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022_配信をしよう_④


 テクテクと洞窟内を降りていく映像が続く。つか、ここはほぼ編集無しなのかよ。まぁ、演出にはいい感じなのか?



:スロープ長いな

:地下駐車場が101層と102層だろ? いま何層だろ?

:スケルトンがいる場所がフロア扱いだろうから

:えっと、105層くらいか?



「あー、ネタバレになるが、このダンジョンは全108層だ。煩悩の数と一緒だな」

「偶然なのか必然なのかは分かりませんね」

「なんだろうな。煩悩とアンデッドはまるっきり関係ない筈なんだが、なんだかつながりがあるように思えるよな」

「……同じオカルトだからじゃないですかね」

「それいったらサラもオカルトだぞ。魔法なんてオカルトそのものだし」

「……え」

「どした?」

「私、オカルトですか?」

「魔法がオカルトだな。だから魔術師なサラはセットでオカルトみたいなもんだってことだ。そもそもの話、ダンジョンができるまでは世界にゃ超能力者なんてのがちらほらいただけだ。それもスプーンを曲げられます、なんて程度のものから、殺人犯特定します、なサイコメトラーくらいまでの。それを考えたら、魔法なんて御伽話からでてきたオカルトそのものだよ」



:確かに

:ダンジョンからでるマジックアイテムとかそれだな

:火急の小杖とかな

:魔剣なんてのも何本かでてたよな

:魔剣 (なまくら)な

:だれでもちょっと使ってみたく思うしな



「なんだか忙しなさそうな魔法の杖の話が……」

「サラ、それただの誤変換だ。火急じゃなくて火球。ファイアボールな」

「あ、なるほど。……日本語は難しい」

「それは……なにか違うと思うぞ」



:草

:wwwww

:サラちゃんはポンコツなのか?

:まだ日本語がそこまでじゃないんだろ

:そういやスコットランド人



「いえ、日本人です。日本語はまだ怪しいところがありますが。向こうの血は捨てました。私たちが死ぬことを是としたモノに未練はありません。

 あと日本語が若干おかしいのは、使う機会がまったくなかったためだと思います」


 お、おぉぅ。ここで設定をぶち込んで周知させんのか。……計算してやってるのか天然なのか分かんねーな。


 ……なんかハクが“やれやれだぜ”みたいなジェスチャーをしてるが。



:え、なにがあったの

:死ぬことをぜ?

:多分、死ぬことを是

:死んだところで一向に構わん、ってこと

:スコットランドでなにがあったんだよ



「向こうの実家が全員殺害され断絶しただけです。生き残ったのは私と姉だけですね」

「サラ、その辺にしとけ。話題にすると面倒事が寄って来る。ほれ、最下層に着いたぞ」

「あー。丁度ボス戦ですね。これまで通り、たいして面白みも無く終わりました」

「身も蓋も無い云い方するなよ。あれでもレベルは4桁あったんだぜ。まぁ、俺たちからすればザコだけどさ」


 映像では、飢者髑髏が縦一文字に魔法の楔を打ち込まれていた。



:なにあれ!?

:巨人スケルトン!!

:あんなのがいるのか

:でっか!

:下半身がないのになにあのサイズ

:って、一撃で終了した

:えぇ……

:弱い?

:弱いわけあるか、すくなくともバルクより上だろ

:ダンジョンボスだもんなぁ

:ザコより弱いわけが無いな



「あー、あれ、巨人じゃないぞ。いや、巨人なのか? 詳しい人、教えてくれ。飢者髑髏ってアンデッドにはいるのか? 妖怪の類はアンデッドとは思えんのだが」「まぁ、ダンジョン的にはアンデッド扱いなんでしょうねぇ。こうして出てきましたし」



:飢者髑髏!?

:我者髑髏はアンデッド?

:どうなんだろ?

:そもそも飢者髑髏って創作じゃなかった

:妖怪なんて元々伝承の類だから創作といえば創作だろうけど

:飢者髑髏って伝承じゃないしなぁ

:え、そうなの?

:口裂け女と同類

:都市伝説で創られたやつだな



 あー、やっぱり不明か。となると、元ネタとなったダンジョン生成時の犠牲者の趣味的なものだな、これ。


 って、サラ、嬉しそうに“なるほど、これが誤変換”とか云うなよ。


 そして画面には縦真っ二つに頭蓋を割られ倒れ往く飢者髑髏。露出した頭蓋内にあったデカい魔石と心臓の位置の魔石のふたつを手に取り、サラが不適な笑みを浮かべつつ頽れる飢者髑髏の前にスタッと着地した。


 こうして見ると、完全に特撮モノとかの1シーンだよなぁ。ただ両手にデカい魔石なんて絵面だから、微妙に締まらないが。ひとつだったらいい感じだったんだがな。


「これで松戸ダンジョンの攻略は完了です。所要時間は4時間くらいでしたか」

「まぁ、のんびり歩いてたからなぁ。そういや、ボスのリスポーンがえらく長かったな」

「2時間半ですね。おかげで7時間近くダンジョンにいることになりましたよ」

「サラが俺が倒すところも見たいとか――」

「なにしてるの?」


 急に背後から覆い被さられた。


 俺のクビに腕を回し、左肩に顎を載せるようにシャティがしがみついている。



:誰!?

:髪の毛が緑?

:耳尖ってる

:え、エルフだー!

:え、マジ

:どういうこと



「シャティ―、ふたりはいま仕事中だからこっちおいでー」

「……わかった」


 ハクに呼ばれ、シャティは離れるとトコトコとハクの方へと歩いて行った。


 って、いつのまにやら画面が元に戻って、俺たちだけが映ってる。そしてその背後を移動するシャティ。


 いや、どうすんだよこれ。コメント欄がえらいことになってんだが。


「シャティさんは今後、JDEAの方で講師をすることになっています」

「え、もう決まったのか?」

「返答はありませんが、断られてた場合、ウチでやることになります。単にマナクラフトの利権に噛ませないと問題がありそうなので声掛けしただけですから。断られたら、当方と企業だけの話になるだけです」

「あぁ。それならよほどの阿呆じゃなけりゃ断らんわな」

「ちなみに、今回のダンジョン攻略の撮影をした機体がこれです」


 サラが脇に置いておいたであろう、マナクラフト【アダム君】(サラ命名)を目の前においた。


 どう見てもドイツ軍ヘルメットなんだよなぁ。


「これの制作には科学だけではなく、オカルトも必要なのです。ですので、その方面の講師としての彼女です。生徒は見つかったと企業から連絡をもらったので、一般向けの……汎用機? 量産機? の開発がはじまりますね」

「おー。才のあるやつが見つかったんだな」

「はい。強制されるでしょうが、同時に昇進も約束されたようなものですから、問題ないでしょう」

「もしかしたら、いま視聴している中に心当たりのあるヤツがいるかもしれないな。打診されていたら、きっとこの配信をみているだろうしな。まぁ、覚悟しておくといい。『分からないじゃない。分かれ』とかいうからな、シャティは」

「私はそんなことは云わない」


 シャティが即座に否定した。


「無視して進める。つまり見捨てる」


 酷い答えが続いた。


「コメントが阿鼻叫喚ですね。草もたくさんですが」

「おかしいな。昔は当たりがもっと優しかったハズなんだが……なにかあったか? ……いや、昔からロクでもない輩に絡まれてたからな。限界が来たのやもしれん。生徒になる連中、浮ついた気持は持たずに真面目に学べよ」



:お、おぅ。いや俺は生徒じゃないんだが

:美女だったしな

:あぁ、美人は幸運か不運かに全振りになるから

:そういやエルフってよく酷い目にあう話が

:エロ系の話はやめろぉ

:こ、心して講義を受けさせていただきます

:え、生徒がいる!?



「なんかコメント欄がカオスになってきたな」

「そうですね。雑談でもしようかと思いましたが。終わりにしましょうか」

「あぁ、そうだ。飢者髑髏だが、現在JDEAにて査定中だ。なにせ魔獣型だ。ドロップは飢者髑髏そのもの、つまりデカい骨格標本だ。あんなもんあっても邪魔だからJDEAに売り払うことにしている。2体分。もし欲しいなどという者がいるなら、JDEAに問い合わせてくれ」

「いるんですかね。全高20メートルの骨格標本を欲する人って」

「あれ素材になるんかなぁ。肩甲骨を盾に、大腿骨を戦槌にとは冗談で云いはしたが」

「そういえば、頭蓋をカチ割ったのに、ドロップした頭蓋は無傷でしたね。埋まってた下半身分もでてきましたし。あのダンジョンは微妙におかしくありましたね」

「そういや、なんで頭蓋は直ってたんだろうな。まぁ、考えるだけで無駄か。そもそもあのダンジョン、アンデッド共がみんなゲームだか映画仕様だったしな」

「まぁ、考えても分からないことですし、ダンジョンの不思議と割り切りましょう」

「考えるだけ無駄だしなぁ。そろそろいい時間だし、〆るか」

「そうですね。雑談でもと思っていたんですが、シャティさんのことに終始しそうですし。本日はここまでと云うことで。次回はテストを兼ねて、ダンジョン攻略のライブ配信を行う予定です」

「ダンジョン攻略の垂れ流しって、冗長になりすぎやしないか? コメントへの反応も無理だろうし」

「そこはハクに実況を丸投げです」

「……ハク、すまん。俺ではサラを止められん」


 ハクの諦めたような声が聞こえてきた。


「それでは――」

「ただいま。お腹空いた」


 俺とサラの間に、ニュっとゼルエルが割り込んできた。ダンジョンコアの挿げ替えを終えて来たようだが……あーあー、またしてもコメントが大変なことに。


 そらそうか。黒髪黒翼の天使様が急にフェードインしてきたらなぁ。思いっきり翼がでてるし。奇抜な天使の輪っかも回ってるし。映っていないだろうけど、宙に浮いてもいるし。


 遠い目をしていると、サラが慌てたように配信を終わらせ頭を抱えていた。


 さすがに想定外だったようだ。


 さて、コメントは……うん、見たくも無いな。


 いや、どうすんだこれ?






 まぁ、始末はサラに任せるか。


 俺は席を立つと、ゼルエルを連れてキッチンへと向かった。



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