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023_真実と虚実の匙加減_①


 ハクがあれこれ予定を立て、週明けの月曜日に4人でJDEA本部に足を運ぶこととなった。


 向かうのは俺、サラ、ハク、そしてシャティだ。


 今回はやることが実のところ結構ある。というか、話をつけた件を一気にやってしまおうというわけだ。


 ちなみに。人としての活動速度ではどうにも手が回らないと、ハクが天使をひとり……ひとり? 一柱? とりあえずひとりとしておこう。ひとり増員した。


 サラクエル。通称はラク。


 彼女は各種連絡役やデータ処理関連を担当する。本日は留守番だ。


 見た目はクールビューティな眼鏡女史なのだが、その性格はほぼ真逆ののほほんおっとりとした性格だ。

 なんでそんな外見と中身がマッチしない有様になっているのかを聞いたところ、やはりライラさんの趣味が原因なようだ。


 うん。ダメだあの人。そのウチ大変なことになるんじゃないか。ボコボコにされても知らんぞ。いや、すでにレミエルとラミエルに殴られているんだったか。


 とりあえず、無理してライラさんの云う通りの恰好でなくていいと云ったところ、文学少女みたいな落ち着いた感じになった。尚、コーディネートはハクだ。


「とりあえず、あとでライラを殴って来る」


 と、ハクが息まいていた。


 さて、今日行うことは次の通りだ。



 ①:ロージーとマナクラフトに関しての契約(ハク担当)。


 ②:ロージーが用意した錬金術師候補とシャティの顔合わせ。


 ③:JDEAとのオークション関連の契約(サラ担当)


 ④:JDEAとのその他諸々(俺担当)



 となっている。ハクとシャティ、俺とサラと分かれての仕事となるだろう。


 俺のやることが粗雑だが、これはJDEAに鑑定用の魔道具の販売。そしてなによりオーマ関連の情報の提供を行うことになっている。きっと担当の張戸女史、いや勝野課長かな? は胃が痛くなるに違いない。なにせ否定したくとも、否定できない証拠がのほほんとしているからな。


 まぁ、そんなわけで信用されるのではなかろうか。あと転移罠の危険性も報せておかないとな。恐らく、転移罠で行方不明となった者の幾人かは、オーマのダンジョンに放り込まれて死んでいる筈だ。そしてそれ以外は、ダンジョン深層に放り込まれて、やはり死んでいるだろう。


 深深度ダンジョンはレベル5桁でも突破は厳しい……というか、攻略したヤツがひとりもいないからな。継戦能力が足らずに撤退せざるを得ない。


 確か、520層あたりまで潜ったのが最高だったか。俺が冒険者をしていたころには既に死亡していたかつての“頂点”のひとりだ。


 そんなところに地球の探索者が放り込まれようものなら、生還は不可能だろう。


 ま、ソレに関してはJDEAというか、WDEAそのものが行方不明者の生還を諦めているだろうから、問題ない……ってわけでもないが、どうにもならんな。



★ ☆ ★



 俺たちは通勤ラッシュも過ぎた9時過ぎに電車に乗り、JDEA本部にまでやって来た。シャティがやたらといろんなものに興味津々であるため気が気じゃなかったが。


 いや、シャティ自身は元々異常に警戒心が強く、基本引き籠りであるからアグレッシブなことはないんだが、さすがに科学で発展してきたこの世界には惹かれるものがあるようだ。なにせ連れて来た時に真っ先に興味を持ったのが足元のアスファルトだったしな。


 自然の無さが心配だったが、とりあえずは問題なく過ごしているようだから安心してよさそうだ。


 さてと、先ずは張戸女史を呼ばねば。


 俺は受付に向かうと、受付嬢と向き合える高さに合わせて体を浮かせる。おかしいと思われそうなものだが、なぜか意外と気付かれないものだ。


「失礼。本日、探索者支援課の張戸女史と約束をしている神令イオだ。張戸女史をお呼び頂けないだろうか?」

「は、はい。只今確認します」

「よろしく頼む」


 受付嬢は内線をかけ始めた。もうひとり受付嬢がいるが、どこを見て――あぁ、シャティか。ここに来るまでは耳を隠してたが、いまは出してるからな。


 あれ、かなりストレスになるらしいしな。


 受付嬢から確認が取れた旨を知らされ、待つこと暫し。


 張戸女史が慌てたように小走りでやってきた。やってきて……そして顔を強張らせた。


 あぁ、うん。原因はシャティだよな。エルフが実在するなんて思ってもいなかっただろうし。なによりエルフ……というか妖精族の連中は、見ただけで人間とは違うって本能的に理解させられるから、コスプレとかじゃないってわかるんだよな。


 当のシャティは彼女の反応に、不思議そうにしてるが。


「おはようございます、張戸さん。本日はよろしくお願いします」


 とりあえず、固まったままでは話がすすまん。


「はっ! し、失礼しました」

「きちんと事情は話ますからご安心を」


 かくして、私たちは応接室? へと案内された。


 あ、そうそう。ハクも自身の身分をでっちあげたそうだ。「ライラにしてやられた」とため息を吐いていた。


 小神(こがみ)ハク、21歳。日本生まれの北欧人クォーターという設定だそうだ。一応、神令家の遠縁ということになっているらしい。






 応接室に通され、ややあってハクとシャティは別室へと移動。そっちでロージーとの契約の話となる。あぁ、それとJDEAもか。マナクラフトはEXP同様に、探索者用のガジェットととして販売される……ハズだ。


 ただあの仕様のままだと、どうしても普通に一般販売は問題な代物となること請け合いだからな。ステルス機能がヤバすぎて。そのことについてはハクに云っておいたから、ダウングレード……というか、機能そのものを外すこととしている。


 偵察代わりに先行させるような使い方は出来なくなるが、元より映像記録用、或いは配信用の機材であるのだから、問題あるまい。


 で、俺たちのほうだ。


 ハクたちと入れ替わりで、探索者支援課課長の勝野(かちの)さん。そして備品開発課課長の早田(さなだ)さんと広報の実川(みかわ)さんの3名が応接室に入って来た。


 まずはオークションに関して。この担当は実川さん。こっちは簡単に話がついて契約も終わった。なにせ俺たちが金に執着していないからな。それにJDEA側もアコギなことはしていないし。というか、10パーは相場よりも安いんじゃないか?


 ドラゴンの出品数に関することも取り決めて、こちらはひとまず終了。実川さんは早々に退出した。


 30分と掛からなかった。思ったよりも早く済んだ。これでサラのお仕事は完了かな。後で商品の最低値とか、ブツの搬入に関しても決める必要がある。それはこっちの案件が終了後、改めて決める予定になっている。


 次は装備……というよりは備品に関することだ。これは気になっていた鑑定用の魔法具に関してだ。これに関しては押し売るような感じになってしまっているが、一応、事前に話だけはしておいた。


 いや、だってなぁ。地球の標準品があまりに粗悪すぎてなぁ。


 ということでの押し売りだ。ついでに形状も変更した。


 オーマでも地球でも、魔女の水晶玉みたいな形状の鑑定魔道具なのだが、実のところ地味に使いにくいのだ。なにせ鑑定内容がオーブ内に浮かび上がる仕様であるため、見にくいのだ。なので、扱いやすいように俺が魔改造した。形状だけだがな。


 ひとつ問題があるとしたら、地球、オーマ、双方ひっくるめても、この形状に魔改造できるのが俺しかいないってところか。あぁ、いや。自宅のダンジョンコアに登録したから、複製は可能にはなっているから、ある程度の追加注文は受けるつもりだ。


 俺は持ってきていたキャリーバッグから鑑定ボードを取り出した。サイズはまな板サイズ。数は全部で10枚だ。


 魔改造といってもやったことは簡単だ。見た目はデカいスマートフォン。チタン合金で側をつくり、鑑定の術式を刻んだ魔石をきっちりと埋め込んだだけだ。左側に手を置くと、右側に鑑定結果が表示されるように調整してある。

 手を置く側と表示側が分からなくならないように、中央表面に仕切りをつけ、左側には掌の線画を記しておいた。左手の画となっているが、別に右手を置いてももちろん問題ない。


「試験の際に気になったので、まともな鑑定具を持ってきましたよ。不要であれば持ち帰りますが」


 サラがテーブルの上のお茶を脇に除けてくれたので、その空いたスペースに鑑定盤を置いた。


「見ればわかると思いますが、手形を記してあるほうに手を置けば、反対側の画面に鑑定結果が表示されます。その際、表示は逆様に表示されます。

 業務上、そのほうがいいでしょう? 正しく見たいのならば、向きを変えて右手を載せて鑑定すればいいだけですし」

「試してみても?」

「どうぞ。形状は違いますが、基本は鑑定オーブと変わりませんから」


 【位相】はこういう加工ができるから本当、便利だよなぁ。面白がって訓練しまくったこともあるが、やっぱり金策の為に剥ぎ取った装備の修繕をしまくったのがでかいな。身につまされてやるほうが技術は上達するってもんだ。


 早田さんが手を置き、表示される鑑定結果に頷いている。次いで勝野さんも手を載せた。


 って、勝野さんレベル91じゃん。山常のバカよりも遥かに強いぞ。


「姉さん、カードの方のレベル表記をしてもらったらどうでしょう?」

「んー? もうすこしきちんと検証してもらってからのほうが良くないか? まだしっかりとした信用を得られてないだろ」

「そうですが、ダンジョンに入る際に、いちいち揉めるのは面倒ですよ。松戸はすんなりと通れましたが、他所もそうとは限らないでしょう?」

「……レベルが表記されても揉めそうだけどな」

「そういう時は、証拠として殴り飛ばせばいいんですよ。空を舞えば理解するでしょう?」

「なんで俺より過激なんだよ。そうじゃなくて、ここで俺のレベルを示したら、それこそ鑑定盤がバグってると思われるだろ」

「大丈夫です。バグッてるのは鑑定盤ではありません。姉さんの方です。より正確に云えば、“頂点”と呼ばれるようになる連中全員です」

「……それは、否定できねぇな。俺も含めて、みんなどっかしら狂ってるし」


 視線をサラから戻すと、勝野さんと早田さんが俺たちをじっと見ていた。


「……興味あります?」

「興味と云うか、管理の都合上、レベルが不明のままと云うのはあまりよろしくない状態です」


 あー。そういや、現代日本は管理社会だもんなぁ。まぁそれでも、その網を抜けて好き勝手やってる連中はいるだろうけど。


「私たちの場合は、レベルが判明すると別の意味で面倒事になりそうですね」


 サラ、本当にどうした? もしかして小宮間とのトラブルで思うところでもあったのか? まぁ、いーか。


「サラ、いいじゃないか。俺たちはある意味、今日、ここに爆弾を落っことしにきたようなもんだぜ。もうすでに、シャティを連れてきたって時点で大騒ぎになってるだろうよ。張戸さん、驚き過ぎて受付のふたりに口止めしてなかったからな。あのふたりの倫理観によるだろうが、そうでなくともエルフの存在は広まるだろ。人の口に戸は建てられんからな」

「それに関しては諦めています。すでに配信に映ってしまいましたしね」

「あれだけならコスプレと云い張ることもできたんだけどなぁ。マナクラフトのこともあるからな。諦めるしかないだろ。促成で錬金術師を育てなきゃならねーんだから。

 さてと、それじゃ私のステータスを確認してください。この鑑定盤は6桁まで判定できますから、問題なく私のレベルも表記されますよ」


 そう云い添えて、俺は鑑定盤に左手を置いた。



※次回は明後日となります。

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