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016_松戸ダンジョン攻略_①


 武蔵野線新松戸駅で降り、テクテクとのんびり徒歩で移動。


 散歩がてら寄り道しつつ歩くことしばし。やって来たぜ松戸ダンジョン。


 つーか、マジで人いねぇ。


 まぁ、それもさもありなんか。ダンジョンエリアとされた区域に入ってから、数分と経たずに死臭と腐臭が漂い始めたし。


 こんな有様じゃ人も寄り付かないし逃げもするわな。もともと住んでいた住人の大半は、ダンジョン生成災害の際に殺されてるだろうし。人の退去も国がどうこうせずともされただろう。


 誰だって死の危険の高い場所で生活したいとは思わんだろうし。


 そういや世界人口だけど、俺が死んだ2000年頃は確か60億人だったか。それから四半世紀経った現状は、30億人に至らずだってんだから、被害がどれだけ酷かったかが分かるってもんだ。


 とはいえだ。


 ダンジョン管理事務所が見える場所まで来たわけだが……店がひとつもない。大抵のダンジョンでは、周囲に探索者向けに企業が出店しているところが多い。装備やら消耗品はもとより、飲食関連に宿泊施設とあるものだ。


 だがここは、管理事務所のみが活動しているだけだ。


 ダンジョンは松戸駅西口の……高架……じゃないな、あぁ、あれもデッキっていうのか。そこに出現している、入り口は二階部分の吹き抜けになっているところから入るらしい。


 みたところ、デッキ部分に3、4メートルほどはありそうな、コンクリート製の壁が造られている。


 その光景はちょっと異様だ。


 さっそくダンジョンに、と行きたいところだが、まずは事務所へと向かおう。


 事務所は以前スーパーマーケットだったビルだ。一階部分が事務所となり、2階以降にJDEAの探索者支援ショップが入っている。


 まぁ、用はないな。必要なものはすべて自作している。装備はもちろんのこと、携行食もだ。もっとも、携行食は食物というよりは薬のようなものだ。


 いや、ダンジョンでもっとも厄介なのが排泄事情だからな。小ならまだしも、大となると無防備もいいところだ。


 各等級損傷復元薬いわゆるポーション、疾病退散薬(感染症完治)、解毒薬、MP回復薬に加え、栄養剤は必須だ。


 栄養剤さえ飲んでいれば、活動するのにまったく問題はないうえ、小便以外の排泄は気にする必要がなくなる。というか、これさえ摂取していれば、残りの人生生きていける程だ。まぁ、そんな選択をしようものなら食事不要となるわけだから、味気ない人生にしかならんが。


 だがダンジョン探索中の携行食としては最高の代物だ。排泄時の心配が無くなるようなものだからな。


 ダンジョン周辺を軽く見て回ってから、事務所へと向かった。


 時刻は昼近く。だが事務所内はやたらと薄暗かった。


 もともと大型スーパーだったビル。事務所としてはその一部しか使っていないようなものだし、まるまる灯りを付けるとなると色々と無駄なのだろう。


 ガラス張りの二重扉をくぐり、事務所内へと入る。つか、扉のスーパーのロゴはそのままなのか。一応、テープで簡単に潰されてはいるが。


 やたらと芳香剤の匂いが鼻につく。まぁ。仕方ないか、場所的に。


 事務所内に入ると、簡易に設えられたやたらと横幅のあるカウンターの所には、ポツンとひとりだけ受付の職員が座っていた。


 姿は見えないが、奥にあとふたりいるようだ。


 ……3人だけで事務所を回してるのか? どんだけ人気がないんだここ。事務所の3人と、ダンジョン入り口にいた警備兼入ダン管理の職員を合わせても、10人もいないぞ。


 探索者に至っては俺たち以外にいないが。ダンジョンに潜っている……のはいないんだろうなぁ。


 なにせ受付の女性は、俺たちふたりを見てびっくりしているし。


 ……俺の幼女さ加減に驚いているわけじゃないよな?


 ライセンスを提示し、ダンジョンへと潜る旨を伝える。


「あの、レベル表記が“ERROR”となっているのですが?」

「えぇ。JDEAの鑑定オーブでは測れないようでしたね。もっと上質のオーブを用意することをお薦めします」

「はい?」

「あのオーブでは、一定レベル以上はの者は測れないということです」

「え?」

「あのオーブ……というか、ここにも同じのがあるな。それ、3桁までしか測れないみたいなんだわ。だから上限は最大で999……物によってはそれ以下の低い数値で頭打ちになるな。

 もっと質のいいのを発注するか、ダンジョンから産出された鑑定アイテムを使うんだな」


 目を瞬かせてんな。


「なぁ、サラ。もしかして廉価品しか出回ってないんじゃねーの?」

「この様子だとそのようですね。どうしましょう? ウチで販売しますか?」

「マナクラフトとはジャンルが違い過ぎね? まぁ、どうとでもなるか」

「あ、あの、発注というのはどういうことでしょう?」


 俺とサラは顔を見合わせた。


「……なんてこった。冗談じゃなしにまともな錬金術師がいないのか?」

「もしかすると秘匿……いえ、意味がありませんね。だとしても鑑定オーブくらいまともなものが出回ってるはずです。それなりにダンジョンから産出すると思いますし」

「ダンジョンが出現して25年も経っててこれって、マズくないか?」

「マズいですね。ハデスト仕様の弊害でしょうか? ……仕方ありません。最低限の備品に関しては、私たちでテコ入れしましょう」

「ハクに丸投げ?」

「えぇ。そのためにいるのですから、使い倒しますとも」

「……あとで労ってやろう」


 なんでサラはこんなにも姉天使に厳しいんだ?


「あ、あの……?」

「あぁ、気にするな。なに、近いうちに状況はマシになるってことだ」

「なんとか年末ぐらいを目途にどうにかしましょう。“神令”の名がありますので、半年あればどうにでもできるでしょう」

「本当にハクに丸投げかよ」


 意外に傍若無人なサラに、俺は思わず苦笑した。


 更衣室を借り、着替えてダンジョンへと向かう。装備はいつもの通り。昔と違うのは、両手共に得物はショットガンとなっているところだ。


 サブウェポンとしてタングステンカーバイドのカランビットナイフと、チタン合金のダガーナイフ。もちろんどちらも自作品だ。


 特にダガーナイフにはミスリルで手を加え、簡易の魔法触媒にしていある。まぁ、魔法辞書はつけていないから、俺が必死に身に着けた魔法しか使えないが。


 そしてサラはというと、黒褐色のワンピースに鍔広の帽子。見た目的にはそこそこ高位の聖職者っぽくも見える。だが鍔広帽子のせいもあって、魔女っぽくもみえる。尖がり帽子ってわけでもないんだがな。


 そして手には分厚い書物。これがサラの魔法触媒だ。ちなみに、金属製。アルミとミスリルを使って拵えた。同サイズの書物と同程度の重量にするのに苦労した。


 ふふふ。各ページにしっかりと魔法論理を記すという、凝りに凝った一品だ。


 ……天使様には不要だと思うんだがな。というか、実際不要らしいが、フェイクとしては必要だ。そして書物型となったのは、サラの熱烈な要望からだ。


 いまにして思うんだが、サラ、なにかしら間違った人類文化情報を覚えているんじゃないだろうか?


 駅前に戻り、階段を昇る。


 そういや、警備の連中を解析してなかったな。えーっと……。


 ……。

 ……。

 ……。


 ふむ。これはどう判断したものかな。


 全員探索者に非ず。が、きちんと訓練を受けた戦闘員とみていいな。自衛隊員の出向か?


 まぁ、探索者と一般人の違いは、レベルによるバフを受けているかいないかだけだ。


 だから、有象無象の探索者と職業軍人をくらべたら、職業軍人の方が強いなんてことはよくあることだ。


 ……つか、何人かは山常より強いじゃねーか。無手同士で戦ったら、確実に山常はなにもできずに負けるぞこれ。【力】を使えばどうにか……いや、いなされて終わりだな。


 ほんと雑魚だな山常。なんであんなのをJDEAは専属探索者にしてたんだか。


 ダンジョン入り口となるゲートにライセンスを翳し、ダンジョンエリアへと入る。


 なんだか物々しくなった自動改札みたい……いや、こうして物々しくしたことで、ゲートとなってるんだろう。


 一応、すぐ側には職員が待機している。


 サラがいうには、魔物溢れ時にゲートを開放するのが役目の人、とのことだ。


 普通は固く閉ざすんじゃないかって?


 いや、それだと逃げてきた探索者を外に出すのに、若干ながらも時間が掛かるだろ? だから魔物溢れ時はゲートの開放をすることが決まっている。例外は、探索者がダンジョン内に誰もいないと確定している時のみだ。


 それに、ゲートを開放することで、そこから魔物どもは押し合いへし合いしながらも順繰りに、多くとも2、3匹ずつでてくることになる。そのくらいなら警備員や、待機している探索者たちで十分対処できるというものだ。


 警備員たち、普通にアサルトライフルを担いでるしな。ここは南米か中東かと思ったくらいだ。


 俺が死んで25年余りで、日本の法も大分変わったもんだ。まぁ、全部ダンジョンのせいなんだが。


 ゲートを通り抜け、本来ならデッキの吹き抜けとなっている部分へと進む。


 周囲を壁で覆われたそこは、まさにビルの屋上だった。正確には、ビルの屋上を模した、ダンジョンの出入り口部分。


 ……。


「サラ、こっから会話はフォラゼル語な」


 そうフォラゼル語でサラに伝える。


「なぜです?」

「それで録画するだろう。問題のあることを話したら不味いだろ」

「あー……今回はオーマのゾンビとはだいぶ毛色が違いますしねぇ。確かに、ちょっと問題になりそうなことを話しそうですね。まぁ、編集をすればいいだけなんですが、さすがにそれをハク姉さんに丸投げしたら大変なことになりそうです」

「躱せるリスクは躱しとけ。で、俺はここの資料をざっと見ただけなんだが、どういうダンジョンなんだ?」

「見ての通り、ビルを模したダンジョンです。それも、ダンジョン特有の理不尽な間取りなどもない、真っ当なものですね。ビルの作りとしては、一般的なオフィスビルです。ただ、階層は地上2階層、地下106階層の計108階層の小中規模ダンジョンです。現状、探索済みとなっているのは37階層までです」


 あれ? なんで階層数が分かって……って、そうか、管理権限は女神様になったからか。手出しできないのは、現場管理者のダンジョンコアのせいってことだな。


 だからダンジョンコアの挿げ替えをするわけだし。


「それじゃ、ダンジョン探索は単調になりそうだなぁ」

「ほぼ同じ間取りのフロアが続きますからねぇ。いるのもゾンビばかりですし。多少のバージョンはありますが」」

「バージョン?」


 ゾンビにバージョンなんてあるのか?


「姉さんは、ダンジョン構築の際、ダンジョンコアはなにを元にそれを行うと思いますか?」

「は?」


 いや、なんの話だ?


 俺たちは屋上からビル内ならぬ、ダンジョンへと入るための金属製の扉を開ける。


 開け、慌てて扉を閉めた。


 臭いが酷い。死臭と腐臭、それに加えてカビ臭さがダメ押しをしている。まともに呼吸をしようものなら、咳き込みえずきかねない。


 俺とサラは今日の為に拵えたガスマスクを装着する。こいつの形状は地球産の代物を模倣したが、中身はオーマの魔法技術の産物だ。


 オーマにもゾンビ対策のための防臭マスクが、工芸系の錬金術師によって造られているからな。


 ……スカウトがてらそれを頼むべく、昨日、かつてのエルフのクライアントに客として顔を出したところ、ちょっとした騒ぎになったが。


 まさか泣かれるとは思わなかった。


※次回は明後日となります。

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