的な?

:大丈夫なの?



『問題ありませんよ。秘匿していたのならともかくも、遅れはしましたがきちんと報告しましたし。遅れたのも、自称キリスト教団の新興宗教連中との抗争が原因であるとも証拠付きで送りつけてありますからね。

 まぁ、そんな話はともかくとして、本日の配信です。丁度、サラから映像がこっちに届きましたから』


 って、あれ?


『なんで【アダム君】いきなり二人から離れてるんですかね? なんか変なデモ集団みたいなのがいますね』



:あいつら上野に移動したんだ

:前は新宿で騒いでたよな

:そうそう。で、茨ちゃんに叩き出されてた

:英雄様を侮辱するから。茨ちゃんの命の恩人やぞ



『おや、ご存じの方がいるようですね。アレってなんなんです?』


 『茨ちゃん』というのは、JDEA専属探索者の間庭茨さんのことかな? 現日本最高レベルの探索者のハズだ。もちろん、イオちゃんとサラを除いてだ。



:モンスター保護団体の連中

:モンスターは人間の糧じゃない! って掲げてる連中

:元は動物愛護団体だっけ?

:そう、その枠組みを広げた結果がアレ

:過激派ヴィーガンも合流して酷くなってる



『なるほど。でも間違ったことは云ってませんね。モンスターは人間の糧ではありませんからね。人間がモンスターの糧ですから。モンスターは基本、人間を喰らい殺すために生み出されたものですからね。

 あ、イオちゃんが連中に関して首を傾いでますね』


 ということで、イオちゃんに連中が何者なのか教えて上げましょう。丁度スマホで配信を開いているようですし、声を上げれば拾ってくれるでしょう。


 ……。

 ……。

 ……。


 大変なことになりました。まさかイオちゃんがあそこまで過激に反応するとは。連中を人類の敵呼ばわりですよ。



:うわぁ

:イオちゃん云いたい放題

:自〇志願者集団

:秘密結社は草

:一気に胡散臭さ倍増の活動家共



『なにかあったんですかね。彼女が行方不明だった期間の話は聞いていないんですよねぇ。シャティと一緒に帰って来たせいで、エルフショックが大きすぎてそれどこころではありませんでしたし』



:エルフショックって

:実際に会えば分かる。委縮する

:あ、生徒がいるぞー

:囲め囲め!



『生徒さんは慣れてくださいね。気持はわからなくもないですが。猛獣と突然相対するとビビり散らかして硬直するのと同じような感じになりますからね。――シャティは猛獣とはかけ離れていますけど。多分、人生経験の差ですね。彼女と話していると、自分がとてつもなく悪いことをしている気分になったりしているんじゃないですか? もしくはもの凄くちっぽけに思えたりとか。彼女、いいとこJD程度にしか見えませんけれど、年齢は軽く三桁を超えていますからね』



:それだ!

:なんだかよく分かんなかったんだ! 氷解した!

:それほどなのかよ

:わかります……



『なんかシャティに会った人、見た人が視聴者さんにいるみたいですね。まぁ、昨日、電車に乗ってJDEA本部に行きましたからね。イオちゃんとサラもいましたから、周囲の視線が大変でした』



:ハクさんも美人ですよ



『気を遣って戴き、ありがとうございます。――と、イオちゃんたちが移動を始めてますね。以前なら入場料を払って観る光景ですけれど……いまはダンジョン化してしまってますから、セーフということで。

 地表部もダンジョン化しているとのことですが、ここはちょっと特殊みたいですね。魔獣化した動物が動物園として機能していた時と同じ数だけしかポップしないようです。殺されたり、ダンジョン外へと持ち出されるとポップするみたいですね』



:動物園なんて行ったことないな

:いまも運営してるってところあるの

:ほとんど閉園してる

:餌代とか以前に人材不足がね



『戦時と同じような状況になっちゃったんですかねぇ。あ、パンダの話をしてますね。私、パンダって映像でしかみたことがないんですよ。……リバースデスパンダ!?』



:格闘パンダ

:現最強探索者も勝てなかったんだっけ?

:そういや、バルクとどっちが強いんだろ?

:筋肉ダルマ対格闘パンダ!



『一概にどっちとはいえないんじゃないですかね。あ、丁度【アダム君】が先行してリバースデスパンダを映しに行きましたね』


 ……。

 ……。

 ……。



『……あ、あれ? なにか間違ったかな? こんな風に無駄に画角こだわるように設定していないんだけど。どんな自己学習したんだろ。こんな柵の隙間から覗き込む絵面とかなんだか無駄なこだわりがでてない!?』



:なんかハクちゃんが頭を抱えてる

:映像が無駄に凝ってる

:えっと、これAIが撮影してるものなんだっけ?

:実際にはAIとは違うんだっけ?

:オートマタと一緒らしいけど



『【アダム君】は試作機なので。製品版はいろいろと調整します。いや、こんな無駄に映像美というか、演出的な凝り方とは不要でしょうしね。なんで足元から舐めるように映しながら移動して俯瞰映像にまでしますかね。……そういえば、サラが面白がってサスペンスホラー系の映画データとかを読み込ませてましたね。その影響か!!』



:サスペンスホラーwww

:確かにそんな感じの絵面

:アダム君は見た!



『とりあえず勝手に余計なことをしないように調整しましょう。今もイオちゃんに、このまま製品化するとと犯罪にしか使われんと忠告されていますからね。もしくは軍用。軍事転用は多少は諦めますが、せいぜい現状のドローンと同程度の扱われ方くらいに抑えなくてはなりませんからね』



:確かに自己判断する自爆特攻兵器とか怖いな

:中東のほうだと大物退治に使ってるんだっけ?

:費用対効果が酷いから余程の時だけらしいよ

:モンスターは文字通り湧いて出るもんなぁ



『あ、イオちゃんがパンダと遊ぶみたいですね。折角だからちょっとサラに訊いてみましょう。


 サラー。あのパンダってレベル幾つ?』


《リバースデスパンダですか? 少々お待ちを。……えっと、レベル322ですね。地表の魔獣としてはかなり高いです》



『おー。322。視聴者諸君、さっきの質問の暫定的な答えはでましたよ。バルクのレベルは確か500以上でしたから、パンダよりバルクのほうが強いですね。……とはいえ亜種だの特殊個体だのはレベル詐欺な強さをしていることがままあるので、絶対とはいえませんけど』



:レベル322!?

:バルクってそんなに強いの!?

:え、待って、なんでレベルが分かる!?

:そういえば!



『【鑑定】、【解析】、【看破】といった、いわゆる鑑定系の魔法と云うのがあるんですよ。あー……明日、それを魔法として使っているところを見ることが出来るかもしれませんよ』



:え?

:どういうこと!?



『それは明日のお楽しみ。アンテナを張って探しましょうね。と、イオちゃんがパンダとやり合い始めましたね』



:パンダが跳んだぁっ!

:イオちゃんがかわすぅっ!

:胴回し回転蹴りなんて実戦で使うの初めて見た

:パンダ身軽だな

:格ゲーみたい



『あのパンダ、イオちゃんを舐め腐ってますね。レベル差を覚知できないみたいですね』


 さてさて、どんな風になるかな。体格的には双方ともにやりにくいだろうけど。イオちゃんに至っては、殺さないで済ませるようなことを断言しているし。


 私は微かに口元に笑みを浮かべながら、送られて来る映像に集中した。



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