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024_真実と虚実の匙加減_②



+------------------------------------------+

 NAME:Io Kamiyo〔神令 イオ〕

AGE:22 SEX:FEMALE LEVEL:75,235


 CLASS:ASSAULT GUNNER


 ATTRIBUTE:ALTER〔変〕

 TALLENT:DISPLACEMENT〔変位〕/PHASE〔位相〕

+------------------------------------------+



「……いま思ったんだが、わざわざ英語表記をベースにしなくてもよかったかな」

「現状、英語が世界共用語のようになっていますから、問題ないのでは?」

「話者は英語が最大ってわけでもないのにな。そういや今の各国の人口ってどうなってんだ?」

「そこは影響力の差でしょう。それと、人口数の順位はさして変化はありませんよ。中国の実際のところは不明ですが、まぁ、あそこは以前から管理できていない民族が多数いるお国ですからね」

「中国は変わんないねぇ」


 どうでもいいような無駄口をサラと叩く。


 いや、だってさぁ。勝野さんと早田さん、ふたりとも固まっちゃったからさぁ。


 パンパンッ!


 やおらサラが手を叩いた。するとふたりは目を瞬き、姿勢を正した。


「鑑定盤は見ての通りの性能です。現在、DEAで標準とされている鑑定オーブは、本当に最低限の情報のみ表示されていますが、こちらはそれに加え、属性下にある能力まで表示できます」

「まぁ、見えたところで、どうなの? って感じですけどね。分かりやすければ鍛える指針にもなるでしょうが……私のはこの有様ですからね。まともに扱えるのは変位の方だけです」


 【変位】と【位相】ってなんだよ、って思ったからな。実際、いまでも【位相】に関しては完全には分かってねーし。モノの形状を好き勝手に変えられるっていうのも、偶然見つけたようなもんだからな。

 ま、【位相】に関しては秘匿だ。形状を好き勝手に変じることができるっていうのは、厄介事しか呼び寄せないだろうからな。


「ところで勝野さん。そろそろ鑑定結果をメモするなりなんなりして欲しいのですが。この後、サラのレベルの確認もしていただくわけですし」

「あ、いや。これは失礼」


 勝野さんが慌ててスマホで鑑定結果を撮影した。


 プリンターとでも接続できればよかったんだが、さすがにオカルトと科学をケーブルひとつで繋げるなんてことは無茶だった。


 勝野さんは撮影したそれ確認して頷いた。今度はサラだ。



+------------------------------------------+

 NAME:Sara Kamiyo〔神令 サラ〕

AGE:20 SEX:FEMALE LEVEL:32,133


 CLASS:ASSAULT MAGE


 ATTRIBUTE:MENSIS〔月〕

 TALLENT:ARS MAGNA〔魔術〕

+------------------------------------------+



 何故か属性と能力がラテン語表記になってるな。……ラテン語だよな?


 ふむ。レベルは俺の半分くらいか。つか、オーマにいた頃の俺と同じくらいだな。なんでだろ? 本来なら俺なんかよりもずっと上のハズなんだが、この辺りも偽装してんのかね。


 勝野さんはサラの鑑定結果も撮影すると、俺たちのライセンスを預かって一時退室した。


 そして残った早田さんと鑑定盤に関しての話。その過程で、鑑定盤に載せることのできる物品であれば、鑑定可能であると説明した。


 これまでの鑑定オーブだとできなかったんだよ。いや、できなくもないんだが、なにせオーブ、球体だからな。上に載せるのが困難なんだ。そして困ったことに、誰かが手に持った状態だとエラーが出るというふざけた仕様というね。


 なんで融通が利かねーんだよと、オーマにいたときには思ったものだ。そんな状態だったから、解析ルーペを入手した時には狂喜したからな。あれだと手で持っていても、きちんと物品を鑑定できるからな。


 さて、鑑定盤はJDEAが買い取ることは確定した。まだ試験件数が少ないが、問題なしであると早田さんは請け負った。ただ、値段に関してはその価値をしっかりと確定させてからと云うことで、契約は仮契約という形で行われた。


 値段の方は、最低でも現状つかわれている鑑定オーブの3倍以上の値を確約してもらえた。


 尚、鑑定盤は本部組織であるWDEAにも送るとのことだ。WDEAはあれだ、世界保健機関のダンジョン対策版みたいなものだ。


 かなり手早く仮契約をとりまとめ、戻ってきた勝野さんと入れ替わるように早田さんは鑑定盤を抱えて退室した。


「お待たせしました。ライセンスの方は、20分もあれば更新できます」

「お手数おかけします」


 そう云って、俺はあらためて居住まいを正す。


「さて勝野さん、すまないがこっからはざっくばらんに話させてもらう。公的なものではなく、与太話の類として聞いてくれ」

「彼女のこと、ですね?」

「えぇ。あ、彼女ですが、すでに日本人として戸籍を取得しています。イギリスで無国籍者として保護、その後、小神家の養女となっています。小神は神令家の分家筋に当たりますが、遠縁も遠縁なので、すでに一般の家となっていますが」

「よく手続きが進みましたね」

「だから魔術師は怖いんだよ」


 そういって俺は肩を竦めて見せた。すると勝野さんは顔を引き攣らせた。


「私たちを切り捨てた国に未練はありませんので。いえ、手続きを滞りなく円滑に進めただけですから、なにも問題ありません。むしろ、連中が問題を引き起こすことを止めただけですよ」


 そう云ってサラはお茶を口にした。


 そして予めハク、サラと相談して決めた話を伝える。正直、ライラさんが変な設定にしなければもっと楽だったんじゃないかこれ。つじつまを合わせるのにえらく苦労したぞ。


 で、話したことは以下の通り。



・ディバインボルト家の自称キリスト教系新興宗教との抗争。

・抗争の末、ディバインボルト家の崩壊。

・逃亡中、幼い妹を連れた母の負担を下げるため、イオ(5)はひとり離脱。

・離脱後、イオは逃亡の末未発見ダンジョンへと侵入。



「ひとまず、ここまではいいか?」

「はい。で、その未確認のダンジョンとは」

「黒蒸気竜の出所だ。恐らく、地球にも結構な数の未発見ダンジョンがあるはずだぞ。中国、南米辺りはすべてを把握できてない可能性が高い。アフリカは……どうなんだろうな?」

「ダンジョンは人口密集地、食糧生産地、そして聖地のような信仰の地に出現しています。この信仰の地は、人口密集地と混同されていますね。ですが、古くから信仰されていた山などにダンジョンが出現している場合がありますよ。この黒蒸気竜のダンジョンもそのひとつでしょう。場所は英国ハイランド地方の僻地にあります。詳しい場所は後程地図で示します」

「俺が逃げ込んだダンジョンだ。おかげである意味助かったが、ある意味余計に殺されそうな羽目になったがな」


 ここまではすべて虚実だ。正確に云うならば、情報操作により真実となっている虚実だ。広範囲に人の記憶まで改竄してるのだから、バレようがない。本当、ライラさんはなにを血迷ってこんなおかしなことにしたんだ? おかげでその産物の俺たちがえらい苦労をしているんだが。……うん。サラがライラさんに厳しい理由を自覚した気分だ。


 ため息を押し殺しながら、続いて事実を織り交ぜた作り話をする。



・ダンジョンにて転移罠に掛かり、異世界のダンジョンへ跳ばされる。

・命からがらダンジョンから脱出。後に孤児院に保護される。

・貴族に十把一絡げで買われる。

・その後逃走。ダンジョン内にて10年以上を過ごす。



「あの、神令さん? 異世界? 買われる!?」

「荒唐無稽が過ぎるよなぁ。自分で云っててなんだが、信じられる話じゃねぇよ。とはいえ異世界の証拠は今日一緒に来たエルフでわかるだろ。身体検査程度なら容認するが、モルモット扱いするなら容赦しないぞ。

 で、貴族の話だが、有用な属性持ちを政略だのに使うために掻き集めてんだよ。一応違法なんだが、辺境近くの下級貴族なんざ知ったこっちゃないとやらかしてたわけだ。まぁ、そのおかげで鑑定を受けられたんだがな。ついでに余計なもんまで頭の奥から引っ張り出されたおかげで、またしてもダンジョンに逃げ込むってことをしたわけだ」

「それは……」

「いや、俺の身の上話なんてどうでもいいんだ。問題は転移罠だ」

「転移罠は同一ダンジョン内の深層に転移するだけものではありません。ランダムで別ダンジョンへと転移する場合もあります。そして最悪が異世界への放逐となります」

「それを利用して俺はこっちに帰還した。10年以上掛かったけどな。シャティまで巻き込んじまったけど」


 そう。俺が帰還するために、転移罠にあえて引っ掛かりまくっていたとし、そしてたまたま一緒に行動していた依頼人であるシャティを巻き込んだ、としたのだ。


「現状、転移罠に掛かって帰還した探索者は皆無なんだろう? 確実にダンジョンの深層に放り込まれるんだ。最低でもレベル4桁ないと生還は厳しい。俺はこっちに帰るために散々転移罠を踏んだが、最低でも踏んだ階層から50層ほど下に放り込まれる。酷いと100層以上の時もあったな。俺の経験則からだと同一ダンジョンであることがだいたい7割。他ダンジョンが3割ってところだ。で、その3割の中で最悪を引くと異世界のダンジョン行きだ」

「地球の探索者レベルだと生存はまず不能でしょう。私は姉さんに散々鍛えられましたけど」

「ある意味ズルだけどな。ゲームで云うところの姫プレイだっけ? いや、パワーレベリングか? あれに近い感じで俺がキャリーしたからな。浅めの小深深度ダンジョンボスを周回すりゃ、あっという間に4桁くらいにゃなるよ」

「……姉さん、200層超えは浅くありませんよ。ところであのボスって適正レベルは幾つくらいなんです?」

「平均6000くらいの4人パーティで互角じゃないか? ソロなら30000」


 俺とサラの会話に、勝野さんは頭を抱えた。


「黒蒸気竜ダンジョンも、いま云った小深規模ダンジョンもあるのはハイランドだ。後者は3年前に出来た奴だな。公式にはいまだ未発見となっているヤツだ。両方とも大昔に聖地扱いされてた山にある。それも天然洞窟の奥だったりするから見つけるのは至難だ。まぁ、魔物溢れが起きないタイプのダンジョンでもあったから、それも未発見だった原因だろう。後で場所を教えるよ」


 黒蒸気竜のダンジョンは、すでにラミエルがダンジョンコアを設置し造り上げられている。幸い、あのダンジョンは魔物溢れが起こる心配のないダンジョンだ。なにせ、中にいるモンスターである毛玉と鎧鼠は、屋外に出ないタイプのモンスターだからだ。そしてボスはダンジョンから離れることはできない。


 そういや、赤毛玉の数が増やされた上に酷い強化がされたらしい。毛針とその毒をギンピギンピと同レベルにしたって云ってたな。ハク……さすがにえぐすぎないか?




 ※ギンピギンピ。微細な棘を持つ野草。その棘は微細すぎて刺さったら抜くことが出来ず、最悪、2年以上痛みに苛むことになる。これにより自殺者もでているという話(真偽不明)もある。




 そしてもうひとつの小規模深深度ダンジョン。こっちはおそらく3年前に生成されたものだろう。内容は非実体系モンスターのダンジョンであるとのこと。いわゆる精霊とか幽霊の類の巣窟だ。魔獣型でも非実体であるモンスターはダンジョン外へとでることが出来ないため。魔物溢れの心配はない。だがその分、攻略難易度は非常に高い。


 実際、ボスがかなり厄介だ。本体と云えるものは“銀腕ヌァザ”の左腕。神話に登場する神様の左腕のみなんだが、この腕の権能というのが英霊召喚的なものなのだ。


 つまり、ボスは召喚された古今東西の英雄の霊となる。それもボスに相応しいレベルで出現するから、その動きと攻撃方法がゲームじみた有様になっているとのこと。


 尚、“左腕”はオブジェクトであるため、破壊は不能だし取得もできない。召喚された英雄を倒した時点で攻略終了となる、少しばかり奇抜なダンジョンだ。


 神話の英雄なんかと戦える可能性があるってなると、一度行ってみたくもあるんだが、真っ当な方法で渡英なんぞしたら面倒なことになりそうだから、ひとまずは諦めだな。


 勝野さんが顔をあげた。なんだか一気に老け込んだようにも見える。


「まぁ、いまの話は与太話と思ってください。とはいえ、エルフが実在している事実は変えようもないんですけど」


 口調を丁寧に戻して言うと、勝野さんは今度は天を仰いだ。


「そちらがどう扱うかはお任せしますよ」


 俺は言葉を戻して勝野さんにそう云った。


 いや、こっから先はどうにもできないからな。報告はした。処理はお任せだ。ただ問題があるとすれば、その結果次第でライラさんがやらかしやしないかということだ。


「とりあえず、転移罠の危険の可能性については周知しましょう」

「お願いします。もしかすると、私同様にオーマからこっちにとばされる者がいるかもしれません。言葉の通じない時代錯誤な恰好の探索者を保護した場合、連絡ください。私の活動していた辺りの者であれば、通訳ぐらいはできますから」

「あぁ……。その可能性もあるのか……」


 勝野さんが再度頭を抱えた。


 そりゃそうだろうなぁ。その可能性がある以上、上、WDEAの方に報告を上げなくちゃいけない。もちろん、国の方にも報告する必要があるだろう。


 が、それをどうやって信じさせるかということだ。


 シャティがいるとはいえ、コスプレだのなんだのと疑惑を持たれるだろうし、耳は証拠にもならんからな。整形なんて技術が発達している以上、耳を伸ばして尖がらせることくらいできるだろうし。


 俺とサラが顔を見合わせ、示し合わせたように肩を竦めていると実川さんが戻ってきた。


「オークションの……勝野さん、どうしました?」


 書類をまとめたファイルを手に、実川さんがこの状況に驚き目を見開いていた。


「知らない方がいい世界の事実を知りましてね……」

「一体何が? 早田さんがスキップしてるのを見て驚きはしましたけど」

「あのオカルト技術オタクは……。きっと名称以外不明の物品の鑑定ができることに浮れてるんでしょう」

「あぁ……」


 実川さんがどこか諦めたような声をだした。


 どうやら早田さんはある種の問題児であるようだ。


「神令さん、オークションのほうの手続きは問題なく完了しました。JDEAのオークションサイトの登録も完了しています。開始日は再来月の一日(いっぴ)、5月1日を予定しています。それで現物の方の引き渡し日時など細かいところを決めたいのですが、お時間の方はまだよろしいでしょうか?」

「問題ありません。姉さんはどうします?」


 サラが問うて来た。


「俺がいても置物になるだけだろ。辺りを散策でもしてるよ。終わったら連絡くれ」

「わかりました」


 サラの返事を聞き、俺は席から立った。みっともなくならないように席を立つのにも、念動を使わなくてならないというのは少しばかり面倒だ。

 このちっこい幼女ボディはこういうところが大変だ。


「あ、そうだ」


 ひとつ聞いておかなくてはならないことを思い出した。


 ボソっと俺が声を出すと、皆が動きを止めた。


「どうしました?」


 勝野さんが、それこそこれ以上の衝撃的な話はやめてくれと云わんばかりの不安を滲ませた表情をしていた。


 だが俺は容赦なく、俺にとって大事なそれを聞かなくてはならない。


「いえ。先日、お茶請けで頂いたあの最中。あの最中のお店の場所を教えてくださいな。ここから近いのであれば、ちょっと寄ろうと思いまして」


 そういって俺はにっこりと笑みを浮かべて見せた。



※ストックが尽きました。今後は不定期となります。

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